デング熱-スペイン

Disease outbreak news  2019年11月29日

2019年11月6日、スペイン当局はスペイン中央部のマドリード市で男性と性行為の習慣がある男性(MSM)の2人の間でデング熱の性感染の可能性があると報告しました。

最初の患者はキューバに渡航(2019年8月28~30日)し、次にドミニカ共和国(2019年9月2~4日)に渡航しました。どちらもデング熱の流行地です。2回目の旅行からスペインに到着した翌日である2019年9月5日に症状を発症し、2019年9月8日に防護のない性交渉をしたことを報告しました。2番目の患者は2019年9月15日に症状を発症し、症状の発症前の45日間にはスペイン国外への旅行歴はありませんでした。

両方の患者から採取した精液の検体は、PCR検査によってデングウイルスが陽性であり、分子学的検査によって遺伝的に同一であることがわかりました。さらに調査したところ、このウイルスはキューバで伝播しているデング熱ウイルスに類似していることが示されました。

ベクターによる伝播又はその他の伝播経路を示唆するデータがないなか、旅行歴のない2番目の患者は自生の症例と考えられ、性交渉によって感染した可能性が最も考えられます。キューバおよびドミニカ共和国への旅行歴がある症例は、キューバからの輸入デング熱症例とみなされます。

ヒトと蚊の両方のデングウイルスの潜伏期間(ヒト:4~10日、蚊:8~12日)によると、感染源として完全に否定することはできませんが、荷物に紛れ込んだ蚊による伝播の可能性はとても低いと考えられます。一般的にとてもまれな伝播経路と考えるべきものです。

公衆衛生上の取り組み

患者の発生を通知後、スペイン当局は、疫学サーベイランスの国内ネットワーク及びベクター媒介疾患の準備および対応計画のプロトコルに沿って対応をはじめています。

患者とその周辺の住居で昆虫調査が実施されました。デング熱を媒介できるベクター(ヒトスジシマカ)の成体は検出されず、繁殖に向いた場所もありませんでした。患者が1日を過ごしたマドリードの自治区がある他の自治体においても、ベクターの存在の兆候があるか調べましたが、その結果は否定的なものでした。

迅速リスク評価が実施され、結果は国民保健医療システム(National Health System)を通じて広く共有されました。ケースマネジメントの推奨事項に関する文書についてのレビューが検討されています。

このイベントは国際保健規則(IHR2005)に基づいて、EUの早期警戒対応システム(EWRS)及び世界保健機関(WHO)に2019年11月6日づけで通知されました。

WHOによるリスク評価

デング熱が異性間の性交渉で感染した可能性があり文書化された症例は2013年に韓国でみられたもののみです。男性と男性(MSM)による性交渉による感染の文書化された症例の記録はないため、このような性的な伝播の経路はまれだと考えられます。しかしながら、感染した男性の精液又は感染した女性の膣分泌物にデング熱ウイルスが存在する可能性を示唆するエビデンスが査読済みの文献においてみられます。

患者が住んでいる地域ではベクターが根付いていないため、スペインのマドリードにおいて、ベクターが媒介するデング熱は続発しないと考えられます。スペイン当局から提供されたデータによると、2017年以降マドリードの自治体で行われている昆虫学的サーベイランスによって、患者が訪問した地域から遠く離れた1つの自治体(Velilla de San Antonio)でのみ、ネッタイシマカの存在が検出されました。さらに今後の冬の季節によってベクターの活動は抑制される見込みです。

過去の数年間にデング熱の症例がスペインのサーベイランスネットワークに報告されており、2018年には198例、2017年に132例、2016年に262例、2015年に191例が報告されています。報告されたほぼすべての症例は国外から持ち込まれたもので、地域内で伝播したものは、2018年に初めて報告された症例(6例)と2019年(この報告書に含まれる症例の前の1例)です。7例の地域内で伝播した症例のすべては、ベクターが媒介する伝播によるもので、ムルシアおよびカタルーニャ自治区といったヒトスジシマカが土着している地域から報告されており、デング熱流行地域への最近の旅行歴はありませんでした。

2004年に最初のヒトスジシマカがスペインのカタルーニャで検出されました。それ以来、ヒトスジシマカは南の海岸沿いに発見され、最近ではスペイン西部のいくつかの自治体でわずかに見つかっているだけです。冬のムルシアではヒトスジシマカの活動性が弱い証拠があります。この地域の昆虫学的サーベイランスによって、春の4月または5月に蚊の個体数の増加の活動がはじまって7月または8月にピークに達することが示されています。9月に2番目のピークが続くこともあります。

WHOの推奨事項

デング熱に対する特別な治療法はありません。しかし、タイムリーアプローチ、患者の発見、デング熱の重症化の警告サインの監視とともにケースマネジメントがデング熱による患者の死亡を防ぐことにおいて医療の鍵になります。受療行動の遅れがしばしば死に関係します。

この経路によってデング熱が伝播するかを判断するには、さらなる調査をしなければなりません。感染症の臨床医に情報を提供し、非流行地域や低流行地域に住んでいる旅行者や住民にアドバイスを提供するために、性感染症のリスクを数量化するとともにリスク因子を特定しなければなりません。

さらに、ベクターが存在するエリアでは、統合的ベクターマネジメント(IVM)活動を強化すべきであり、潜在的な繁殖場所を除去し、ベクターの個体数を減らし、個人の曝露を最小化すべきです。これには、幼虫と成虫の両方の媒介生物駆除戦略(すなわち、環境管理と発生源の削減、化学的な駆除対策)を含むべきです。ベクターと人間の接触を防ぐために、世帯、職場、学校、および医療施設などでベクターコントロールの方策が実施されるべきです。

ベクターとしての能力を有するネッタイシマカは日中に活動的になることを踏まえて、皮膚の露出を最小限に抑えるような蚊に刺されにくい服装をすることや、露出した皮膚または衣服に塗布できる蚊よけの使用などの個人保護対策が推奨されます。ただし、蚊よけを使う場合にはラベルの指示に厳密に従わなければなりません。窓やドアの網戸、および蚊帳(殺虫剤が含まれるものそうでないものも)は、昼夜を問わず閉鎖空間のなかでベクターと人間の間の接触を減らすのに役立ちます。

WHOは、今回のイベントを含め、国際的に拡大するリスクのないイベントにおいて、旅行または貿易のいかなる制限も適用することは推奨しません。

出典

Dengue fever -Spain
Disease outbreak news   29 November 2019
https://www.who.int/csr/don/29-november-2019-dengue-spain/en/