中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)-サウジアラビア王国

Disease outbreak news:Update   2019年5月17日

2019年4月9日から4月30日までの間、サウジアラビアの国際保健規則(National International Health Regulations(IHR))の担当窓口は、3人の死亡を含む中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染の新たな9例を報告しました。報告された9例のうち、5例が3都市で進行中の集団に関連していました。3例(死亡1例を含む)はサウジアラビア東部のアルハフィ市(Alkhafi)から、1例はジーザーン(Jazan)地域のアルデルブ市(Alderb)から、1例はサウジアラビアのリヤド地域のアルカルジ市(Alkharji)から報告されています。

進行中の集団に関する詳細は、2019年5月9日のDisease Outbreak Newsにて入手可能です。

報告された9症例の詳細は下記のリンクで提供されています:
MERS-CoV cases reported from 9 through 30 April 2019
xls、113 kb

2012年から2019年4月30日まで、合計2,428人のMERS-CoV感染の検査室確定症例と839人の関連する死亡が、国際保健規則の下でWHOに世界的に報告されました。 WHOに報告された関連死は、MERSの影響を受けた加盟国へのフォローアップを通じて確認されました。

WHOによるリスク評価

MERS-CoVによる感染は高い罹患率と死亡率をもたらす重篤な疾患を引き起こす可能性があります。ヒトは直接的または間接的な感染したヒトコブラクダとの無防備な接触を通して、MERS-CoVに感染します。MERS-CoVはヒトとの間で、特に感染した患者と厳密に保護されていない接触から感染伝播する能力が実証されています。これまでに観察された非持続性のヒトからヒトへの感染は主に医療施設で発生しています。

これらの新たな症例の報告はWHOによるMERS-CoVの全体的なリスク評価を変えるものではありません。WHOは、MERS-CoV感染の新たな症例は中東から報告されると予測しています。また感染したヒトコブラクダ、動物性食品(例えば未加工のラクダのミルクの消費)もしくは患者(例えば医療施設における)への曝露によって感染したかもしれない個人によって、他国への感染例の流出が続くと予測しています。

WHOは疫学的状況の監視と最新の利用可能な情報に基づいたリスク評価の実施を継続する予定です。

WHOからのアドバイス

現在の状況と入手可能な情報に基づいて、WHOはすべての加盟国に対し、急性呼吸器感染症に対するサーベイランスを継続し、あらゆる異常なパターンを注意深く見直すことを奨励しています。

感染予防と管理(IPC)対策は、医療施設でのMERS-CoVの拡大を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERSの初期症状は非特異的であるため、MERS-CoV感染症の患者を早期に特定することは必ずしも可能ではありません。したがって、医療従事者は、診断に関係なく、常にすべての患者に対して一貫した標準予防策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の症状のある患者に治療を行う場合は、飛沫感染予防策を標準予防策に追加する必要があります。 MERSの可能性のあるまたは確認された症例を治療するときには、接触感染予防策および眼の保護具を追加する必要があります。エアロゾルを発生させうる手技を行う際は、空気感染予防策を講じる必要があります。

早期の特定、症例の管理および隔離は、適切な感染予防および管理対策とともに、MERS-CoVのヒトからヒトへの感染を予防することができます。

MERS-CoV感染が確認された全ての感染者のうち約20%が中等度もしくは無症候性として報告されているため、WHOは、症状の有無にかかわらず、実施が可能であるならば、MERS-CoVに感染した患者の全ての接触者に対して、包括的な同定、フォローアップ、そして検査を実施することを推奨します。伝播における無症候性のMERS-CoV感染の役割ははっきりと理解されていません。しかしながら、無症候性のMERS-CoV感染者から他者へ伝播したという報告がなされています。

MERSは糖尿病、腎不全、慢性肺疾患や免疫不全のような慢性病状のある人々に、より重篤な疾患を引き起こします。したがって、これらの人々はウイルスが潜在的に伝播しているということが知られている農場、市場、または家畜小屋などを訪れる際に、ヒトコブラクダとの濃厚接触を避けるべきです。一般的な衛生対策、例えば、動物に触れる前後には必ず手を洗うこと、病気の動物との接触を避けることなどは徹底すべきです。

食品衛生の手技は監視が必要です。ラクダの生ミルクや尿を飲むことは避けるべきであり、適切に加熱調理されていないラクダ肉を食べることも控えるべきです。

WHOは、この事象に関して入境地点での特別なスクリーニングを勧告しておらず、現時点ではいかなる渡航や貿易の制限も推奨していません。

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)-The Kingdom of Saudi Arabia
Disease Outbreak News: Update  17 May 2019
https://www.who.int/csr/don/17-may-2019-mers-saudi-arabia/en/