中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)-アラブ首長国連邦

Disease outbreak news  2019年10月31日

2019年10月7日、アラブ首長国連邦(UAE)の国際保健規則(National International Health Regulations(IHR))の担当窓口は、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の検査室確定症例が1例発生したことをWHOに通知しました。

患者は44歳の男性でアラブ首長国連邦のアブダビのアルアイン市から来た農民の方で、アラブ首長国連邦出身ではありません。2019年9月25日に発熱、鼻水、頭痛、嘔吐、咳、息切れを発症し、9月29日に入院しました。鼻咽頭吸引液が採取され、10月3日にはShiekh Khalifa Medical Centerの検査室で、MERS-CoV陽性であることが逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)によって確かめられました。患者には糖尿病、高血圧、高脂血症などの基礎疾患があります。 症状の発症する前の14日の間、近くの農場でヒトコブラクダや羊と密接に接触したことがあります。 最近の旅行歴はなく、動物の屠殺にも関わっていません。10月14日の時点で、患者は安定した状態であり、集中治療室(ICU)で加療を受けています。

これは、アラブ首長国連邦から報告されたMERS-CoV感染症に関して、2018年5月以降、初めての(ひさびさの)症例です。2012年以来、UAEはMERS-CoV感染の88症例(上記患者を含む)と12人の関連死を報告しています。

世界的には、2012年から2019年10月8日までに、851人の関連死亡を含む合計2,470人のMERS-CoV感染の検査室確認症例がWHOに報告されています。世界の総計数とは、国際保健規制(IHR 2005)にもとづいてこれまでにWHOに報告された検査室確認症例の総数を反映させたものです。死亡者総数には、WHOに報告された死亡者と、関連する加盟国の保健省がフォローアップして報告した死亡者が含まれます。

公衆衛生上の取り組み

患者が特定されると、インシデント報告、症例調査、接触者追跡が開始されました。調査は今も進んでおり、患者が勤務している農場の労働者世帯と業務における接触者、および彼が治療を受けている病院の医療従事者のスクリーニング調査も進んでいます。

これまでに、57人の医療従事者と同じ世帯に住んでいる4人の農場の同僚を含む合計61人の接触者が特定されています。すべての特定された接触者は、最後に患者に接触した時点から14日の間、呼吸器または胃腸の症状の出現について、日々モニターされています。57人の医療関係者のうち、5人は呼吸器症状が出現したので仕事を制限されました。すべての接触者はMERS-CoVの検査を受けて、結果は陰性でした。

獣医当局は通知を受けて、動物におけるMERS-CoVの調査を進行中です。

WHOによるリスク評価

MERS-CoVに感染すると、高い致死率につながる重篤な疾患を引き起こす可能性があります。ヒトはヒトコブラクダとの直接または間接的な接触をすることによってMERS-CoVに感染します。MERS-CoVは、ヒトとヒトとの間で伝播する能力があることがわかっています。これまでのところ、観察された持続的ではないヒトからヒトへの感染は、主に医療施設で発生しています。

この追加の症例の通知は、全体的なリスク評価を変更させるものではありません。WHOは、MERS-CoV感染の追加の症例が中東から報告されることを想定してきました。また、症例が継続的に他の国に伝播していくことも想定しています。ヒトコブラクダや動物性食品(例えば未加工のラクダのミルクの消費など)、またはヒト(例えば医療施設内や家庭での接触など)にさらされた後、感染症にかかる可能性のある個人によって伝播させるからです。

WHOは疫学的状況の監視を継続し、最新の入手可能な情報に基づいてリスク評価を実施しています。

WHOからのアドバイス

現在の状況と入手可能な情報にもとづいて、WHOはすべての加盟国に対し、急性呼吸器感染症のサーベイランスを継続し、異常なパターンがないか注意深く確認することを奨励しています。

医療施設でのMERS-CoVの拡散を防ぐためには、感染予防および制御対策が重要です。他の呼吸器感染症と同じく、MERS-CoV感染症の初期の症状は非特異的であるため、MERS-CoV感染症の患者を早期に特定できるとは限りません。したがって、医療従事者は、診断に関係なく、すべての患者に対して標準感染予防策(standard precautions)を常に用いるべきです。急性呼吸器感染症の症状のある患者に医療提供する場合、標準感染予防策に飛沫感染予防策を追加すべきです。MERS-CoV感染の疑い症例や確定症例の患者をケアするときには、接触予防策と目の保護を追加すべきです。エアロゾルを発生させうる手技を行う場合には空気感染予防策を適用すべきです。

早期検知、症例管理、隔離、適切な感染予防および制御対策によって、MERS-CoVのヒトからヒトへの感染を防ぐことができます。

MERS-CoVは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全などの基礎疾患を抱える人々に、より重篤な疾患を引き起こします。したがって、これらの基礎疾患がある人は、ウイルスが潜在的に常在していることが知られている農場、市場、または家畜小屋を訪れる際に、動物、特にヒトコブラクダとの保護されていない接触を避けるべきです。動物に触れる前後の定期的な手洗いや病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を遵守すべきです。

食品衛生の慣行を遵守すべきです。ラクダの生乳やラクダの尿を飲んだり、適切に加熱調理されていない肉を食べたりすることは避けるべきです。

WHOは、この事象に関して入境地点で特別なスクリーニングを行うことを勧めていません。また、現時点ではいかなる旅行や貿易の制限の適用することを推奨していません。

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) ―The United Arab Emirates
Disease Outbreak News  31 October 2019
https://www.who.int/csr/don/31-october-2019-mers-the-united-arab-emirates/en/