記事日付 | 20090313 |
タイトル | ラッサ熱 マリからイギリスへの初輸入例 |
国名 | 英国   |
感染症名 | ラッサ熱 |
概要 | 2009年2月、イギリスにおいて、サーベイランスが開始されてから12例目となるラッサ熱の輸入例が報告された。この患者は、イギリスにおいて、今年2例目の輸入例であり、マリで感染した初めての報告例である。 |
和文 | 2009年2月、イギリスにおいて、サーベイランスが開始されてから12例目となるラッサ熱の輸入例が報告された。この患者は、イギリスにおいて、今年2例目の輸入例であり、マリで感染した初めての報告例である。患者の体液に直接暴露した可能性のある接触者として、117人の医療従事者のリスク評価が実施された。感染のリスクが高いと判断された7名の接触者に対して21日間の観察が実施された。 ○背景 ラッサ熱は、アレナウイルス科のウイルスによる急性疾患であり、病期は1〜3週間である。潜伏期は通常7〜12日であるが、3〜21日間での報告もある。流行地では感染しても約80%は無症状である。入院患者の死亡率は15%〜20%と報告されているが、患者全体での死亡率は1%である。 ラッサウイルスの自然界での宿主は、齧歯類(マストミス属)であり、尿や糞便中にウイルスを排泄する。ウイルスの人への感染は、通常、齧歯類の排泄物に直接接触あるいは間接接触することにより起こる。人-人感染は、血液、唾液、尿、糞便、精液に直接接触することによって起こる。 ラッサ熱は、西アフリカでの流行が知られており、患者の多くはギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアで発生している。西アフリカの農村部に住んでいる人にラッサ熱の感染リスクが高い。イギリスへの輸入例は稀であり、そのほとんどが、流行地で、医療従事者や開発業者のような、高いリスクのある仕事に従事した人に限られる。マリの近隣諸国での流行はあるが、この症例は、マリからイギリスへの初めての輸入例である。 ○事例 2009年2月、20代の男性が、10日間発熱し、熱帯熱マラリアと診断され、治療に反応しなかったため、マリから医療搬送され、University College Hospital in London (UCLH)に入院した。彼は、マリ南部に4週間滞在しており、コートジボワールとの国境に近い遠方の農村部で働いていた。彼は、イギリスからマリの首都バマコに渡航した後、陸路でマリ南部に移動した。齧歯類との接触した可能性についての詳細は不明であるが、ネズミなどの齧歯類は、その村でいつも見られていた。 入院時、彼の意識は清明で、病歴をはっきりと伝えることができた。しかし、病状が急速に悪化し、集中治療部門の室の陰圧室に移されたが、同日遅くに多臓器不全で死亡した。マラリアの血液薄層塗抹標本の検査と迅速抗原検査は陰性であり、同夜、PCR法でラッサ熱と確定診断された。 マリでのラッサ熱の報告がなく、流行しているとは考えられなかったため、この患者は、当初、ラッサ熱のリスクは低いと考えられた。しかし、彼の病状が悪化したので、ラッサ熱の可能性が高まった。標準予防策は実施され、全身防護ではないがバイザー(顔を覆う防護具)は蘇生処置中に使用された。 ○検討 この患者は当初マラリアと診断されたことと、マリがラッサ熱の流行地だと考えられなかったことから、ラッサ熱の診断を下すことが困難であった。それゆえ、初めはラッサ熱のリスクは低いと考えられた。入院後6時間で多臓器不全に至ってから、ラッサ熱の可能性が高いと考えられた。標準予防策は一貫して使用されたが、現在ウイルス性出血熱に推奨されている高度の予防策ではなかった。その結果、76名の病院職員が8時間の間、感染のリスクがある状況に置かれ、リスク評価がカテゴリー3(高いリスク群)とされた7名のうち3名が実験室の職員であった。ラッサ熱の輸入例から医療従事者への感染は非常に稀であるが、接触者の間で、相当な不安が起こりえる。先進国の医療機関における感染例の報告は一例のみであり、これは、ドイツでの無症状の抗体陽転例であった。 本症例は、マリで感染したラッサ熱の初輸入例である。本症例のウイルスは近隣国で分離された株と近縁のものであり、広く使われている診断用PCR法で増幅された。ラッサウイルスがマリで存在するという血清学的証拠はあるが、本症例は輸入例であることが証明された初めての症例であり、この地域から帰国する旅行者に対する現在のリスク評価に影響を及ぼすものである。 |
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