感染症速報詳細

記事日付 20090619
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:(67) 1918ウイルスに関するコメント
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 質問 1918年パンデミックでは、ウイルスの変異により、その年の秋に感染状況が悪化したというのは本当か
和文 1918年のパンデミックでは、変異によって、その年の秋に感染状況が悪化したというコメントがくり返されているが、そのウイルス学的根拠を示せる方がいるのだろうか?北極で掘り出された遺体では、そのような詳しいレベルの情報は得られなかったと記憶している。20090617.2235でも述べられていた。...
[Mod.EP注-このコメントは死亡率のデータに基づくものと考える。N Engl J Med. 2009 May 7: The Signature Features of Influenza Pandemics -- Implications for Policy http://content.nejm.org/cgi/content/short/360/25/2595 には、全体の死亡率に占めるインフルエンザによる死亡のグラフがあり、1918年パンデミックのコペンハーゲンCopenhagenのデータでは、インフルエンザによる全死亡の割合は、7月に5%であったのが、11月には60%に増加している。このことから、第2波においてより強毒性のウイルスが出現したと解釈でき、納得できる仮説だと思われる]
[Mod.DK注-死亡に関するデータはよく知られていた。強毒性ウイルスの出現以外にも、この違いを説明する方法はいくつもあると思われる。感染した人口集団の違い、冬期の肺炎球菌やブドウ球菌の感染循環増加、他の病原体ウイルスの増加、高密度で低温の大気とともに、より毒性が強く大量のウイルスの吸入などがある]
[Mod.TY注-1918-19年のパンデミックの時期の分離株の、遺伝学分析は不可能であることから、driftやmutationについての評価も不可能である。残された評価方法は、毒性を表す唯一の指数と考えられる、臨床症状の重症度と致死率の変化である。それらのデータが、現在入手でき、信頼性があり、二次性細菌性肺感染を除外できるかについては、確かではない]
[Mod.LL注- これまでに調査が行われた、Frankenstein (reanimated:フランケンシュタインのように蘇った) 1918 virusesについて、 春のウイルスから秋のウイルスになるまでの、phenotypic(表現型)やgenotypic(遺伝型)の変化に関するデータはない]
[Mod.CP注-1918インフルエンザの犠牲者の、固定・冷凍肺組織から得られた、完全な1918インフルエンザウイルスの遺伝子塩基配列情報が入手できることから、このパンデミックウイルスの8分節全てを、リバースジェネティックスreverse geneticsの手法で再生することが可能である。これにより、極めて強毒性であったその特性の研究が可能となる。現在の人インフルエンザH1N1ウイルスと異なり、1918パンデミックウイルスは、トリプシンTrypsinなしで増殖することが可能なため、マウスや有精卵を死に至らしめ、ヒトの気管上皮細胞での高成長という表現型が示された(Characterization of the Reconstructed 1918 Spanish Influenza Pandemic Virus. Science. 2005, Oct 7; 310(5745): 77-80; abstract  http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/310/5745/77 )。この1918ウイルスの塩基配列は、aggregated material(塊)から抽出されたもので、生物学的なクローンウイルス株からではないと考えられる。知りうる限りでは、パンデミックの流行中に、時間を隔てて採取された遺伝子塩基配列情報はなく、実際に人インフルエンザウイルスが初めて分離されたのは、ようやく1930年代になってからのことである。RNA遺伝子を持つウイルスには、元来高い変異能力が備わっていることを除いても、単一のパンデミック発生期間中に、特異的な遺伝学的変化が、毒性変化の原因であるとはっきり言うことは、とても難しい作業である]

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