エボラウイルス病-コンゴ民主共和国(更新27)

Disease outbreak news:更新  2019年6月20日

今週発生したエボラウイルス病の症例数は、先週と比較してカトワ(Katwa)とビュトンボ(Butembo)のホットスポットにおいて緩やかな減少傾向を示しました。しかしながらこれらの好ましい兆しは、マバラコ(Mabalako)保健区域の、特にアロヤ(Aloya)保健地域における症例発生の著明な増加により相殺されています(図1)。エボラウイルス病の新しい地理的領域への拡大リスクは低く維持されている一方で、ブニア(Bunia)、ルベロ(Lubero)、コマンダ(Komanda)、ルワンパラ(Rwampara)といった保健区域における最近のエボラウイルス病の再導入事例は、過去に影響を受けた地域の高いリスクを示しています。マバラコにおける症例の増加と併せて、医療従事者間の感染、そして院内感染も同時に増加しています。これらの調査結果は、上記の地域で稼働している様々な医療施設における感染予防と制御の対策を包括的に強化する必要性を強く示唆しています。また、これら保健地域でエボラウイルス病が発生したことは、既に安全保障の資源が限られている中で、効果的な対応活動を継続するために更なるアクセスの円滑化を必要とし、大きな負担となっています。

過去10カ月間に医療従事者が現場で遭遇した運営上の課題に加えて、全体のエボラウイルス病のアウトブレイクへの対応活動は、5400万USドルの資金不足の中で、その規模を維持するのに相当な困難に直面しています。この不足を満たすために必要な資金がなければ、対応活動が阻害されて全体の対応へ負の影響が出るでしょう。その結果、必要不可欠で利用可能な医療サービスが深刻に減少し、アウトブレイクの重要な時期に運営が休止するでしょう。今回のエボラウイルス病のアウトブレイクの封じ込めの中で苦労して得られた進展が、資金不足のために潜在的に逆行しないため、加盟国およびその他の寄付団体には、資金不足を補填することが強く勧められます。

2019年5月29日から6月18日までの21日間で、15の保健区域のうち62の保健地域が新症例を報告しました。これは北キブ州(Kivu)とイトゥリ州(Ituri)内の664の保健地域のうち9%に相当します(図2)。この期間中に報告された確定例は合計245人で、その大部分は、マバラコ(37%, n=91)、マンディマ(Mandima)(12%, n=30)、カトワ(11%, n=28)、ベニ(Beni)(11%, n=27)、ビュトンボ(9%, n=23)、カルングタ(Kalunguta)(5%, n=13)、ムシエネネ(Musienene)(5%, n=12)の保健区域からのものでした。2019年6月18日の時点で、2096人の確定例と94人の高度疑い例を含む合計2190人のエボラウイルス病症例が報告されています。合計1470人の死亡が報告されていて(全体の症例致死率は67%)、うち1376人が確定例の死亡でした。年齢と性別が明らかになっている2190人の確定例及び高度疑い例のうち、57%(1242人)は女性、29%(639人)は18歳未満の小児でした。医療従事者間での症例数も増え、累積感染者数は122人(全症例の6%)に達しました。

2019年6月13日に公表された前回のDisease Outbreak News以降、ウガンダ共和国からの新たなエボラウイルス病症例または死亡は報告されませんでした。しかし対応活動は継続していて、症例の積極的なサーベイランス、100人を超える潜在的に曝露した接触者の同定が主にカセセ(Kasese)県のキシンガ(Kisinga)とブウェラ(Bwera)で行われています。接触者は最後の接触者が7月2日にフォローアップを受けるまで、21日間毎日受診する予定です。現在のところ、全ての接触者が無症状です。6月19日の時点で、合計456人がウガンダで予防接種を受けていて、この中には同意を得た接触者や接触者との接触者を含んでいます。

ウガンダにおけるエボラウイルス病症例の検出に引き続き、WHO事務局長は2019年6月14日に国際保健規則(IHR)の下で緊急委員会(the Emergency Committee)の会議を招集しました。同委員会は、ビュトンボとカトワなどにおいて好ましい疫学的傾向が示されているものの、マバラコのようなその他の地域で疾患の拡大、再感染を示している今回のアウトブレイクに、深刻な懸念を示しました。これは再度、コミュニティでの受け入れと安全保障の課題を提示しています。加えて、対応は資金不足と人的資源への大きな負担による阻害が続いています。ウガンダでのクラスター症例発生は予期しないものであったことも特筆すべきです。迅速な対応と早期封じ込めは近隣諸国の準備の重要性を証明するものです。同委員会は、今回のアウトブレイクを、コンゴ民主共和国と地域における保健上の緊急事態ではあるものの、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の基準は満たさないという見解です。委員会は公衆衛生上の助言として、国と対応をするパートナーに注意するよう主張しました。声明の全文と詳細はこちらをクリックしてください。

図1:2019年6月18日時点の保健区域別エボラウイルス病症例の発症週ごとの確定例および高度疑い例のデータ*


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*ここ数週間のデータは、症例の確認と報告、および継続的なデータのクリーニングが遅れることがあります。その他の保健区域には、アリムボンゴ(Alimbongo)、ビエナ(Biena)、ブニア、カルングタ、カイナ(Kayna)、コマンダ(Komanda)、キョンド(Kyondo)、ルベロ、マングルジパ(Mangurujipa)、マセレカ(Masereka)、ムトワンガ(Mutwanga)、ニャンクンデ(Nyankunde)、オイチャ(Oicha)、ルワンパラ、チョミア(Tchomia)が含まれます。

図2:2019年6月18日時点の保健区域別エボラウイルス病症例の発症週ごとの確定例および高度疑い例のデータ


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表1:2019年6月18日時点でのコンゴ民主共和国、北キブ州およびイトゥリ州における保健区域別のエボラウイルス病の確定例と高度疑い例、および被害を受けた保健地域の数**



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**過去21日間に発生した症例と被災した地域の合計は、最初の症例警報の日付に基づいており、確定日および保健省による毎日の報告とは異なる場合があります。

 

公衆衛生上の取り組み

保健省、WHO、パートナーによる公衆衛生上の取り組み活動に関する詳細については、WHOアフリカ地域事務所が発表した最新の状況報告をご参照ください。

エボラ状況報告書:コンゴ民主共和国

WHOによるリスク評価

WHOは、疫学的状況の変化とアウトブレイクの状況を継続的に監視して、対応への支援が進展する状況に適応していることを確実なものにします。直近の評価では、国内および地域のリスクレベルは非常に高いままで、国際的なリスクレベルは低いままであると結論付けられました。 2019年2月から5月中旬にかけて、毎週新しい患者の増加が続いています。全般的な治安状況の悪化と、特に過去4週間にわたる政治的緊張と治安不穏によって悪化した地域社会の不信に基づく躊躇や拒絶、そして抵抗を示す孤立地帯(ポケット)が存続しています。アウトブレイクの影響を受けている地域において繰り返される一時停止と症例調査および対応活動の遅延により、介入の全体的な有効性が低下しています。しかし、最近の地域コミュニティとの対話、アウトリーチ構想、および特定のホットスポットエリアへのアクセスの回復により、コミュニティにおける対応活動および症例調査の取り組みに対する受け入れが改善されました。スタッフの安全と治安を確保するために治安の緩和策が強化されており、手続き上、運用上および物理的な治安上の課題が解決されています。確定症例のうち報告される地域社会の中で死亡する症例の高い割合、サーベイランス下で接触者が知られている新規症例の割合が比較的低いこと、院内感染に関連する感染伝播連鎖の存在、症例発見とエボラ治療センターにおける隔離の持続的遅延、ならびに高度疑い例に対する適時報告と対応における困難さは、アウトブレイクの影響を受ける地域社会でのさらなる感染連鎖の可能性を高め、コンゴ民主共和国内および近隣諸国へのエボラウイルス病の地理的拡大のリスクを高めるすべての要因となります。アウトブレイクの影響を受けている地域から、コンゴ民主共和国の他の地域へ、そして不安の高まりの間に穴だらけの国境を越えて近隣諸国へと人口移動が頻繁に起こることで、これらのリスクはさらに高まります。現在のアウトブレイクの長期的な発生、対応スタッフの疲労、および限られた資源に対する継続的な負担によって、新たなリスクが生じます。反対に、優先医療施設での医療従事者や現場作業員の予防接種を含む、近隣諸国での実質的な即応体制の整備および準備活動は、症例を迅速に検出して地域への蔓延を軽減する能力を高めている可能性が高いです。現時点でこれらの努力を拡大し続ける必要があります。

WHOによるアドバイス

WHOは現在入手可能な情報に基づき、コンゴ民主共和国への渡航や貿易に対していかなる制限も行わないよう勧告します。現在のところ、エボラウイルスから人々を守るワクチンは認可されていません。したがって、国境を越えた移動や、影響を受けた国への/国からの渡航者に対してビザ発給の制限の基準として、エボラワクチンの接種証明書を要求することは合理的ではありません。WHOは厳重な監視を継続し、必要であれば今回の事象に関連した渡航と貿易の措置を検証します。現在、コンゴ民主共和国との間の国際交通を著しく妨害するような渡航対策を実施している国はありません。渡航者は渡航前に医師の診察を受けるべきであり、良い衛生慣習を実践すべきです。

さらなる情報は下記をご参照ください。

出典

Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo
Disease outbreak news: 20 June 2019
https://www.who.int/csr/don/20-june-2019-ebola-drc/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja