感染症速報詳細

記事日付 20090619
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:(68) 南半球
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 [1] ブラジル - new strain discounted CDCは認めていない
和文 http://www.cidrap.umn.edu/cidrap/content/influenza/swineflu/news/jun1709flustrain.html
The Centers for Disease Control and Prevention (CDC)、その他の専門家らは、ブラジルの患者において、新たな新型[2009 swine-origin] H1N1 influenza virus株が確認されたとの報告を受理(承認)しなかった。サンパウロSao Pauloの研究機関の研究者らが、すでに回復している国内の患者1名から、新たなウイルス株を検出したと、同研究所とAFPの情報として報道されていた[20090617.2235]。この分離されたウイルス株のヘマグルチニンhemagglutinin (HA)遺伝子の内部の、"核酸とアミノ酸配列に明らかな変化がいくつも見られた"と述べられていた。しかし、米・アトランタAtlantaのCDCの広報担当者は、"CDCは新型インフルエンザA(H1N1)の新たなウイルス株の情報を得ていない"と述べ、このウイルスが新たな株だとする報告を否定した(discounted)。...Virology Blogを掲載するコロンビアColumbia大学のウイルス学者も、A/Sao Paulo/1454/H1N1のHAタンパクのアミノ酸配列と、現在のパンデミックウイルスを比較して、変化はないとし、数カ所で見られる、他の2009 H1N1ウイルス株とのいくつかのアミノ酸の違いは、抗原性や宿主の範囲に影響ないと考えられると、Blogの中に書かれている。このウイルスは、メキシコへの旅行から帰国後すぐに発病した、26才のサンパウロの男性患者から採取された。4月24日に入院したが、その後回復している。
[2] 南半球の活動性 Southern hemisphere activity
Influenza A (H1N1) virus activity in the Southern Hemisphere - Lessons to learn for Europe? : The European Centre for Disease Prevention and Control, Stockholm, Sweden
情報源: Eurosurveillance, Volume 14, Issue 24, 18 Jun 2009 、2009年6月18日。
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19246
熱帯を除くと、インフルエンザ感染の活動性は、緯度に依存する季節性変動があるが、経度には影響されない。この季節性に関係する因子については、完全に理解されているわけではないが、indoor crowding(室内の密集度), lower temperatures(気温の低下)、decreased humidity(湿度の低下)および reduced levels of sunlight(日射量の減少)などが、感染伝播と感染感受性双方に影響するものと考えられている[1]。 季節性インフルエンザは、典型的には、北半球では11月から3月にかけて、南半球では4月から9月にかけて発生する。しかし、両半球間のインフルエンザ活動性が一時的に重なり合う現象が報告されている[2]。熱帯地方では、1年中インフルエンザが発生する;熱帯地域が、両半球の感染流行にとってのウイルス貯蔵所の役目を果たしているのか、については今も分かっていない。季節性の流行中の優位となるインフルエンザウイルスについては、半球内でも違いが見られたり、有病率が異なることが報告されている。たとえば、2007-8年インフルエンザシーズンでは、欧州で優位であったウイルスはA(H1N1)であったが、南北アメリカにおいてはA(H3N2)が優位であった[3,4]。インフルエンザは、1年のうちの決まった期間内に発生するが、2つの半球で感染循環するインフルエンザウイルスは、互いに独立しているわけではない。このことは、両半球で感染循環するウイルス株に基づくウイルス学的情報を考慮して、the seasonal influenza[sic ワクチンのこと?]が製造される理由の1つになっている。季節性インフルエンザ用ワクチンの組成に関する勧告は、それぞれの半球のインフルエンザシーズン開始前に合わせて、通常は2月と9月の年2回、WHOから発表される。北半球と南半球のインフルエンザ活動性に相互作用が見られることから、ウイルスの発病率、重症度と重症化リスクには共通性が見られると予想される。このことは、北半球の国々にとって、南半球の経験から学び準備する機会を与えられることにもつながる。

現在のチリとオーストラリアのインフルエンザ活動性状況

チリおよびオーストラリアの国土の大部分は、南半球の温帯地域に位置し、はっきりしたインフルエンザシーズンの時期と大多数の患者発生は、5月から9月にかけての時期となる。いずれの国にも季節性インフルエンザのサーベイランスシステムが確立されている。チリでは、2-4年ごとにインフルエンザ活動性の増大が観察されており、オーストラリアでは、近年、インフルエンザ類似疾患とインフルエンザ検査確定報告数の、全般的な増加が報告されている。南半球でのインフルエンザシーズン開始に一致して、ここ数週間、両国ともインフルエンザA(H1N1)の症例数の急激な増加が観察されている。チリで第1例目の患者が報告されたのは、2009年5月中旬であった:複数の学校内における(2-6例からなる)小集積と、ドミニカ共和国から帰国した3例であった。5月末の時点で、国内の全15自治体のうち11か所から患者が報告されている。6月12日、患者数は2335人となり、うち2人が死亡した;大部分(66%)が5-19才で、重症化して入院を必要としたのは2%であった。オーストラリアで初めてのA(H1N1)ウイルス感染患者が確認されたのは5月8日で、その後3週間で全豪8管轄区内から検査による確定診断例が報告された。6月16日の時点で、オーストラリア全国では1965人の患者が報告されているが、その62%がビクトリアVictoria州からの報告である。チリ・オーストラリア両国政府は、第1例目のインフルエンザA(H1N1)症例に対しては、"containment(封じ込め)" strategyで臨んだ。急速な感染拡大状況を受け、(第1例発生から2週間後の)5月末の時点で、チリ政府当局は、"mitigation(緩和、軽減)" strategyに転換した。オーストラリア政府当局は当初、感染が最も深刻であった、修正"sustain" phase(維持期)が適用されていたビクトリア州だけの方針転換を決めたが、現行のパンデミックはあまり重症化しないとの立場から、6月17日、全国的に新たな"protect" phaseへの移行を開始した。この政策転換により、とりわけ検査戦略が変更され、重症化(の可能性のある)症例の早期発見と適切な治療に重点が置かれている。

チリやオーストラリアの現況から、欧州は何を学べるか

過去の季節性インフルエンザのように、南半球の冬期のインフルエンザA(H1N1)ウイルスの発生状況は、北半球の冬期に予想される事態を明らかにしてくれる可能性が高い。南半球のインフルエンザシーズンは始まったばかりで、インフルエンザA(H1N1)ウイルスに関するデータも限られているが、すでに初期のいくつかの結論は得られている。しかし、欧州を含めた北半球の各国にとってもっと重要なことは、今後も事態を注意深く観察し、最も影響を受ける集団、重症化に至るリスク因子、ウイルスの毒性・感染伝播・抗ウイルス薬に対する感受性の変化に加え、薬物および非薬物的公衆衛生対策の影響に関して、より一層の知識を得ることである。インフルエンザシーズンに一致して急増している、オーストラリアとチリにおける報告患者数の現況は、今も感染拡大が緩徐な、欧州で観察されてきた状況と異なっている。北半球の夏期の間の欧州では、インフルエンザの活動性は低レベルのままと予想される一方、オーストラリアとチリでは、2009年9月ごろの欧州のインフルエンザシーズン開始時期にも、今のように急増しているかも知れない。チリとオーストラリアは、直ちにcontainment(封じ込め) からmitigation(緩和)もしくはsustaining(維持) strategiesに切り替えた。これまで、欧州の加盟国の対応策として、積極的な患者の発見と接触者追跡、患者と接触者の隔離、抗ウイルス薬による治療および予防などの、強力な封じ込め戦略を採ってきた。これらの対策は、欧州で、新たなウイルスが初めて確認されたときの対応としては適切であったが、大陸内の広い範囲でウイルス感染循環が起きる可能性が高い、次期冬期間に継続して実施可能であるかについては、不透明である。国内の感染流行とウイルス学的状況に応じて、別の対策を実施する可能性が高い。

適切に対応するために必要な追加情報は何か

南半球で行われる非薬物的な公衆衛生対策の有効性に関する研究が重要である。比較する際に、各国の医療システム、人口密度、社会構造の違いを考慮に入れることが肝要である。他のインフルエンザウイルスの共感染循環や、あるウイルス株の他の株に対する優位性も、注意深く観察する必要がある。チリでは、疫学第21週に、感染循環しているインフルエンザウイルスの90%がインフルエンザA(H1N1)ウイルスであり、米国でも第22週に89%に達していることが確認されている。他のインフルエンザウイルス株に対する、パンデミックウイルス株の優位性は、以前のパンデミックにおいても観察された現象であった。他の南の国々でもそのような現象(A(H1N1)優位)が見られるとすれば、北半球でも同じ現象が起きると予測され、それに応じた、ワクチン接種や治療などの公衆衛生対策を適応させる必要がある。2009年4月の確認以来、メキシコと米国を中心に、この新たな [2009 swine-origin] influenza A(H1N1) virusに関する、多くの疫学およびウイルス学的情報が得られた。しかし、これらの情報は、ウイルス感染拡大初期の状況を反映したものであって、次の冬期の状況を表すものではないかも知れない。従って、南半球の冬期の状況をよく観察することは、北半球の冬のインフルエンザシーズンの、より正確な予測とその準備に有用だと考えられる。ただし、判明した事実の一部はその解釈を慎重に行わなければならず、そのまま欧州に当てはまるとは限らない。パンデミック対策に当たる南半球の各国を支援する目的で、国際的な協力が行われ、相互に利益がもたらされる必要がある。南半球のための追加資源、綿密な対象を絞った調査への協力、北半球での疫学的知見の蓄積が、予測される冬期のピークへの準備の向上につながる。
参考文献(文中の[数字]、原文参照願います)

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