感染症速報詳細

記事日付 20090704
タイトル インフルエンザA(H1N1)-世界各国:(82) 感染伝播 20090704.2402
国名 世界各国    
感染症名 インフルエンザA
概要 Swine flu transmission studies suggest new virus is here to stay
豚インフルエンザ感染伝播の研究、新型インフルエンザウイルス定着
和文 豚インフルエンザウイルスは、現在・過去のヒトで効率的に感染循環するすべてのウイルスに認められる特徴のうち、少なくとも2つが欠失しているにもかかわらず、このウイルスが極めて効率よく感染拡大を続けていることが、2つの研究から明らかになった。この2つの研究グループは、新型H1N1ウイルスの拡大の程度に対し、少し違った見方から研究を進めており、一方のグループは、まだ人インフルエンザウイルスほど効率的には感染伝播していないと見ているが、他方のグループは、季節性インフルエンザのcousins(H1N1ウイルス)と歩調を合わせる感染伝播率が見られるとしている。とはいえ、世界中にこのウイルスが蔓延し、少なくとも332人がこれまでに死亡した事実に異論はない。しかもこのウイルスは、あるインフルエンザウイルスがヒトで効率よく感染するために必要と研究者らが考えるすべてのツールなしで、現在のような感染状況を生み出していると、the University of Marylandの研究者 Prezが述べた。いずれにしろ、ウイルスそのもの(全体)か、もしくは遺伝子の一部が定着し、季節性インフルエンザウイルスを打ち負かすか、あるいは共存することになるだろうと述べた。3日発行の雑誌Science [summary: http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/325/5936/17 ]に掲載される2つの論文の研究に、この研究者は参加していないものの、内容については詳しく、彼の研究室も同様の研究を終えている。この感染伝播の研究は、米CDCとthe Massachusetts Institute of Technology (MIT)のグループと、オランダのErasmus Medical Center(ロッテルダム Rotterdam)の研究グループが行った。いずれも、ヒトのインフルエンザ感染に関して最適のモデルとされている、フェレットを使って実験が行われた。CDCの研究では、ウイルスは、完全にはヒトの間での感染拡大に適応していないことが示唆された。健康なフェレットを、実験的に感染させた個体の、隣のかごで飼育し、同じ皿から餌をとらせたところ、CDCの研究では、健康なフェレットの中で感染したのは、2/3にとどまった。対照的に、オランダのグループの結果は、ウイルスに感染した個体の隣で飼育された場合、すべてのフェレットが新型インフルエンザウイルスに感染した。Perezのグループでも、感染率は100%だった。CDCとErasmusのいずれの研究でも、ヒトのインフルエンザウイルスに感染したフェレットは、周囲の健康なフェレットすべてに感染伝播させた。CDCの研究のsenior authorは、CDCのフェレットのケージ間の空気の流れと、他の研究のそれとの間で条件が違ったことが、異なる結果を生んだ原因かもしれないと説明している。しかし、彼らの観察結果から、このウイルスは新たなヒトという宿主に適応しつつある段階と見ている。このような結論を支持する重要な証拠として、ウイルスのヒト上気道細胞への感染能力が関係する。CDC-MITの研究者らにより、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの、感染細胞への定着に必要な表面蛋白であるヘマグルチニンhemagglutininは、現時点では、季節性(regular)インフルエンザウイルスと比べて結合力が弱いもしくは効率的でないことが示されている。このことは、ウイルスが変化する余地があるということで、もしもより効率的に結合する型に変異すれば、よりヒト-ヒト感染が拡大しやすいウイルスとなる。感染伝播は起きているが、より効率よく伝播するようになる可能性があると、CDCの研究者は述べた。彼によると、より感染伝播しやすくなれば、単に感染者が増えるだけでなく、感染者の中でも重症化する割合が増加する可能性があると指摘する。これまではほとんどの患者が軽症であったが、ヒトにより適合すれば、より重症となる可能性があり、もっと重症者が増えると述べた。オランダの研究者も同じ懸念を抱いている。ウイルスはさらにヒトに感染し伝播しやすく変異する可能性があるが、自分の意見としては、すでに季節性インフルエンザウイルスを駆逐できるほど適応していると、電子メールで回答した。CDCの研究者らはまた、このウイルスが、感染伝播性に関係することが知られている、PB2と呼ばれる内部遺伝子内の特徴を持っていないことを報告している。全ての季節性インフルエンザと3種類の過去のパンデミックウイルス--言い換えると、他の種から壁を越えてヒトにうまく適応した全てのインフルエンザウイルス--は、この特徴を持っているが、今回の豚インフルエンザH1N1ウイルスは持っていない。研究者らは、なぜウイルスが、この変異を持たずに感染伝播性を獲得したのか、今後獲得する可能性がどれほどかについては、分かっていない。しかし、この変異が強毒化や重症化と関連性をもっており、インフルエンザ研究の関係者らはその変異を注意深く見守っていると言う。両グループは、感染したフェレットの組織についても検討している。その結果、豚インフルエンザウイルスの感染は、動物の肺の深部から始まっていることが分かった。人インフルエンザウイルスは、上気道に感染する。このウイルスに肺の奥深くに浸透する能力があることで、重症の豚インフルエンザ感染患者の診療にあたる医師らが目の当たりしていることの説明がつく:肺機能を奪う侵襲性ウイルス性肺炎の患者である。確かにフェレットに認められた病変は、ヒトの疾患と一致しており、ウイルスの増殖能が高いことが、季節性インフルエンザに比べ、ウイルスの侵襲性をより高め、より深い気道内への拡大につながっていると考えられる、と説明した。研究に参加した香港大学のインフルエンザ研究者 Dr Malik Peirisは、これらの発見を懸念し、豚インフルエンザウイルスは、H5N1鳥インフルエンザや1918スペインかぜのウイルスほど強毒性ではないが、下気道への感染能力を有していることは、ヒトへの病原性の点で、明らかに注意すべき事項であると指摘した。H5N1もスペインかぜウイルスも、肺の奥の部分の組織に感染する。新型インフルエンザA(H1N1)が肺の奥の組織に感染するため、ウイルス感染が拡大しやすい真冬という条件でウイルスの感染が拡大すれば、さらに重症化する可能性があるとの懸念を表した。数年前に発表された、これもインフルエンザの感染モデルとして好適な、guinea pigsの研究では、インフルエンザウイルスは、低温でより活発で長期間に増殖することが示されている。このことが、ヒトで、豚インフルエンザウイルスに関してもあてはまるとすれば、冬期の豚インフルエンザ感染は重症化するだろうと、警告した。

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