記事日付 | 20090319 |
タイトル | アメリカの旅行者における猿マラリア ? ニューヨーク、2008年 |
国名 | 米国   |
感染症名 | 猿マラリア |
概要 | 最近のアジアからの報告では、5番目の種となるプラスモディウム・ノウレシ(Plasmoduim Knowlesi)が、重要な人畜共通感染症の病原体として新たに発生している可能性が示唆されている。プラスモディウム属の20種類以上の種が人間以外の霊長類に感染することができるが、最近まで、猿のマラリアが人に自然に感染することは、公衆衛生学的に重要視されない稀な事象として見られていた。本報告では、アメリカにおいて数十年間の猿マラリアの輸入例のうち、最初に診断された症例を報告する。フィリピンに渡航したニューヨーク在住の患者で、2008年に診断された。 |
和文 | 赤血球内に寄生するプラスモディウム属原虫のうち、4種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫)が人にマラリアを起こす原虫として知られている。しかし、最近のアジアからの報告では、5番目の種となるプラスモディウム・ノウレシ(Plasmoduim Knowlesi)が、重要な人畜共通感染症の病原体として新たに発生している可能性が示唆されている。プラスモディウム属の20種類以上の種が人間以外の霊長類に感染することができるが、最近まで、猿のマラリアが人に自然に感染することは、公衆衛生学的に重要視されない稀な事象として見られていた。(マラリアの確定検査診断法である)光学顕微鏡検査では、猿のマラリアの多くが、人に感染する4種のマラリアとほとんど区別がつかない。種の決定には、PCR法やマイクロサテライト解析のような分子生物学的技術が必要である。本報告では、アメリカにおいて数十年間の猿マラリアの輸入例のうち、最初に診断された症例を報告する。この症例は、フィリピンに渡航したニューヨーク在住の患者で、2008年に診断された。光学顕微鏡検査で、原虫に非典型的な特徴が見られたことが契機となり、さらに分子生物学的検査が行われ、プラスモディウム・ノウレシの診断が確定した。現在までのところ、猿マラリアはすべて、クロロキン感受性である。アジアまたは南アメリカからアメリカに帰国して発症した渡航者から分離されたマラリア原虫を分子生物学的に分析することで、人における猿マラリア原虫の感染の負荷をより正確に評価することが可能である。 猿マラリアの人への自然感染例は、1965年のプラスモディウム・ノウレシの感染事例が最初であり、東南アジアの任務から帰国した米軍の従業員であった。その後の報告はほとんどなく、確定されていない。2002年、マレーシアの研究者らが、臨床的に重症で、高度の原虫血症を伴う、非典型的な四日熱マラリア症例の増加を報告した。ネスティッドPCR法を用いて、光学顕微鏡で四日熱マラリアと診断された症例のうち50%以上がプラスモディウム・ノウレシであり、四日熱マラリアであったものはなかった。同じ研究者らによって行われた2001〜2006年の後ろ向き調査によって、マレーシアのボルネオ島サラワク州の患者から採取した960検体のうち、28%からプラスモディウム・ノウレシが発見されたが、この多くは、形態学的に四日熱マラリアと診断されていた。その調査グループは、四日熱マラリアによって生じた重症型のマラリアで死亡し、後にPCR法でプラスモディウム・ノウレシであったと確定された4例についても報告している。プラスモディウム・ノウレシの人感染例は、他にも、シンガポール、タイとミャンマーの国境、フィリピン、中国の雲南省で報告されており、マレーシアに旅行したフィンランド人で、当初は熱帯熱マラリアと誤診された事例も報告されている。 ○事例 最近のアメリカの事例は、フィリピンで生まれ、アメリカに25年在住している、マラリア罹患歴のない50歳の女性で、2008年10月17日に、友人や親類を訪ねるためにフィリピンへ渡航した。フィリピンでは、パラワン島の小屋に滞在した。そこはオナガザルの生息地として知られる森林地域の端に位置している。彼女は、この地域への渡航者に推奨されているマラリア予防薬の服用も防蚊対策も行わなかった。この女性は、2008年10月30日に帰国して、頭痛で発症した。発熱と悪寒などの症状が数日間続いたので、医療機関を受診した。救急部門で、低血圧と血小板減少が注目された。マラリアの厚層塗抹および薄層塗抹検査が実施され、当初は、検査技師がバベシア症と誤診した。翌朝、検査部門の監督者によってチェックされ、赤血球の2.9%に、マラリアの寄生が認められると再診断された。しかし、塗抹検査で見られたマラリア原虫が非典型的であったので、種の同定が行えなかった。種が同定できないプラスモディウム属であったために、アトバコン/プログアニル合剤とプリマキンによって治療を受けて、治療は成功した。 マラリアの確定診断と、PCR法による種の分子生物学的な同定を行うために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)含有の血液検体と2枚の塗抹標本が、ニューヨーク州にあるウォズウァース寄生虫検査センターに送られた。ウォズウァースセンターでは、プラスモディウムの異型リングと分裂体を確認したが、rRNA(リボゾームRNA)の小サブユニット(SSU)を標的としている通常のコンベンショナルPCR法では、人に感染することが知られている4種のいずれも陰性であった。東南アジアでよく見られる卵形マラリアの変異体も陰性であった。しかし、プラスモディウム属のSSU rDNAに特異的なプライマーは1,055-bp(塩基配列)のPCR産物が産生され、プラスモディウム・ノウレシのSSU rRNA 遺伝子の全塩基配列と99%一致した。これらの結果から、プラスモディウム・ノウレシの感染と確定された。 |
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