感染症速報詳細

記事日付 20090505
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 [1] WHO guidance on masks
和文 http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/masks_community/en/index.html
新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスが市中で流行した場合の、暫定的なマスク使用に関するガイダンスである。新たな情報により変更される可能性がある。
背景:現在、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスのヒト-ヒト感染の主な経路は、会話や咳・くしゃみにより排出される、気道からの飛沫感染であることが示唆されている。インフルエンザ様症状(発熱、くしゃみ、咳、鼻漏、悪寒、筋肉痛など)を訴える患者との濃厚な接触(およそ1m)があった全ての場合に、感染の可能性のあるrespiratory droplets(気道からの飛沫物)への曝露のリスクが存在する。医療現場における気道ウイルスの拡散を減少させるための対策を評価した研究において、マスクの使用がインフルエンザの感染伝播を減少させることが示唆されている(2)。医療現場でのマスクの使用の勧告は、適正な使用法の訓練、継続的な供給、適切な処理施設など、その効果に影響を与える追加情報とのセットで行われる。しかし市中においては、特にインフルエンザ類似症状のある患者との濃厚接触が閉鎖空間ではなく、開放された空間で起きた場合、マスクの着用のメリットは確かめられていない。しかし、多くの人々は、例えば家族の看護などで濃厚接触がある場合などに、家庭や職場でのマスク着用を希望するだろう。さらにマスクを着用することで、インフルエンザ類似症状のある個人の口と鼻を被って気道飛沫分泌物の飛散を防ぎ、咳エチケットともなりうる。しかし、マスクの間違った使用は、感染伝播を減らすどころかかえってリスクを増大させてしまう。マスクを使用する場合は、同時にほかの一般的なインフルエンザのヒト-ヒト感染予防策、適切なマスク使用法の訓練と各個人の文化的・個人的価値を考慮することもあわせて実施すべきである。
一般的な勧告:市中では、インフルエンザ感染拡大予防には、以下の一般的な対策の方がより重要であることを、知っておくことが大切である。
健康に問題のないヒトは、
-インフルエンザ類似症状のあるヒトから少なくとも1m離れる
-口や鼻を触らない
-石鹸と水で頻繁に洗って、もしくはアルコール基剤の擦り込み薬(3)を使って手を清潔に保つ(特に口、鼻、汚染された可能性のある表面を触ったとき)
-体調が悪いヒトとなるべく濃厚接触を持たないようにする
-できる限り窓を開放し換気する
インフルエンザ類似症状がある場合
-体調が悪い場合は自宅に待機し、地元の公衆衛生機関の勧告に従う
-健康に問題のないヒトから、できるだけ(少なくとも1m)離れる
-咳やくしゃみのときには、ティッシュなどで鼻や口を塞ぎ、気道分泌物が飛散しないようにする(使用ティッシュなどは直ちに捨てるか洗う) 気道分泌物が付いた手はすぐに洗う
-できる限り部屋の換気を行う
マスクを着用する際、適切な使用と廃棄が効果的な使用と、間違った使用による感染拡大リスク防止に重要
以下は、実際の医療現場から得られた適切なマスク着用法に関する情報である(4)
-マスクが鼻と口をカバーするよう注意を払い、マスクと顔との隙間が最小となるようきっちり着ける
-使用中マスクには触らない
-マスクをはずしたり洗ったりする時などにマスクに触れた場合は、水と石鹸できれいに手を洗うか、アルコール性擦り込み薬を使う
-湿ってきたら、新しい乾いたマスクと取り替える
-使い捨てマスクの再使用はしない
-使い捨てマスクはその都度捨て、はずしたらすぐにゴミ箱に入れる
しばしば標準的な医療用マスクの代わりとなるバリアが使用されている(布製マスク、スカーフ、紙製マスク、鼻と口を被うための布切れなど)が、有効性に関する十分なデータはない。もしこれらの代替マスクを使用する場合は、1回限りの使用もしくは布製マスクであれば使用するたびに徹底的にきれいにする(室温で家庭用洗剤で洗う)必要がある。病人の看護の後は、直ちにはずさなければならない。マスクをはずしたらすぐに手を洗う。
注釈:(1) ここで言う "mask(マスク)" の語は、 homemade(自家製) or improvised (間に合わせ)masks, dust (防塵)masks and surgical masks (外科用 しばしば medical masks 医療用マスクと呼ばれる)などを示している。 マスクには様々なデザインがあり、使い捨てであることが多く、 surgical, dental, medical procedure, isolation, dust or laser masksなどと表示されている。医療現場以外で使用されるマスクの多くは、布・紙またはそれに類似の材料で作られている。マスクの名称や標準は国ごとに異なっている。(2) Jefferson T, Foxlee R, Del Mar C et al. Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses: systematic review. BMJ 2008; 336;77-80.(3) alcohol-based hand rubs(アルコール性擦り込み薬)が設置されており、引火性や誤飲などに十分な注意が払われている場所では、適切な使用(20-30秒間手に擦り込む)が、消毒法として推奨される。(4) Infection prevention and control of epidemic- and pandemic-prone
acute respiratory diseases in health care WHO Interim Guidelines(July 2007)  http://www.who.int/csr/resources/publications/WHO_CD_EPR_2007_6/en/index.html
[2] Distribution of reagents and antivirals (USA)
情報源: Medscape Infectious Diseases 、2009年4月30日。
http://www.medscape.com/viewarticle/702187
The US Centers for Disease Control and Prevention (CDC 米国疾病対策センター) は、H1N1インフルエンザウイルス対策を実施する中で、計画的に国家備蓄された抗ウイルス薬を配布し、全米50州で診断キットを使用可能とした。...4月30日の週までは、H1N1の診断が行えるのはCDCのみであったが、現在ニューヨークとカリフォルニアでもH1N1の診断が可能となっており、5月1日には全ての州にreagent kits(試薬キット)が配布されることになっている。このウイルス株に有効と考えられるワクチンの開発計画も進行中である。現在、製剤メーカーに配布すべく、seed strain(元となるウイルス株)が培養されている。CDCは、2010年度のインフルエンザーシーズンワクチン製造を終了し、H1N1ワクチンの製造に切り替える計画についての議論を行っている。...the University of Michigan School of Public Healthのインフルエンザの専門家は、季節性インフルエンザ同様、H1N1インフルエンザの重症例はすべて抗ウイルス薬で治療すべきとしている。問題は、大流行や汎流行が発生したときに使用できる薬剤量が限られていることであり、今のところ、備蓄でカバーできているに過ぎない。現在検討中の、政府による抗ウイルス薬使用勧告に注目すべきである。製薬会社は増産体制に入っているが、過剰な需要に間に合わない可能性がある。主に高齢者に影響のある季節性インフルエンザとは異なっていると考えられ、どの患者が重症化する可能性があるのか、注意深く対処しなければならないと述べた。
[3] H1N1 in the UK
情報源: BBC News 、2009年5月4日。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/8032697.stm
14歳の少女の豚インフルエンザ感染により、英国で3校目の学校閉鎖が行われた。ロンドンLondonのSouth Hampstead High Schoolに通うこの生徒は、メキシコや米国に一度も旅行することなく豚インフルエンザウイルスに感染した、英国で3人目の患者である。ロンドン南西部の11歳の少女1人と、エアーシアAyrshireの男性1名も豚インフルエンザに感染し、英国で確認された患者の数は18人となった。環境相は、感染流行は当初考えられていたより軽症であるものの、市民には引き続き"play safe(安全に行動する)"よう注意を呼びかけている。...以下、英国内の対応など
[4] On cross protection
情報源:CRA. Inc. Allen Kirchner、2009年5月4日。
ずっと以前からH1N1が含有されてきたワクチンである、季節性インフルエンザ用ワクチンが、新興したH1N1ウイルスに何らかの防護作用を示すのではないかとの疑問が投げかけられている。現在旅行中で原典を明らかにできないが、共通のノイラミニダーゼ抗原による緩和作用について記述したのは、2007年のSandbulteだったと思われる[Cross-reactive neuraminidase antibodies afford partial protection against H5N1 in mice and are present in unexposed humans. Sandbulte MR, Jimenez GS, Boon AC, Smith LR, Treanor JJ, Webby RJ. PLoS Med. 2007. - Mod.CP] 。ノイラミニダーゼ抗原の共通性-今回はN1-により、ノイラミニダーゼ抗原が共通でhemagglutinin抗原が異なる別のインフルエンザ亜型ウイルスに感染したときに、病期の短縮や軽症化が認められることが示唆されている。このことは、H5N1のパンデミック時の、通常の季節性インフルエンザワクチン接種実施を議論する根拠の1つとなっている。また、1957年のH2N2のパンデミックと比較して、1968年のH3N2によるパンデミックでは比較的死亡率が低かったことを説明できるとも考えられている。パンデミック対策に関する講義でも、季節性インフルエンザワクチンを指示する根拠として、これらのデータを用いている。(季節性インフルエンザワクチン接種が)論理的でないことを示す証拠はどこにもない。季節性インフルエンザワクチン接種は、2009年のH1N1ウイルスに対して全く意味がないとする、複数の公衆衛生専門家の意見を目にするが、このようなアドバイスは、short-sighted(先見性がなく)、恐らく間違っているのではないか。
[Mod.CP注-季節性インフルエンザワクチンの生産を中止し、2009年にパンデミックとなる可能性のある、H1N1ウイルス感染に対する免疫付与に適合したワクチンの生産に切り替える決定を出す前に、議論すべき重要な問題である。]
[5] In defense of surveillance
情報源: David Thomson 、2009年5月4日。
原文参照願います
[6] Strain displacement
情報源: National Public Radio 、2009年5月4日。
http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=103711274
生物学者らによると、新興インフルエンザウイルス株は、今後のインフルエンザシーズンにおいても優位ウイルス株となる地位を築く可能性が高い。20世紀中に3回、新たなインフルエンザウイルスが新興し、既存のウイルス株を駆逐した。ワクチンメーカーが毎年のワクチン生産時に微調整だけで済んでいる、感染循環中のウイルスの変異とは、大きく違っている。1年ごとに変化しているウイルス株同志は、いとこ関係にあると考えればよいが、ブタ由来の新興ウイルスはgame-changerとなりうる全くの新顔で、今まで会ったことのない、町の見知らぬ人に例えられると、Vanderbilt's medical schoolの関係者は説明した。...通常の漸次的進化によるものではなく、今回の新たな豚インフルエンザウイルスは"shift"と呼ばれる変化である [shiftの語は通常、antigenic typeの変化を指し示すもので、例えば H1N1 から H2N2に変化した場合などに使用するが、 the 2009 H1N1は依然としてH1N1-type.のままである]。最も有名なshiftは、1917年に出現し1918年にパンデミックの原因となったウイルスである。その後このウイルスは数十年間に渡って、優位ウイルス株となった。そして1957年には他のウイルスに取って代わられ、さらに1968年にももう1度shiftが起きたと、Columbia Universityの関係者は述べた。20世紀には、パンデミックごとに季節性インフルエンザウイルスとして感染循環するウイルスが確立され、次のパンデミックが起きるまで続くという経験則があると、同氏は説明する。shiftがおきると、通常より強いインフルエンザシーズンとなるが、世界人口がこの新しいウイルスに曝露するか、もしくはワクチン接種を受け、1-2年で鎮静化してきた。現在ある疑問は、この新しいH1N1ウイルスの、効率的なヒト-ヒト感染が続くかどうかという点である。もしこのような状態が続くなら、このウイルスは世界を飲み込んで、次の季節性インフルエンザは、このウイルスの子孫となるだろうと述べた。St. Bart's and the Royal London Hospitalの教授は、それでは、このウイルスはどのような形で終焉を迎えるかという点に興味が移ると言う。慎重な楽観論にはいくつかの理由があると述べた。地球上の人口のほとんどはある程度の(ウイルス感染の)記憶を有しており、1978年以来H1N1ウイルスに遭遇し続けているため、ある意味で軽いshiftの1つとなると述べた。保健当局者らがこの新しいウイルスのことをH1N1ウイルスと呼んでいるが、それは現在世界中で感染循環が怒っているウイルスでもある。また興味深い歴史もある。1920年代から1940年代を通じて主要インフルエンザウイルスであったが、新たなウイルスに代わった1957年に姿を消した。そして1977年に突然、再び登場した。一体どこから来たのか?現在では、中国北部もしくはロシア国境の研究機関から偶発的に漏れだしたのではないかと、現在では後方視的に信じられている。当時、研究機関内の全員がこのウイルスを取り扱っていたからである。...同氏は、新興したH1N1ウイルスに感染してもほとんどの人は軽症ですんでいると見ている。その理由として、我々は全て、遠い親戚に当たる1970年代に発生したH1N1ウイルスに曝露しているからだと推論している。(19070年代に研究施設から)逃げ出したウイルスは、今回ブタのウイルスに直面した時には、何らかの恩恵を与えてくれるかも知れないと述べた。これは十分な情報に基づいた推察であるが、完璧な保証ではない。インフルエンザウイルスの中で、従来豚インフルエンザウイルスであったものからのshiftについて学んだことは、それほど安心させるものではない。春に初めて登場したときには、豚インフルエンザ感染は軽症であるが、新たな優位のウイルスとしてその年の秋に戻ったときには、常に大変なインフルエンザの年を引き起こしてきた。これが、医療当局者らがこの新たなウイルスを、非常に注意深く取り扱っている理由の1つである。
[Mod.CP注-この種の推論をあまりに重要視するのは賢明ではない。パンデミックウイルスの動向と、パンデミックに至らないウイルスのそれとの間に、ほとんど一貫性はない。2つのパンデミックウイルス、H1N1とH3N2亜型の子孫は駆逐されておらず、現在も季節性インフルエンザウイルスとして、感染循環が続いている]

原文リンク