感染症速報詳細

記事日付 20090524
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:(42)
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 [1] H1N1 origins
Origins of the New H1N1 Flu Virus
和文 http://www.aaas.org/news/releases/2009/0522us_H1N1_flu_origin.shtml
50以上の新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス検体の遺伝子配列を解析した研究者らは、このウイルスが、最も近縁のウイルスとも関係が薄い(distantly related 遠い親戚関係にある )ことを見いだした。このことから、今後、ブタの集団において、インフルエンザウイルスの新興を注意深く観察する必要がある。Rebecca Gartenらは、メキシコおよび米国で分離された2009 A (H1N1) virusesの全部または一部の遺伝子配列を解析した。このウイルスの8つの遺伝子分節gene segmentsの由来を突き止め、これらのウイルスは、これまでに、ブタのインフルエンザウイルスでも、ヒトのインフルエンザウイルスでも報告されたことがない、gene segmentsの組み合わせであることが分かった。全てのインフルエンザのsegmentsは、トリを宿主とするウイルスに由来し、その後、1918年から1998年に至るまでの過去の歴史の中で、ブタの間で感染循環をはじめた。8つのsegmetsの中の6つが、およそ1998年頃から北米とアジアを感染循環していた、3重の再集合ブタウイルス(互いの遺伝子部分の交換を行うウイルスの性質により、ヒト、トリ、ブタからの遺伝子部分を包含する)に由来している。残る2つのsegmentsは、Eurasian swine virusesから生成されていた。遺伝子のsegmentsの塩基配列解析から、他のインフルエンザAウイルスに見られるような、強い感染力や毒性の痕跡は認められていない。他のまだ解析されていない塩基配列部分が、今回の新型ウイルスの、ヒトでの増殖・伝播能力を担っている。研究者らはさらに、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの、宿主細胞への結合と感染に与る、ヘマグルチニンタンパクに注目している。フェレットの抗体が、このタンパクにどのような作用を及ぼすかを調べた試験管内の実験では、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス株は、他の豚インフルエンザA(H1N1)ウイルスと同等の抗原特性を有しているものの、季節性ヒトインフルエンザとは異なっていた。今後、新型ウイルスのヘマグルチニンタンパクについて、ワクチン候補の選択にも影響するため、引き続きその変化を観察する必要があると、筆者は述べている。
[2] Antigenic & genetic characteristics
Antigenic and Genetic Characteristics of Swine-Origin 2009 A (H1N1) Influenza Viruses Circulating in Humans
情報源: SciencXpress、2009年5月22日。
http://www.sciencemag.org/cgi/gca?sendit.x=67&sendit.y=8&sendit=Get+all+checked+abstract%28s%29&gca=1176225v1
要約 2009年4月に、北米と欧州の豚インフルエンザ系統由来の特徴的な遺伝子分節の組み合わせを有する、新型のA(H1N1)ウイルスが確認されて以来、ヒトの間での感染循環が続いている。 the 2009 A (H1N1) virus とその最も近い関係にある親戚(近縁株)との間に、ほとんど相同性が見られないことから、この遺伝子分節をもつウイルスは、かなり長期間にわたって、気づかれないまま感染循環を続けていたことが示唆されている。その遺伝的多様性の低さから、ヒトへの導入は単一のイベント、もしくは同一ウイルスによる複数回の事象であったと考えられる。ヒトへの適応を予測する分子学的マーカーは、現在のところ2009 A(H1N1) viruses内には存在しないことから、これまで認識されていない、分子学的決定因子によって、ヒトの間での感染循環が生じていると考えられる。現在のthe novel 2009 H1N1 strain の分離株は、抗原的には同一homogeneousであるが、現在の季節性インフルエンザウイルス株とは異なっている。
[3] Antigenic & genetic characteristics
Genetic study: Novel H1N1 likely originated in pigs
情報源: CIDRAP NEWS、2009年5月22日。http://www.cidrap.umn.edu/cidrap/content/influenza/swineflu/news/may2209genetics.html
米国CDCの当局者らは22日、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに関する初めての包括的解析結果を公表した;サーベイランスが抜けていた地域のブタで発生したとする、その由来を明らかにした。Scienceのオンライン版で、新型インフルエンザウイルスの抗原性と遺伝学的特徴に関する研究が22日公表され、世界中で60人近い研究者らがこの調査に協力した。メキシコの17検体と米国の12の州の59検体からなる、76検体の新型インフルエンザA(H1N1)の全てもしくは一部の遺伝子の解析を行った。...the 8 genetic components of the new virusのそれぞれは、ブタで見つかっているインフルエンザウイルスに非常に似ており、新型インフルエンザA(H1N1)は、ブタ由来である可能性が高いと、CDCの当局者は説明しながらも、ヒトがブタから直接感染したのか、それとも中間宿主を介した感染であるかは分からないとした。今回の研究によって、ブタが重要な保有動物であることが、改めて確認された。世界中でより組織的なブタのサーベイランスが必要であることが示されたと述べた。これまで得られたデータに基づいて、研究者らは、この新型ウイルスに中間宿主が介在したとの仮説は立てていない。今言えることは、遺伝上の最も近い祖先gene progenitorsがブタの間で感染循環しているということだと説明した。研究者らは、再集合が発生し、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスが誕生した経緯や場所に関し、様々なシナリオを報告している。しかしその中で、この新型ウイルスが系統樹のなかで長い枝の先にあることから、これまでに塩基配列が解析されているウイルス株と遠い関係にあることが示唆されており、それは何年にも渡ってこの新型インフルエンザの由来宿主に関するサーベイランスが行われていなかったことを露わにする結果となった。これまでに解析が行われたウイルスの検体間で、高度の遺伝学的均一性が認められることから、種を超えたヒトへの導入は、単一のイベントか、もしくは非常に似たウイルスが何度も導入されたことを示唆していると、研究グループは述べている。このウイルスの、ヒトでの増殖・感染伝播を可能にした因子については解明されていないが、1918年のH1N1ウイルスやH5N1ウイルスのような、他のウイルスで確認されている適応や感染伝播を規定するマーカーは見つかっていない。この新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの検体を解析する中で、研究グループは抗原特性の特徴についても分析を行っている。研究者らによると、このウイルスは非常に均一で、季節性インフルエンザウイルスより、ずっとvariability(可変性)やdriftが少ない。このことで、標準のワクチン株ウイルスreference vaccine virusを作成する作業が、かなり楽になると述べた。ブタのインフルエンザウイルスは、ゆっくりしたスピードで変異していて、これは動物の寿命がそれほど長くなく、何度も感染することがないためだと考えられると話した。しかし、ヒトでの感染循環が起きている現在、季節性インフルエンザウイルス同様、新型ウイルスも変異し始めるのではないかと警鐘を鳴らしている。CDCのAnne Schuchat, MDは、今回の研究結果は、動物とヒトの衛生の専門家らが、より密接に情報交換を行い、共同で調査を行う必要性がはっきりしたと述べた。...University of Minnesotaの豚インフルエンザの専門家であるMarie Gramer, DVM, PhDは、協力や資金の問題で、豚インフルエンザのサーベイランスが公式に行われていない現状を指摘している。同氏によると、ヒトとブタのhealth communities(衛生学会?)間には緊張関係があり、一部の獣医関係者らは、CDCやWHOが、全てのパンデミックはブタか家禽が原因であると常に扇動し、家畜産業を痛めつけていることがその要因であると考えている。インフルエンザの噂によって経済的に翻弄される家畜産業界に、飼育する動物衛生問題すべてのサーベイランスのための資金や研究を期待するのは、現実的ではないとし、"インフルエンザウイルスは、ヒトにも動物にも等しく関係があり、バラバラにではなく、協力してサーベイランスを行うべきだ"と述べた。
[Mod.CP注-以上の見解から、以前のもっと限られた範囲での解析から導かれていた結論が再確認され、2009年の新型豚インフルエンザA(H1N1)ウイルス[*原文のavianは間違い?}は、これまでに分離されていたヒトのA(H1N1)インフルエンザウイルスと、近い関係にはないことが確かめられた。このことは、(新型ウイルスの)遺伝子は、長い間気づかれずに感染循環していたことを示唆する。2009年のウイルスが遺伝学的に比較的均一であることは、ヒトの集団での発生が、元を辿れば単一のイベントに由来すると考えられるが、データによって、正確な起源や中間宿主の存在の可能性を指し示すには至っていない。抗原性の面では、2009年のウイルス分離株は均一性があり、現在感染循環する季節性H1N1ウイルス株とは異なっている。このことは、発生中のパンデミック封じ込めには、新型インフルエンザA(H1N1)ワクチンが必要であることを意味する。しかしながら、分離株が均一であることで、ワクチン株候補を選択し、適切な新型インフルエンザA(H1N1)ワクチンを迅速に開発・製造する作業が単純化される。]

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