感染症速報詳細

記事日付 20090507
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:(13)
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 [1] Diversity of H1 viruses in pigs in China Part 1.
Detection and differentiation of H1 subtype swine influenza viruses plus the diversity of the influenza viruses circulating in pigs in China(中国のブタで感染循環するH1亜型豚インフルエンザウイルスについて)
和文 背景:GenBankのBLAST研究から得られた証拠と系統発生解析から、ヒトの間で感染拡大が見られている現在のA(H1N1)ウイルスの8つの遺伝子分節はすべて、H1N1 subtype swine influenza viruses由来と考えられ(1, 2, 3)、カナダでブタが感染し発病したウイルスであったことが確認されている(3)。このことから、北米のどこかのブタの集団に由来し、場所は特定できないものの、今も北米の一部のブタに感染が続いている可能性がある。よって、ブタの間に感染循環するH1亜型豚インフルエンザウイルスを検出し同定することは、リスク解析の上でもパンデミック対策の上でも非常に重要である。しかし、ブタにおけるH1亜型インフルエンザウイルスの多様性は複雑であるため、ブタのウイルスを検出し同定するための単一の病理学的手法をデザインすることは困難である。現在、ブタのウイルスを検出・同定する方法に関する報告はなく、この方面について、ProMED-mailのrapid communicationを通じて先進的情報を共有し、ブタの病理学的サーベイランスに資することは重要である。
2. Genetic diversity of H1 subtype influenza virus
世界のブタの間で感染循環のある、H1亜型豚インフルエンザウイルスには、大きく3つのclustersがあり、新たに提唱されているインフルエンザウイルス命名法(universal numeral nomenclature system for all influenza viruses)によって、h1.3.2, h1.1.3 and h1.2.5と呼ばれている。これらはそれぞれ、 classical, avian-like and human-like swine influenza virusesに当たる。時にthe cluster h1.1.3 は、この中のほとんど全てのウイルスが欧州とアジアで分離されていることから、the Eurasian lineage と呼ばれる。1930-40年代に世界中で感染循環した豚インフルエンザウイルスに相当する、もう1つのcluster, h1.3.1は、ほとんどが姿を消した。ウイルスのHA遺伝子配列を見ると、現在ヒトでの感染が拡大しつつあるA(H1N1) swine influenza virus[以下、新型A(H1N1)ウイルスと略す]はthe cluster of h1.3.2 (classical) で、1999年以降北米で分離されているウイルス株の一部と、高い相同性を有している (1, 3)。 N1 subtype swine influenza virusesについては、ブタの間で感染循環するウイルスには大きく2種類のclusters があり、前述の命名法によりn1.3.2 and n1.1.7 と呼ばれている。それぞれ、 classical と avian-like (Eurasian) swine influenza virusesに当たる(3)。このウイルスのHA gene[の事情]は別として、"新型A(H1N1)ウイルス"は、n1.1.7 (avian-like) に属し、過去に分離されているEurasian strains と少なくとも2種類の North American strainsと高い相同性を有している。"新型A(H1N1)ウイルス"の、HA segmentを含めた6つの遺伝子分節は、間違いなくh1.3.2 (classical) swine influenza viruses由来であり、残りの2 分節(NA and M)は、 h1.1.3 (avian-like) swine influenza virusesに由来すると考えられている。これらのウイルス以外にも、しばしばヒトや鳥インフルエンザウイルスがブタから分離されている。
3. Detection and differentiation of H1 swine influenza viruses circulating in pigs
中国の5人の動物インフルエンザの専門家らとともに、the detection and differentiation of swine influenza virusesに関し、以下の3つの点で意見の一致を見た。
第1点目は、a common upper primerと 2 differentiation down primers (1つは全てのH1 swine influenza viruses、もう1つは the current A(H1N1) swine influenza virus spreading in humansに対する)を用いたsingle RT-PCR systemによって、H1亜型に属する豚インフルエンザウイルスの全clastersのHA遺伝子と、"新型A(H1N1)ウイルス"のHA遺伝子を同定できることである。これらのsequencesを以下に示す
H1S-3: 5'-TAAGCAAAAGCAGGGGAAAATAAAA-3'
H1R-1143: 5'-TGGTGATAACC(G/A)TACCATCCATCT-3'
H1Rm-610: 5'-CACGAGGACTTCTTTCCCTTTATCAT-3'
The putative positive amplicons of the pair(H1S-3 and H1R-1143)は全長1143bpで、抗原性・病原性・宿主親和性の解析に重要な、HA1ドメインをカバーする。The putative positive amplicons of the pair(H1S-3 and H1m-610)は全長610bpである。
第2点目は、ウイルスのNA遺伝子同定が、"新型A(H1N1)ウイルス"との相同性の判定に重要である点で、専門家らが合意していることで、前述の方法でウイルスのHA遺伝子が同定され、疑わしい検体が得られれば、以下のプライマー使って、ウイルスの増幅とNA遺伝子の解析が可能である。
NAS-5A 5'-GCAAAAGCAGGAGTTTAAAATGAA-3'
NAR-1108A 5'-GTTCTCCCTATCCAAACACCAT-3'
第3点目は、中国のブタから分離されたいずれのH1亜型豚インフルエンザウイルスのHA遺伝子とNA遺伝子の塩基配列も、分子疫学的解析およびリスク評価の上で重要であることを、専門家らは認めている点である。従って、疑わしい検体中の"新型A(H1N1)ウイルス"相同NA遺伝子同定のために、ペアのプライマーをデザインすることに、あまり意味はない。BLAST [searches] in GenBankからの前述のプライマーや、いくつかのprimer-design software toolsの質や特異性を評価することは難しいことではない。要望があれば関連する評価材料も利用できる。これらのプライマーをもとにしたキットもまもなく市販されるだろう。現在、subtype H1 swineの同定と鑑別のための別のキットが認可されており、ウイルスのHA遺伝子同定に以下のプライマーが用いられている
H1-762U: 5'-TATCAACAATAAGAA-3'
H1-762L: 5'-CAAACATCCAGAAGA-3'
H1-292U: 5'-CATTAATGATAAAGG-3'
H1-292 L: 5'-TCCAGCATTTCTTTC-3'
The pair H1-762U and H1-762L は、全H1 subtype swine influenza viruses (the amplicon is 762 bp in length)の検出目的にデザインされ、the pair H1-292U and H1-292Lは"新型A(H1N1)ウイルス" (the amplicon is 292 bp in length)の検出を目的にデザインされた。このキットには、ウイルスのconserved matrix geneを検出するためのペアのスクリーニングプライマーも含まれていて、検体中に何らかの亜型のウイルスが含まれているかどうかのチェックもできるようになっている。...さらに、キットの説明続く(原文参照願います)
4. The diversity of the influenza viruses circulating in pigs in China
国内外の人々は、中国国内のブタで感染循環するインフルエンザウイルスの多様性に興味を持っている。過去10年間の多くの関連文献(ほとんどが中国語)によると、中国で感染循環するインフルエンザウイルスのほとんどは、H1N1 (cluster: h1.3.2 or classical) と H3N2 (cluster: h3.1.5) swine influenza viruses であった。cluster h1.1.3 (avian-like) がブタから検出されたのは、中国では、2007年の上海と浙江省だけである。一方、H9N2 subtype avian influenza virusesがブタから検出されたことが、少なくとも2003年以後には、中国の複数の研究グループから報告されている。H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスがブタから検出されたのは、中国では2005年に1度だけで、中国政府が家禽へのH5亜型ワクチン接種を義務づけた後は、検出されていない。ヒトのH3N21およびH1N1亜型インフルエンザウイルスも、少数の中国のブタから検出されている。その上、異なる起源を持つこれらのインフルエンザウイルスの遺伝子部分の再集合も、中国のブタで比較的頻繁に起きていることが示唆されており、re-assortment(再集合) subtype (H1N2) 豚インフルエンザウイルスも、2004年以降に複数のグループが分離している。"新型A(H1N1)ウイルス" は、非常に限られた地域に莫大な人口を抱える中国にとって、非常に危険なウイルスである。もし中国で蔓延すれば、感染流行の有病率と致死率は、メキシコと同程度の高率となる可能性がある。両国とも途上国であり、感染の結果、中国で多数の若者が死亡する可能性がある。このため、中国にとって、国内への感染拡大防止のため、 International Health Regulations and the Code of the World Organisation for Animal Health (OIE)に従った、いくつも厳戒態勢を取ることには、合理性がある。
参考文献
1. Swine Influenza A(H1N1) infection in 2 children--Southern California, March-April 2009. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009 Apr 24;58(15):400-2.
2. ProMED-mail. Influenza A (H1N1) - worldwide, ProMED-mail 2009; 30 Apr: 20090430.1636.  Accessed 4 May 2009.
3. Panorama phylogenetic diversity and distribution of Type A influenza virus. PLoS ONE. 2009;4(3):e5022.
4. ProMED-mail. Influenza A (H1N1): animal health (04), infected swine, Canada, ProMED-mail 2009; 2 May: 20090502.1653.  Accessed 4 May 2009.
5. Genetic evolution of swine influenza A (H3N2) viruses in China from 1970 to 2006. J Clin Microbiol. 2008 Mar;46(3):1067-75.
6. Genetic characterization of novel reassortant H1N2 influenza A viruses isolated from pigs in southeastern China. Arch Virol. 2006 Nov;151(11):2289-99.
[2] Diversity of H1 viruses in pigs in China
Part 2. Detection and differentiation of H1 swine influenza
検査法の詳細など、原文参照願います
[3] Role of bacterial infection(細菌感染の果たす役割)
投稿者:米・Univ of MD School of Medicine Baltimore,Maria Salvato, PhD、2009年5月6日。
これまでのProMED-mailの"swine flu" に関する記事は、"viro-centric(ウイルス中心的)"、すなわち全ての事象をインフルエンザの性にし過ぎて、co-infections共感染に関する推察を十分に行っていないと感じられる。3つの点で、the "flu" fatalities (インフルエンザによるとされる死者)が、細菌感染の重複による死亡であった可能性が高い。1点目は、インフルエンザ様症状のある患者のBaylor (Ramilio et al, Blood, 2007)profilingからの研究で、死者の30%以上に、細菌とインフルエンザの共感染が存在したことが示されている。診断の不備も考慮すれば、共感染は30%以上、90%に達する可能性もある。2点目に、メキシコの初発患者は重症化した1名の幼ない男児であったが、医師は(通常細菌感染の治療に用いられる)抗生物質を処方し、この男児は生存している。抗生物質開始後2日目に回復したことから、インフルエンザ感染に加え、細菌感染が合ったことが示唆される。3点目として、メキシコで初期に発生した死者の1人は40歳代の糖尿病患者であった点である。肺生検ではインフルエンザが認められた。この女性の周囲にいた数人に呼吸器疾患があったが、インフルエンザ陽性者は1人もいなかった。これは、この女性もインフルエンザと細菌の双方に感染したため、死につながったことを意味する。インフルエンザ感染により呼吸器の細菌感染が起きやすく、その逆も同様であることは、よく知られている。インフルエンザ関連死亡に対応するため、医師はもっと抗生物質を処方すべきである。しかし、抗生物質は高価であり、過剰使用は危険であるため、ウイルスと細菌感染の鑑別診断が必要である。すでにFDA認可の妊娠検査薬タイプの診断キット[produced by Rapid Pathogen Screening (RPS), Inc.]があり、結膜炎が細菌性かウイルス性かを患者の涙で診断することができる( ウイルスあるいは細菌感染で起きる早期の個体反応物質であるMxAとC-reactive proteinsに対する抗体を用いる)。分子生物学で、感染循環中のH3N2ウイルスでも、H1N1ウイルス同様の変化が認められていることは、私には当然に見える。現在の診断法は貧弱で、H1N1が、H3N2や他のウイルス、細菌、共感染のいずれにも診断される可能性がある点が最も責められるべき点である。host-response diagnosticsの開発により多くの資金を費やすべきであり、急性ウイルス感染症と急性細菌感染症を鑑別することが可能なhost proteins は、約100種類あることが分かっている。血漿中のこれらのタンパクの出現は、軽症例と重症例を鑑別することを可能にする、1番早い反応物質である。
[Mod.DK注-抗生物質の使用は、細菌感染が疑われる場合に限って使用されるべきである。適切な抗生物質の使用、例えば肺炎球菌ではなく、ブドウ球菌性肺炎が疑われるのであれば、抗ブドウ球菌薬を用いることも重要である。例えば、1957年のパンデミック時には、二次性細菌性肺炎の原因として、黄色ブドウ球菌は肺炎球菌に次ぐ2番目であったが、その他の多くの病原体もまた二次性細菌性肺炎の原因となった。ここで議論されてきた論点の1つは、パンデミックが発生したときには、抗ウイルス薬だけでなく、適切な抗生物質使用も必要であることにある。米国内の感染症専門家の多くが、そのような供給体制にないことと、不適切な抗生物質使用の先には、新たな細菌の薬剤耐性への対処が待ち受けていることを懸念している]

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