2017年06月14日更新 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の発生報告(更新9)

2017年6月13日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、2017年6月1日から10日にかけて、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者から、新たに死亡者3人を含む中東呼吸器症候群(MERS)の患者35人が報告されました。また、6月6日に報告された患者(No. 5)からも死亡者1人が報告されました。

患者の詳細情報

患者に関する情報は、下記のリンク先から閲覧することができます。
MERS-CoV cases reported between 1 and 10 June 2017[XLS形式:35KB]

新たに報告された患者35人のうち32人は、同時に発生した3つのMERSの集団感染と関係しています。これらの集団感染は、2人の患者が関係していました。3つの集団感染の詳細は、次のとおりです。

集団感染 1

MERSの集団感染は、Riyadh(リヤド州)リヤド市の病院で確認されました。これまでに、発端となる患者(47歳男性、6月1日に報告)を含む32人の患者が、この集団感染と関係していました。このうち、14人には症状がなく、1人が家族内の接触者、7人が患者に接触した医療従事者でした。

集団感染 2

2つ目のMERSの集団感染が、リヤド州リヤド市内の2つ目の病院で発生しています。この集団感染は、1つ目の集団感染と関係があります。2つ目の集団感染の発端となる患者は、1つ目の集団感染の病院の救急救命室を訪れていました。彼に症状はありませんでしたが、その後、2つ目の病院を訪れ、そこで腎臓透析を受けることを繰り返していました。これまでのところ、1つ目の集団感染に関係する患者を含めて、6人がこの集団感染と関係していました。2次的に接触した、家族と医療従事者がいました。

集団感染 3

3つ目のMERSの集団感染が、リヤド州リヤド市内の3つ目の病院で発生しています。これまでのところ、発端となる患者を含めて4人の患者が関係していました。発端となる患者はヒトコブラクダとの接触が報告されています。(患者と)接触のあった医療従事者3人は無症状もしくは軽度の症状でした。

公衆衛生上の取り組み

サウジアラビア保健省は、それぞれの患者とその接触者を評価しながら、さらなる人から人への感染を限定させ、これらの集団感染を制御するための対策を実施しています。これらには、次のような対策が行われています。

  • 診断確定患者全員の適切な隔離を行います。
  • 患者、医療従事者、地域での接触者全員に対する積極的な追跡調査を実施しています。
  • 症状の発現の有無にかかわらず、14日間の潜伏期間中は、すべての患者を常に健康監視下に置き、(感染)リスクの高い接触者を発見し、リスクの高い接触者には検査を実施しています。
  • 患者と接触者との関係リストを定期的に更新し、感染元、人から人への連鎖と、人から人への伝播が生じた原因を特定するために、データの疫学分析を行っています。
  • この病気の診断定義に基づき、患者および医療従事者に対して、感染が疑われる患者を探索しています。
  • 現在、集団感染が発生している又は発生した病棟では、病院内の環境に対して細心の注意を払い、適切に環境を清掃、消毒した上で、感染管理を目的とした清掃、消毒を行い、厳格にその維持を図っています。
  • 呼吸器症状のある患者の早期発見とトリアージ(患者の分類)による適正な記録を行うために、訓練を受けた24/7-看護師(特別に訓練を受けた看護師の名称)を確保し、救急部門と外来部門では呼吸器疾患に対してトリアージを行っています。
  • 早期発見のための診断定義、隔離予防の対策の実施、個人防護服の適切な選択および着脱、手指消毒および環境の清掃と消毒など、これらを医療従事者全員に拡大して訓練を行っています。
  • すべての医療従事者に、確実に、N95マスクの適正な装着(フィット・テスト)検査(の訓練)を経験させています。
  • 手洗い用の消毒剤、個人防護服、表面消毒剤、携帯型HEPAフィルター、消毒薬散布装置などの感染予防用の物品を(直ぐに)使用できるように確保しています。
  • 他国にウイルスを拡散させることを防ぐために、強いて、医療従事者が医師の許可なく旅行することを禁止する政策を実施しています。

ヒトコブラクダとの接触が報告された患者については、ヒトコブラクダに対してもMERS-CoVへの感染の調査が、農業省の職員によって実施されています。

WHOは、2012年9月以降、世界中で少なくとも703人の関連する死亡報告を含めて、検査で確定された2,015人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。

WHOによるリスクアセスメント

MERS-CoVは、致死率が高い重症感染症を引き起こし、人から人への感染力を示してきました。これまでのところ、人から人への感染が見られたのは、主に医療の現場での発生でした。
新たに加えられた患者の事例によって、全体的なリスク評価が変わることはありません。WHOは、中東から新たなMERS-CoV感染患者が報告されることや、動物やその家畜生産物(例えば、ヒトコブラクダとの接触後)もしくは感染源となる人(例えば、医療施設内で)と接触することで感染した可能性のある人々が他の国に感染輸入されることはあり得ると考えています。WHOは、疫学的な状況の監視を続け、入手できる最新の情報に基づいてリスク評価をおこなっています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。
感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS-CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。
食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、この事態に対して入国時に特別なスクリーニング検査を行うことをアドバイスしてはおらず、現在のところ、如何なる渡航や貿易に対しても(これを)適応させることを勧めてはいません。

出典

WHO. Disease outbreak news, Emergencies preparedness, response. 13 June 2017
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia
http://www.who.int/csr/don/13-june-2017-mers-saudi-arabia/en/