記事日付 | 20090701 |
タイトル | デング熱の疫学と欧州への輸入の関連の動向 |
国名 |   |
感染症名 | デング熱 |
概要 | デング熱は全世界的に広がり続け、大流行を引き起こし、流行した国々では保健制度に大きな負荷をかけます。欧州の輸入デング熱については、 東南アジアからが最も重要な地域で、次いでラテンアメリカ、インド亜大陸、カリブ海、アフリカと続きます。防蚊対策に関する情報は、流行地域ですべての旅行者に高く推奨されます。 |
和文 | デング熱の疫学と欧州への輸入の関連の動向 デング熱は全世界的に広がり続け、大流行を引き起こし、流行した国々では保健制度に大きな負荷をかけます。欧州の輸入デング熱については、 東南アジアからが最も重要な地域で、次いでラテンアメリカ、インド亜大陸、カリブ海、アフリカと続きます。防蚊対策に関する情報は、流行地域ですべての旅行者に高く推奨されます。 はじめに デング熱は、世界の主要な新興感染症の1つとなりました。今までに感染は120か国以上で記録され、全世界的に流行が見られています。デング熱はアフリカに起源を有し、約600年前にアジアへ伝播されたようです。最初に確認されたデング熱の流行は、1780年代にアジア、アフリカおよび北アメリカでほぼ同時に発生しました。デング熱はヤブカ属(Aedes 属)特にA. aegypti(ネッタイシマカ)や重要性は低いですがA.albopictus(ヒトスジシマカ)によって媒介されます。これらの蚊は特に貨物船によって移動し、デング熱ウイルスの4つのサブタイプはその航路に沿って、熱帯・亜熱帯の国々へ広がりました。過去200年間に感染が拡大し、最近30年間には流行状態となりました。1990年代後期から、毎年、デング熱が約4000万例そしてデング出血熱(DHF)が数十万例発生しており、デング熱はマラリアの次に人間に感染する最も重要な蚊が媒介する病気です。主な流行地域は、ラテンアメリカ、カリブ海、アフリカ、南および東南アジアと太平洋地域の数箇所です。欧州については、ヒトスジシマカが大陸のいくつかの地域で土着するようになりましたが、デング熱は輸入感染症のままです。 DHF の病因は完全には解明されていません。しかし2度目のデング熱感染は主な危険要因であるとされています。結果として、恐らく遺伝子制御の下では、欧州の旅行者はめったにDHFには到らないでしょう。旅行者の中でデング熱感染は高率でなんの徴候もなく発症します。しかしながら、通常軽い病気だけが発生している流行地域や、媒介蚊は通常いるが流行地域でない所に、より毒性の強いデング熱のウイルスが持ち込むことに関して旅行者が重要な役割を担っていると理解されています。 最近の情勢 デング熱の活動はアジアにおいて依然高いままですが、ラテンアメリカは最近2年間で特に流行の特別の増加が見られます。2002年および2008年にリオデジャネイロで大流行が発生し、それぞれが健康基盤に著しい負担をかけました。2009年の初めのボリビアでの大流行は、数万の患者が発生し、政府が国家緊急事態を宣言しました。ごく最近アルゼンチンは、Salta, Jujuy, Catamarca, ChacoそしてCorrientesの北部の州で26000人以上の患者が発生したため、デング熱流行を宣言しました。感染は首都ブエノスアイレスまで広がりました。太平洋の反対側のオーストラリア北クィーンズランド州では、2008年12月にデング熱の流行が起こりました。ケアンズを中心とした地域で、オーストラリアの北部熱帯地方へ広がりました。 欧州へのデング熱の輸入 国際的な旅行者のデング熱に関するレポートも増加しました。国際的な飛行機旅行の増加、および熱帯地方のデング熱の活動の増加の両方によって、西側諸国を含む医療サービス提供者がますます輸入されたデング熱感染に直面するでしょう。旅行クリニックでの様々な研究で、デング熱伝染は、渡航帰りの旅行者の発熱の最も一般的な原因でした。デング熱の監視が行われたとしても、受動的であり、デング熱感染が短期間の自己限定のウイルス疾患で非特異的な症状であるので、旅行者では見落とされる熱帯感染症の1つです。 輸入感染症のサーベーランスに関する欧州ネットワーク(TropNetEurop)は欧州エリア内に持ち込まれた時点で、感染する可能性がある地域、国または広範な影響を決定するために1999年に設立されました。ネットワークは、現在欧州17カ国で57の共同センターから成ります。毎年、共同センターは、渡航前に約220000件の相談を受け、帰国後57000人の治療をします。国際的に通知した数とネットワークに報告された患者との比較から、欧州の輸入感染症患者の約12%をTropNetEuropがカバーしていると推定して差し支えないでしょう。このネットワーク内で報告されたデング熱の症例数は1999年の64例から、2002年に最高の224例に増加し、それ以来100〜170例で推移しています。 2008年は116例が報告されました。集団の中央値年齢は38才(12〜73才)です。患者がデング熱感染した旅行の期間の中央値は1999年の38日から2008年の21日に減少しました。 2008年には、デング熱の症例の43%が、東南アジアの国々の旅行から戻った患者でした。14%はラテンアメリカ、12%はインド亜大陸、11%はカリブ海、4%はアフリカから輸入されました。 この分布は2つの異なる様相を反映します:世界的なデング熱活動と観光目的地としての国の人気。タイ、ベトナムおよびインドネシアはデング熱ウイルスの高度流行地域であるばかりでなく、欧州の観光客には非常にポピュラーな目的地です。タイだけで、過去6年にわたって、私たちのネットワーク中のすべての旅行に関連するデング熱感染例のほぼ30%の原因となっています。ボリビアとアルゼンチンからのより多くの報告など、現在の情勢は南アメリカの流行状況を反映しています。さらに、エリトリア、ヨルダン、パキスタン、パプアニューギニア、南アフリカ、ドミニカ共和国およびスリナムから情報が来ています。 欧州でのこれまでの報告は、ほとんどのデング熱患者が欧州の旅行者(2008年では87%)であることを示しました。デング出血熱とそれによる死亡は、欧州の旅行者の中の稀な出来事のままですが、ほぼ毎年報告されています。2008年には、116人の患者のうちの2人の患者が合併症を併発し、1人の患者はDHFで死亡しました。 全体としてTropNetEuropは、2000年代前半に報告されたデング熱症例の明確な増加を証明し2002年以降ほぼ一定で推移しています。これは多くの欧州諸国の国の報告と一致しています。そして、そのことは世界保健機構(WHO)欧州事務局の感染症集中情報システム(CISID)データベースで実証されました。例外がフランスの海外領土での最近のいくつかのデング熱の流行とドイツの2002年218例から2007年263例に増加したものです。 将来の展望 デング熱の広がりが、その媒介蚊、特にネッタイシマカの広がりによってのみ制限されるように見えます。ヤブカ属が人間の居住地に例外的に適していることがわかったので、その世界的な広がりは効果的にコントロールすることができません。デング熱は、北アメリカ、オーストラリア、東アジア、太平洋そしてアフリカ東部へ移動しました。欧州へのその差し迫った波及を予想しなければなりません。しかしデング熱の4価ワクチンの効能と副反応の調査のための一連の第2相試験は2009年初めに始まりました。まもなく、追加の治験がリスト化され、数年の内に有効なツールが入手可能となる見込みです。高い予防効果を備えたデング熱ワクチンは、現在の流行病の全体の像を変更することができるでしょう。しかし、有効なワクチンが利用できない限り、デング熱ウイルスは、欧州の旅行者、潜在的に媒介蚊が増加している欧州諸国、そして既に流行している国々に住んでいる人に対して重大な脅威であり続けるでしょう。 |
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