記事日付 | 20090704 |
タイトル | ペスト、腺ペスト-リビア:(02) AL BUTNAN BN 20090703.2397 |
国名 | リビア   |
感染症名 | ペスト |
概要 | Plague outbreak in the Libyan Arab Jamahiriya リビアのペスト感染流行 |
和文 | http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19258 ペストは、世界中の限局された地域で感染循環し、アフリカ以外でも散発的な患者が発生し、アフリカの一部の国々では、今も地方病感染となり、時に限局的なアウトブレイクが発生している。さらに、アジアでも過去20年間に、複数の大きなアウトブレイクが報告されてきた。最近、the Libyan Arab Jamahiriyaの衛生当局から、5例の限局的アウトブレイクが報告された。 はじめに ペストは、ペスト菌_Yersinia pestis_による人獣共通感染症で、人類の歴史上、2億人以上の命を奪ってきた。原則的にはノミによる動物間の感染であるが、ヒトも主にノミの_Xenopsylla cheopis_の刺咬によって感染する。従って、腺ペスト患者発生は、ある時ある場所にノミ・齧歯類・ヒトが存在したことを意味する。紀元前430年の古代ギリシャにおいて、はじめてペストと考えられる感染流行が記述されて以来、いくつも大流行を発生しながら世界中に蔓延した。1998年から2008年までの間に、11カ国から23278人以上の患者が報告され、このうち2116人が死亡した(致死率約9%)。23278人の患者の95%以上が、ペスト感染が集中して発生する地域としてよく知られた場所(主な3か国はマダガスカル、コンゴ民主共和国DRC、タンザニア)のある、アフリカからの報告であった。腺ペストは、最も多い病型(マダガスカルのペスト患者の93%、米国の患者の5%)である。適切な治療が行われない場合、腺ペストの致死率は50-90%にも達する。腺ペストは直接のヒト-ヒト感染は生じない。肺ペストはずっと少ない病型(米国のペスト患者の3%、DRCの患者の8%を占め、ヒト-ヒト感染が続く感染流行ではさらに多くなる)であるが、適切・適時の治療されなければほとんどの患者は死の転帰をとる。このタイプのペストでは、飛沫感染によりヒト-ヒト感染を生じる。これまでのエビデンスによると、効果的な肺ペストヒト-ヒト感染防止策は、患者を隔離して治療し、治療中の飛沫感染と接触感染予防策を講じた上で、標準予防策を順守することであるとされている。広く使用できるワクチンはない。 アウトブレイクの報告 2009年6月14日、the Libyan Arab Jamahiriyaの衛生当局は、死者1人を含む腺ペストが疑われる患者の発生について、国際保健規則に従って、WHOに報告した[20090616.2227]。WHOの推奨する感染患者の診断定義 http://www.who.int/wer/2006/wer8128.pdf が用いられた。このアウトブレイクは、半遊牧生活者の間で発生した。国際チームによる疫学調査が行われ、合計5人の患者が確認され、うち3人は、エジプト国境付近のthe Tobruk rural areaの家族内小集積例であった。発端の患者は、肺ペストの症状のある小児1名で、死亡している。その同胞2人が、腺ペストに感染していることが確認された。他のこれらの症例との疫学的関連性が認められない2人は、同じ地区に住む若年女性(2人)であった。確定診断検査が現在行われており、齧歯類対策も実施されている。 議論と結語 多くの国々で、2007年の改正国際保健規則と改良されたサーベイランスが実施された結果、各国とWHO間のコミュニケーションは強化されている。地域間のネットワークも生まれ、国境を越えた地域内での公衆衛生上の注意喚起も可能となった。リビア政府衛生当局は、報告されたアウトブレイクの記録報告を迅速に行っており、速やかな確認とコントロール対策実施が可能となった。The Maghrebは、すでにペストの地方病感染離地域とは考えられていない。しかし、今回のヒトでのペスト感染集積によって、複数の限局性自然感染集中個所の大きな中心が存在することへの懸念が浮上し、この中心は数十年間鎮静化していたものの、時や場所を変えて再興する可能性を秘めている(Table,Figure 上記URL)。このようなヒトの患者の小集積例は、通常散発性で限局性であるが、広い範囲で必要な齧歯類対策を行っても、継続して発生する。おそらく対策が、野生動物のペスト保有宿主の排除には十分ではないためと考えられる。医療関係者は、すでに地方病感染ではない疾患については、症状を十分理解するために、訓練を積まなければならない。ペストの発生地および周辺の住民に対して、情報提供や啓蒙活動を積極的に行い、現地医療システムを強化し、患者周囲に公衆衛生対策を集中させることが、ペスト発生の可能性がある地域において重要な対策である。感染の自然発生個所をより詳しく把握することも、あらゆるベクターや齧歯類対策にとって必要条件となる。 参考資料、フランス語の本文記事など [Mod.ML注-タイトルの Libyan Arab Jamahiriyaは、リビアの正式な国名(the Great Socialist People's Libyan Arab Jamahiriya (<http://en.wikipedia.org/wiki/Libya>)の1部を取った公式国名である。Eurosurveillanceの記事のTable1には、1945年1月以降のアルジェリア、エジプト、リビア、モロッコ、チュニジアで報告された確定および疑い患者の発生リストがある(http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19258)。Atlas Mountains の高地と地中海に挟まれた、アルジェリア、リビア、モロッコ、チュニジアの一部を1つにした地域は、the Mediterranean Maghrebと呼ばれ、種々の動植物が共生する、緑豊かな(forests, woodlands, and scrub)生態系を育んでいる(http://en.wikipedia.org/wiki/Maghreb#Mediterranean_Maghreb)。この地方はまた、伝統的な料理culinary traditionも共有している;20090616.2227で紹介されたように、北米や中央のペスト感染流行の中には、ラクダなどの感染した動物の肉を生や十分調理しないままに摂取したためにおきる、頸部リンパ節腫脹を伴う、咽頭ペストである。この報告の著者は、この地域で最近になってヒトのペスト感染が発生したことにより、数十年間気づかれなかったが、人間界に波及すれば時や場所を変えて再興する力を温存していたと思われる、自然界のペスト保有動物である野生動物が継続して存在していたことが明らかになった、と指摘している。] |
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