感染症速報詳細

記事日付 20090215
タイトル ロンドンにおけるラッサ熱の死亡例
国名 英国    
感染症名 ラッサ熱
概要 2009年1月、イギリスにおいて7例目のラッサ熱の輸入例が、ロンドンで診断された。患者と接触、あるいは患者の体液に暴露したことにより、ラッサウイルスに直接暴露した可能性のある328人の医療従事者のリスク評価が実施された。感染のリスクが高いと判断された接触者はおらず、二次感染者は発見されなかった。
和文 2009年1月、イギリスにおいて7例目のラッサ熱の輸入例が、ロンドンで診断された。患者と接触、あるいは患者の体液に暴露したことにより、ラッサウイルスに直接暴露した可能性のある328人の医療従事者のリスク評価が実施された。感染のリスクが高いと判断された接触者はおらず、二次感染者は発見されなかった。

背景

ラッサ熱は、アレナウイルス科のラッサウイルスによる急性のウイルス性出血熱である。齧歯類(マストミス属)による動物由来感染症で、尿や糞便中にウイルスを排泄する。この疾患は、西アフリカの多くの国で流行している。

ラッサ熱のヒト−ヒト感染は、発症後あるいは回復期の患者の血液、尿、糞便、唾液、精液といった感染性のある体液との直接接触によるもののみである。ラッサ熱の潜伏期は通常7〜10日であるが、3〜21日間での報告もある。ラッサ熱で入院した者のうち、約15〜20%が死亡するが、感染者全体での死亡率は1%程度である。

ヨーロッパでは、ラッサ熱は、著しい公衆衛生上のリスクではないが、旅行に関連した事例が時折発生する。現在まで、イギリスでの輸入例は、1971年から2003年までに10例あり、このうち1例が死亡しているが、いずれも、シエラレオネあるいはナイジェリアからの輸入例である。医療従事者や他の接触者に感染が拡大した事例はない。

事例

2009年1月8日、66歳の男性が、発熱、下痢、錯乱の症状を呈し、ロンドンのホマートン病院(HUH)に入院した。

彼は、1月6日にナイジェリアのアブジャから航空機でロンドンに戻った。機内で、発熱、不快感、食欲不振、腹痛の症状があった。ヒースロー空港から公共交通機関を利用して東ロンドンの自宅に戻ったが、近隣住民によれば、到着時に発熱と錯乱がみられていたという。

彼は、1月8日にHUHに救急車で搬送され、3日間、発熱、悪寒、昏睡状態、軽度の下痢を呈していた。入院当初、2つの一般病棟で入院治療を受けた。放射線部門に6回行き、腰椎穿刺を行うために手術室に1回行った。旅行関連の感染症(マラリア、レプトスピラ症、デング熱、黄熱など)の検査は陰性であった。1月16日、腸チフスを想定して隔離して管理された。彼はこのとき、失禁状態にあった。

1月22日、彼は、さらに進んだ管理を受けるために、University College Hospitalの感染症病棟に転院し、同夜、Royal Free Hospitalの高度セキュリティ病棟に転院した。この時点で、北東・北中央ロンドン公衆衛生当局に本症例が報告された。
ラッサ熱の診断は1月23日に、ポートンダウンにあるイギリス保健保護庁の検査施設で、RT-PCRによって確定された。血清からラッサウイルスのIgG抗体も検出され、その後、血液と尿の検体からはウイルスが分離された。

患者にはリバビリンの投与が開始され、入院中は隔離されていた。患者の症状は、初めは改善したが、軽度の難聴があった−これは、ラッサ熱の特徴である。集中的な看護・治療が行われたが、基礎疾患の悪化による合併症で1月29日に死亡した。解剖は行われていない。

検討及び結論

ラッサ熱のヒト−ヒト感染のリスクは低い。しかし、ラッサ熱の流行地では、医療行為に関連した感染の発生がみられ、2000年には、無症状であったが、抗体が陽性となったドイツ人医師の事例が報告されている。
ラッサ熱の臨床診断は困難であり、重症のマラリアや腸チフスのような、他によくみられる感染症としばしば鑑別が困難である。この事例では、旅行に関連した感染症の検査がオーダーされた。しかし、診断は、入院の2週間後にようやく確定された。このような遅れは、ラッサ熱の輸入例ではまれではない。アフリカから戻った患者の病歴では、まれな疾患が流行している地方への旅行について慎重に評価しなければならない。ラッサ熱の場合、ナイジェリア、シエラレオネ、リベリアとギニアが含まれる。初期に疑って診断することは、患者の管理の成功に不可欠である。

リバビリンは、アレナウイルス感染症、特にラッサ熱の初期には有効であると示されているが、予防薬としての効果は証明されておらず、この事例では、接触者に対する経口リバビリンの投与は勧奨されなかった。現在の勧告では、感染のリスクが最も高い接触者に限定した使用が提案されている。

血液や他の体液に無防備に暴露されることを防ぐ為に、感染予防策の適切な実施を厳守することは、ラッサ熱の疑いのある患者の安全な管理と、さらなる感染を予防するために必須であり、特にラッサ熱や近縁のウイルス性出血熱症候群では非特異的症状を呈するために重要である。この事例では、HUHのスタッフは、患者がラッサ熱と診断される前から、その診断や感染リスクを認識していなくても、適切な個人防護具(PPE)を使用していたことは賞賛に値する。このことにより、感染のリスクが高いと判断された従事者は出なかった。
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