感染症速報詳細

記事日付 20090510
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:(19)
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 [1] Triple-reassortant swine flu
Triple-Reassortant Swine Influenza A (H1) in Humans in the United States, 2005-2009
和文 http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0903812
ブタは、鳥インフルエンザ・豚インフルエンザ・ヒトインフルエンザウイルスの混合器として働くとの仮説があり、ヒトでのパンデミックウイルス誕生に重要な役目を果たす可能性がある。最近の、メキシコ・米国などにおける、豚インフルエンザA(H1N1)ウイルスによるヒトでの感染伝播拡大の報告は、これまで言われ続けてきたこの世界の公衆衛生上の脅威を浮かび上がらせた。1930年代から1990年代の間、ブタの間で最も一般的であった豚インフルエンザウイルス--古典的豚インフルエンザウイルスA(H1N1)--は、ほとんど変化を受けなかった。しかし、1990年代の後半になると、複数のstrains and subtypes (H1N1, H3N2, and H1N2)の、triple-reassortant swine influenza(三重再集合豚インフルエンザ) A (H1) viruses --鳥インフルエンザとヒトインフルエンザと豚インフルエンザウイルスの遺伝子部分を併せ持つウイルス--が新興し、北米のブタの集団では優位となっていった。1931年までは、ブタでのインフルエンザウイルス感染は、発熱性呼吸器疾患として確認されていた。インフルエンザウイルスがヒトの病原体として認識される3年前のことであった。古典的豚インフルエンザウイルスは、北米のブタの間で地方病感染となっている。1970年代以降の米国では、豚インフルエンザウイルス感染によるヒトでの集団発生が、散発的に報告されていた。世界中で過去35年間に、ヒトの豚インフルエンザウイルス感染が50例以上報告されているが、そのほとんどが古典的豚インフルエンザウイルス感染によるものである。また血清学的調査から、ブタに曝露しやすい職業の就労者は感染リスクが高いことが示唆されている。今回の、ブタ由来で古典的豚インフルエンザウイルスによる疾患である、インフルエンザA(H1N1)の感染流行では、7人の死者が含まれており、それまで健康に問題のなかったヒトにも、(妊娠を含む)基礎疾患のあるヒトでも死亡が発生していることが報告されている。ヒトの古典的豚インフルエンザウイルス感染による症状 Signs and symptoms は、ヒト・インフルエンザウイルス感染としばしば混同される。2009年4月まで、ごく限られた範囲内で発生し継続しない、豚インフルエンザウイルスのヒト-ヒト感染が報告されていたのみであった。米国以外では、2件のtriple-reassortant swine influenza A (H1) viruses (いずれもsubtype H3N2)によるヒトでの感染症例が報告されていた。2005年以前、the Centers for Disease Control and Prevention (CDC 米・疾病対策センター) が報告を受けた古典的豚インフルエンザウイルス感染の患者は、年間1-2名であった。CDCによると、米国で最初のtriple-reassortant swine influenza A (H1) virusesが確認されたのは、2005年12月である。2007年6月、ヒトが新型インフルエンザAウイルス(動物由来のウイルスを含む)に感染した場合は、米国内の届出義務のある疾患に分類された。2005年12月から2009年2月までの間に、CDCに報告された11例のtriple-reassortant swine influenza A(H1) viruses感染患者のうち、8例が2007年6月以降に発生している。本報告では、2005年12月から2009年2月までに米国内で報告された11例の患者の、疫学および臨床的特徴を明らかにする。2009年1月にサウスダコタSouth Dakota州で新たなtriple-reassortant swine influenza A (H1) viruses が確認されたが、患者の血清学的調査や患者の接触者の最終報告が出ていないため、ここでは触れられていない。
要約:(背景)1990年代後半、Triple-reassortant swine influenza A (H1) viruses(前述)が新興し、北米のブタの集団で地方病感染となっている。(方法)2005年12月から、今回のヒトでのブタ由来インフルエンザA(H1N1)感染発生直前の2009年2月までの間に発生した、11例のヒトのtriple-reassortant swine influenza A (H1) viruses感染症例の臨床像について報告した。国内インフルエンザサーベイランス報告と、公衆衛生と動物衛生当局の共同症例調査のデータに基づくものである。(結果)11人の患者の平均年齢は10才(生後16ヶ月から48才)、4人に基礎疾患があり、9人にブタへの曝露歴(5人は直接の接触、4人はブタのいる場所を訪れたが直接接触していない)が認められた。残る1人はヒト-ヒト感染が疑われている。分かっている最も新しい接触から発症までの潜伏期間は3から9日間、臨床症状のあった10人の症状は、fever (90%), cough (100%), headache (60%), and diarrhea (30%)であった。4人の患者で血算検査が行われており、2人に白血球減少、1人にリンパ球減少、別の1人に血小板減少が認められた。4人が入院となり、うち2人は侵襲的な人工呼吸が行われた。4人にoseltamivirが投与され、11人全員が回復している。
結語:2005年12月以降今回のブタ由来のインフルエンザウイルス感染流行発生までに、米国でブタとの接触のある人々の間で、 triple-reassortant swine influenza A (H1) ウイルス感染が散発的に発生した。患者は全て回復したが、それまで健康であった人の中にも、一部の患者で、重症の下気道疾患や、下痢などの通常見られないインフルエンザ症状が認められた。
[2] Emergence of novel strain
Emergence of a Novel Swine-Origin Influenza A (H1N1) Virus in Humans
情報源: The New England Journal of Medicine、2009年5月7日。http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0903810
導入:ヒト・ブタ・鳥のインフルエンザAウイルスの遺伝子の一部を併せ持った、Triple-reassortant swine influenza virusesが、1998年以降の米国のブタで確認されており、2005年から2009年の間に、このウイルスに感染した12例の患者が確認されている。2009年4月15日と17日、the Centers for Disease Control and Prevention(CDC) に、これまでヒトおよびブタのインフルエンザAウイルスとして確認されたことがない、特殊な遺伝子部分を併せ持ったブタ由来のインフルエンザA(H1N1)ウイルス(S-OIV)に感染した2例の患者が報告された。2009年5月5日現在、これと同じ新型ウイルスに感染した患者が、メキシコ、カナダ、およびその他の地域で確認されている。米国で同ウイルスに感染したことが初めて確認された643人について報告する。
要約:(背景)上記導入部分に同じ(方法)サブタイプ分けしない、米国内のヒトでのインフルエンザAウイルス感染サーベイランスの強化を行った。検体をCDCに送付し、real-time reverse-transcriptasepolymerase-chain-reaction(rt-RT-PCR)法による、S-OIV確認検査を行った。(結果)2009年4月15日から5月5日の間に、41州で合計642人のS-OIV感染患者が確認された。患者の年齢は、生後3ヶ月から81才までであった:患者の60%が18歳以下であった。データの得られた患者の中で、18%が最近メキシコへの渡航があり、16%は学校内でのS-OIV感染流行による患者であった。最も多く見られた症状は発熱(94%)、咳(92%)、咽頭痛(66%)であった:患者の25%に下痢、25%に嘔吐が認められた。入院の有無についての情報が得られた399人の患者の中で、36人(9%)が入院を必要とした。データが得られた22人の患者中、12人は、季節性インフルエンザの重症化と同じリスク背景を持っており、11人が肺炎を発症し、8人が集中治療室への入院を必要とし、4人は呼吸不全の状態となり、2人が死亡した。S-OIVは、これまで確認されたことがない、特殊な(unique)遺伝子の組み合わせであることが分かった。(結語)新型の、ブタ由来のインフルエンザAウイルスが確認され、自然治癒例から重症化した例まで認められた、発熱性呼吸器感染症の感染流行の原因であることが判明した。感染症例数は、確認された患者数より多いものと考えられる。

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