コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病に関する国際保健規則(2005)緊急委員会の会合に関する声明(2019年7月17日)

WHO Statement  2019年7月19日

コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病(EVD)に関して、国際保健規則(IHR)(2005)に基づきWHO事務局長が招集した緊急委員会の会議が、2019年7月17日12:00~16:30ジュネーブ時間(CET)に行われました。
(註:本文はあくまで参考情報です。詳細な内容については原文をお確かめください。)

会議の議事

緊急委員会の委員と助言者はテレビ会議にて参集しました。

事務局長は、緊急委員会を歓迎し、彼らの支援に対して謝意を述べ、議長であるロバート・シュテフェン博士に議事を委ねました。
シュテフェン博士は、同様に委員を歓迎し、事務局に発言を求めました。
WHOの法務、コンプライアンス、リスク管理及び倫理の各部門の代表者らは、緊急委員会の委員に対して、IHRの求める必要条件とPHEICの基準とともに、委員の役割と責任について説明を行いました。PHEICとは、国を超えた国際的な拡散を通じて他国に公衆衛生上のリスクを与え、組織的な国際的対応を必要とする異常事態です。緊急委員会の役割は、PHEICに関する判断の最終決定者である事務局長に対して助言を提供することです。緊急委員会はまた、必要に応じて公衆衛生上の助言又は公式な暫定的勧告を行います。
緊急委員会のメンバーは、秘密保持に係る義務と、利益相反となり得る個人的、経済的又は専門的な関わりについて公開する責任を有することについて説明がなされ、各メンバーは調査により利益相反のないことが確認されました。

議長は、会議のアジェンダを確認し、説明者を紹介しました。コンゴ民主共和国から保健省の代表と、WHOの事務局がそれぞれプレゼンテーションを行いました。

コンゴ民主共和国の状況について、現在の状況が議論されました。ビュトンボ(Butembo)とマバラコ(Mabalako)で症例数が増加しています。流行の中心はマバラコからベニ(Beni)に移動しています。また、ゴマ(Goma)で他地域からの輸入例が1例ありました。アウトブレイクを進行させる要因としては、人口密集地域における人々の移動、多くの医療施設における不十分な感染予防管理、複雑な政治的環境、地域社会の関与が消極的なこと、そして、2名の地域医療従事者が殺害された不安定な治安状況の継続などが挙げられます。70カ所以上の入域地点において監視が行われ、7500万人に対してスクリーニングが実施されました。これにより22症例が発見されています。ベニは現在の主要なホットスポットであり、その他の地域では症例数は減少してきています。確定例又は疑い例は合計で2512例となっています。これには136名の医療従事者が含まれており、このうち40名が亡くなっています。

ベニは引き続き流行の中心になっており、直近3週間の症例の46%を占めています。マンギナ(Mangina)は症例の18%を占めています。ゴマでは新たな症例が1例ありました。これは、ベニから来た症例で、医療施設に患者が到着して1時間以内に確定された症例です。接触歴は不明ですが、ゴマに他の数人の乗客と一緒のバスで向かってきました。バスが壊れたので、この患者は医療施設にバイクに乗ってきました。エボラ治療センターに移されましたが、その後死亡しました。ゴマにおける対応は、72時間以内に行われました。追跡者の調査が行われ、75名の接触者がワクチン接種を受け、一緒に旅行していた人々と家族について健康監視が行われています。サーベイランスは増強され、対応が強化されています。毎日、15000人の人々がゴマからルワンダの国境を越えます。ゴマはルワンダとの経済活動における重要な中心地となっているためです。この国境を閉じることはゴマの人々に対して非常に大きな影響を与えるおそれがあり、エボラへの対応に対して悪い影響を与えます。アウトブレイクの状況に関する住民の理解の向上と、健康のための行動に関する強い関与の必要性は継続しています。

国連のエボラ緊急対応調整官は、治安面の状況と、アウトブレイク対応を支援する環境を作るための取り組みについて報告しました。報告では、地域社会の関与、すべての地域におけるアクセス、多部門の協働の増大、そしてより多くの資金及び人的資源が求められていることが強調されました。地域の状況が不安定なことが最大の懸念事項であり、とりわけ、先週2人の地域の保健従事者が殺害されたことから、この懸念が深まっています。治安を向上させるための努力が行われています。介入の際の弱点と質の双方に焦点を充てる必要があります。
WHO事務局は、直近の迅速リスク評価の詳細を報告しました。行っている対応の効果について特に強調しました。サーベイランスの改善が行われ、ウイルス伝播の強度が減弱しているものの、地理的な拡大は続いています。これらの地域における地域的な伝播の拡大はみられませんが、新たなエリアへのウイルスの播種の継続はさらなる拡大のリスクが持続していることを示しています。
コンゴ民主共和国に関するリスク評価は、国レベル及び地域レベルにおいて引き続き大変高いですが、世界的には低い状況にあります。直近のゴマで発生した症例が懸念されます。ゴマは州都であり、国際線が就航する空港があるためです。

疫学的状況における感染拡大の強さは変動しており、毎週およそ80の新たな症例が報告されています。ホットスポットは移動し続けており、関連するリスクがあります。新たな、もしくは以前に清浄化されたエリアへの播種が続いていますが、地域の伝播の持続はみられません。コンゴ民主共和国とウガンダの間を行き来する地元の商人がエボラにより亡くなった最近の事例からは、国境を接する国々においては高いリスクが引き続きあることを示しています。ウイルスは地理的に拡大しますが非常に強く伝播していくものではありません。しかしながら、ベニにおける状況は、なお困難で厄介です。特に地域社会の死亡の割合が上昇しています。現在継続する課題は、地域の不安定さ、地域社会の受容、症例の発見と隔離の遅れ、接触者調査の難しさ、人々の高い移動性や伝播の経路が複数であることなどがあります。医療施設内での伝播、葬祭の行為、伝統的祠祭者などは、影響を受けた地域において伝播を続けるものになります。ゴマにおける対策のレベルとルワンダに対する優先的な対応が説明され、鍵となる対策の柱(サーベイランス、エボラ治療センター等)に係る顕著な改善が示されました。対策における弱点と困難さは、特に地区のレベルで残っています。

包囲接種戦略は、効果的で成果が上がるものであることが示されています。ワクチン供給に関する課題が議論されました。ワクチンの供給と利用可能なデータが提示され、供給は現在十分ではないこと、用量調節が必要であることが示されました。WHO事務局はメルク社により計画された増産計画を歓迎しました。これは2020年にrVSV-EBOVワクチンの供給を倍にしようとするものです。さらに、エボラウイルス病に関するWHOの戦略的専門家助言グループ(SAGE)は、ワクチン供給状況をモニターし、より多くの増産が可能となるまで十分な摂取量を確保するのに必要なさらなる用量調節について提案を行います。

現況と討議

緊急委員会は、コンゴ民主共和国保健省のリーダーシップのもと、WHO、国連機関、NGOs及びその他のパートナーの支援を受けて行われている現在の対応について称賛しました。この対応は、コンゴ民主共和国の多くの地域における困難な状況のもとにあってウイルスの拡大と影響を押さえ込むことに貢献しています。最前線で対応を行う人々の勇気と献身に対して緊急委員会は特に称賛しました。

しかしながら、アウトブレイクから1年、拡大の恐れを示す兆候があることに緊急委員会は憂慮しています。多くの場所において明らかな改善がなされているにもかかわらず、ゴマでの新たな感染例がないとしてもゴマから感染が拡大する可能性が懸念されています。緊急委員会はまた、ベニにおける再感染と伝播の継続について、これまで複数の他の地点へのウイルスの播種に関連してきたものであり、憂慮しています。さらに、二人の医療従事者が殺害されたことは、対応を行う者にとって、現地の治安状況が継続的なリスクになっていることを示しています。

加えて、対策のための資源の増加に関するこれまでの勧告にもかかわらず、国際社会は、アウトブレイクへの対応に係る技術支援、人的又は経済的な資源の確保について持続的かつ十分な貢献を行っていません。

結論と助言

緊急委員会の見解は、国際保健規則(2005)に基づく調整された国際的対応が求められているということでした。ゆえに、国際保健規則(2005)に基づく国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の条件に合致しています。

緊急委員会は、PHEICを宣言することが、対応作業にどのような影響を及ぼし、ありうる予期せぬ結果をもたらすのか、それらにどのように対処できるか、ということについて議論しました。国際社会は、2014年の西アフリカにおけるエボラの経験を考慮に入れて、ありうるよくない結果を想定して対応し、事前の対策によりそういった事態が発生することを抑えなければなりません。

PHEICを宣言することは、対応チームが取り組んだ結果の反映ということではなく、増大する国内及び地域のリスクと、これに対処するために強化され協調のとられた行動が求められていることを認識するための手段であります。

緊急委員会は、事務局長が発出するIHR(2005)に基づく公式の暫定的勧告として、次の助言を事務局長に対して行いました。

影響を受けている各国に対して:
・地域社会の理解、関与及び参加の強化を継続すること。入国地点において、リスク状態にある集団に対して、とりわけ、対策を実施する際に十分な参加を得るための障害となる文化的な規範や信仰を同定し対応することを含む。
・国境におけるスクリーニングと国内の主要道路におけるスクリーニングを継続して確実に接触を見逃さないようにすること。また、サーベイランスチームの情報の共有を改善してスクリーニングの質を高めること。
・安全上の脅威を減少させ、治安のリスクを減らし、公衆衛生活動を可能にする環境を疾患管理の促進に不可欠な基盤として構築するために、国連及びパートナーとの協働の努力を継続し強化すること。
・地域社会の死亡の割合と発見から隔離までの時間を減少させるという視点を持ったサーベイランスを強化すること。疾患伝播のダイナミクスのよりよい理解のためのリアルタイム遺伝子シークエンスを含む。
・アウトブレイクを抑えるための効果を最大にするよう最適化したワクチン戦略が、予防接種に関するWHOの戦略的専門家助言グループ(SAGE)が推奨するように、迅速に導入されるべきであること。
・医療施設内感染を防ぐための措置を強化すること。医療施設を体系的にマッピングし、感染防止管理に関する監視と継続的指導の対象として支援することを含む。

近隣諸国に対して:
・リスク状態にある各国は、医療施設のマッピング、無症状の報告を含む積極的サーベイランス等、輸入症例を検知し管理を行うための事前の備えを進めることに、パートナーとともに緊急に取り組む必要があります。
・疾患拡大のリスクを予測することができるよう、人の移動と社会学的なパターンの図面化を継続する必要があります。
・リスクコミュニケーション及び地域社会の関与が、特に入境地点において進められる必要があります。
・リスク状態にある各国は、研究的医薬品及びワクチンの承認手続きを事前準備活動における迅速優先課題として進める必要があります。

すべての国に対して:
・いかなる国も国境を閉鎖し、または旅行や貿易を制限してはなりません。このような措置は通常恐怖心から行われますが、何らの科学的根拠を有しません。これらの措置は、人や物の移動が、監視のなされない非公式の国境を通じて行われるようにしてしまい、よって、疾患が拡大する機会を増加させます。最も重要なことは、これらの制限はまた、地域経済を危うくし、治安と物流管理の観点から、エボラ対策の活動の実施に悪い影響を与えてしまうということです。
・各国の当局は、航空会社及び他の運輸及び旅行業界と協力し、国際交通に関してWHOの助言を超える対応が行われることのないよう努力すべきです。
・緊急委員会は、地域外において、入国時の空港又は通関港におけるスクリーニングは必要ではないと考えています。

緊急委員会は、rVSV ZEBOV GPワクチンについて、2020年までに供給を倍にしようとする称賛に値する努力がワクチン生産者により行われているにも関わらず、供給が不足していることを認識し、医薬品の受託製造機関(CMOs)との協働や技術移転を考慮することも含め、供給を増加させるためのあらゆる措置を迅速に行うよう、WHOが加盟各国及びワクチン生産者とともに努力することを求めました。
緊急委員会は、これらの勧告の有効な履行と監視のため、WHOならびにその他の国内及び国際的なパートナーの継続的支援の重要性を強調しました。
この助言に基づいて、影響を受けた当事国による報告ならびに現在得られる情報に基づき、事務局長は緊急委員会の評価を受け入れ、2019年7月17日、コンゴ民主共和国におけるエボラのアウトブレイクを「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)として宣言しました。
事務局長は緊急委員会の助言を支持し、これをエボラの国際的な拡大を防ぐためのIHR(2005)に基づく暫定的勧告(2019年7月17日発効)として発出しました。
事務局長は、緊急委員会のメンバーとアドバイザーに対して謝意を表明するとともに、状況の再評価を3か月以内に行うよう要請しました。

出典

Statement on the meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee for Ebola virus disease in the Democratic Republic of the Congo on 17 July 2019
https://www.who.int/ihr/procedures/statement-emergency-committee-ebola-drc-july-2019.pdf?ua=1