記事日付 | 20090801 |
タイトル | マラリア、artemisinin耐性-東南アジア:20090731.2683 |
国名 | 東南アジア   |
感染症名 | マラリア |
概要 | 東南アジアのartemisinin耐性 Artemisinin resistance in Southeast Asia [30日のNEJM誌に、東南アジアの熱帯熱マラリアのartemisinins耐性に関する2件の研究報告が掲載された] [1] カンボジア西部では、タイ北西部に比べ、artesunateによる熱帯熱マラリア治療のクリアランスが遅延し、再燃が多かった |
和文 | http://content.nejm.org/cgi/content/full/361/5/455 [Ref: Dondorp AM et al: Artemisinin resistance in _Plasmodium falciparum_ malaria. N Engl J Med 2009; 361: 455-67] 要約 背景:Artemisininを基剤とする併用療法は、全ての熱帯熱マラリア地方流行国での1次治療法として推奨されている。最近、従来から抗マラリア薬耐性が発生する地域であったタイ-カンボジア国境における、この治療法の有効性低下が懸念されている。 方法:2 open-label, randomized trialsによって、カンボジア西部のPailinと、タイ北西部のWang Phaの、合併症のない熱帯マラリアに対する2種類の治療法の有効性を比較した;経口artesunateをkg体重あたり1日2mg7日間投与した群と、(経口artesunateを)1日4 mg3日間投与した後、mefloquineを2回に分けて合計でkg体重あたり 25 mg投与した群に分けた。in vitro と in vivo で、 _Plasmodium falciparum_ のsusceptibility(薬剤感受性), artesunate pharmacokinetics (薬物動力学), およびmolecular markers of resistance(耐性の分子マーカー)について検討した。 結果:2か所でそれぞれ40人の患者について調査した。概算の寄生虫クリアランス時間の中間値は、Pailin で84時間(60-96時間)、Wang Pha では48時間であった(p<0.001)。Pailinでは、artesunate単独療法の患者20人中6人(30%)、artesunate-mefloquine 併用療法の20人中1人(5%)に、PCRアッセイによる再燃が確認された。一方 Wang Phaでは、それぞれ2/20(10%)と1/20(5%)であった(p=0.31)。このような寄生生物学的な反応の相違は、年齢, artesunate or dihydroartemisinin pharmacokinetics, in vitro sensitivity testsにおけるisotopic(等方性)の結果, もしくは熱帯熱マラリア_P. falciparum_ の薬剤耐性との相関が推定される分子学的特性 (mutations or amplifications of the gene encoding a multidrug resistance protein [PfMDR1 熱帯熱マラリア多剤耐性蛋白]をエンコードする遺伝子の変異や増幅、またはsarco-endoplasmic reticulum calcium ATPase6 [PfSERCA]遺伝子の変異)の違いでは説明できなかった。軽度な有害事象はが認められたが、2つの治療群に違いはなかった。 結語:カンボジア西部の_P. falciparum_ は、タイ北西部と比較して、in vivoでのartesunateへの薬剤感受性が低下していた。in vivoでのparasite clearanceの遅延が特徴的であったが、一般的な in vitro susceptibility testing(感受性検査)では、これに相当する低下は認められなかった。迅速な対応策が望まれる。 [2] artemisininを基剤とする治療の失敗が増えたのは、東部でのartemisinin感受性低下による可能性が高い 情報源: New England Journal of Medicine 、2009年7月30日。 http://content.nejm.org/cgi/content/full/361/5/540 [Ref: Noedl H et al: Artemisinin-resistant malaria in Asia. N Engl J Med 2009; 361: 540-1] バングラディシュ、タイ西部および東部、カンボジアにおける、dihydroartemisininとmefloquineに対する耐性の比較を行った。50%の寄生虫のin vitro での発育抑制に要したdihydroartemisinin濃度の対数値の平均(The mean log10 concentration、IC50)が、カンボジアでは、バングラディシュと比較して3倍高値であり、タイでは西部から東部に向かって次第に増加する傾向にあった。mefloquine のICD50は、バングラディシュが最低で、タイ西部および東部は3倍高かった。 研究結果から:artemisinin-based therapies の治療失敗率が上昇しているのは、mefloquine感受性の地域差によるものではなく、東部でのartemisinin感受性低下によるものである可能性が高い。バングラディシュ南東部の、つい最近まで、あまりartemisininを基本とする治療法が行われていなかった地域では、arteminisinin感受性は高いままであった。artemisinin resistanceがタイ全域に拡大している可能性は低く、バングラディシュでは高感受性であることが、データによって示された。 [Mod.EP注-これらの2件の研究は、カンボジアおよびタイ東部でのartemisininsへの感受性低下を浮き彫りにした。artemisininsは、単独あるいは他の抗マラリア薬との併用による、アジアおよびアフリカ全体の化学療法の主要治療薬であることから、この結果に不安を感じる。またこの研究結果は、耐性が判明した地域が、およそ50年前にはじめてクロロキンchloroquine耐性が発見され、またsulfadoxine/pyrimethamine (fansidar) やmefloquine 耐性も発生した、同じ地域で判明したことも懸念される。遺伝学的調査により、1980年代にアフリカ全体に広がったthe chloroquine resistant _P. falciparum_ strainは、Southeast Asia由来であることが判明している (Mita T et al: Spread and evolution of _Plasmodium falciparum_ drug resistance. Parasitol Int 2009 Apr 23. E-pub ahead of print; abstract available http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19393762)。最近行われた、数理モデルを基にした研究では、artemisinin resistanceの発生源を、optimal drug dosing 薬剤の適正使用によって封じ込めることができることが示唆されている(Maude RJ et al: The last man standing is the most resistant: eliminating artemisinin-resistant malaria in Cambodia. Malar J 2009 8: 31; http://www.malariajournal.com/content/8/1/31 )。しかし、耐性のほとんどはおそらく、counterfeit drugs 偽薬, substandard preparation 未熟な調剤技術, 併用療法を行わない代わりのartemisinin単独療法や1回分だけの薬剤販売が蔓延していることに起因している。薬剤の品質管理や処方のコントロールが実施できない国では、改善は見込めない。忌避剤をしみ込ませた蚊帳を中心とした、ベクター対策の強化に頼るべきだろう] |
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