デング熱-パキスタン

Disease outbreak news 2019年11月19日

パキスタンの保健当局は、現在も続いているデング熱のアウトブレイクに対応しています。今回のアウトブレイクは、2019年7月8日にカイバル・パクトゥンクワ州(Khyber Pakhtunkhwa)のペシャワール(Peshawar)にある、カイバル研修病院 (Khyber Teaching Hospital) から最初に報告されました。それ以降も、3つの州(パンジャーブ(Punjab)、バルチスタン(Balochistan)、シンド(Sindh))とイスラマバード首都圏(Islamabad Capital Territory)、アザド・ジャンムー・カシミール(Azad Jammu and Kashmir)(2つの自治区のうちの1つ)からデング熱の症例が報告されました。

2019年7月8日から11月12日までに、75人の死亡を含む合計47,120人のデング熱の確定例が4つの州(カイバル・パクトゥンクワ、パンジャーブ、バルチスタン、シンド)とイスラマバード、アザド・ジャンムー・カシミールから報告されました。

以下はそれぞれの州におけるデング熱の状況の更新です。

カイバル・パクトゥンクワ
2019年7月8日から11月12日までに、合計7,641人のデング熱の確定例がカイバル・パクトゥンクワと同州の部族地域から報告されました。女性に対する男性の比率は1でした。検体は血清型検査に送られ、カイバル・パクトゥンクワにおけるデングウイルス1型(DENV-1)とデングウイルス2型(DENV-2)の陽性が確認されました。

パンジャーブ
2019年8月1日から11月12日までに、16人の死亡を含む合計9,676人のデング熱確定例が報告されました。ラーワルピンディーから得られた9つの陽性検体によって、パンジャーブ州におけるDENV-2の伝播が確認されました。

アザド・ジャンムー・カシミール
2019年8月1日から11月12日までに、1人の死亡を伴う1,689人のデング熱確定例が報告されました。

イスラマバード首都圏
2019年8月6日から11月12日までに、22人の死亡を含む12,986人のデング熱確定例がイスラマバードの主要な8つの病院から報告されました。合計17の新規の検体はイスラマバードにある国立衛生研究所(the National Institute of Health)の検査室で検査されました。DENV-1は3つの検体から、DENV-2は14の検体から、それぞれ分離されました。これは両方の血清型の伝播が現在も続いていることを示唆しています。

シンド
2019年9月1日から11月12日までに、33人の死亡を含む12,053人のデング熱確定例が報告されています。

バルチスタン
2019年9月18日から11月12日までに、3人の死亡を含む合計3,075人のデング熱確定例が報告されました。5つの陽性検体の血清型検査によりDENV-1の伝播が確認されました。同州におけるベクターサーベイランスにより、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)の存在が示されました。


公衆衛生上の取り組み

WHO国事務所は、以下の対応活動によってパキスタン政府を支援しています。

• 現在も継続しているデング熱のアウトブレイクに対する、包括的な対応計画の作成。計画には症例管理、デング熱のサーベイランス、ベクターコントロール、地域住民の動員と地域連携が含まれています。

• ラーワルピンディーのホリー・ファミリー病院、イスラマバードのパキスタン医科大学研究所病院、ラーワルピンディー駅での社会参画推進活動の支援。

• 蚊に対する殺虫剤の噴霧器に加え、学校、鉄道の駅、その他の公共の場所にデング熱ウイルスの情報を提供するために配布する数千枚のチラシ、ポスター、新聞の見出し、パンフレットの寄付。

以下の対応策はパキスタンの保健省によって実施されたものです。

• 州の医療部門と密に連携して本疾病の現状を監視するべく、2019年9月16日に国立健康危機対策本部機関(The National Institute of Health Emergency Operation Center)が発足しました。

• ベクターサーベイランスとベクターコントロールの活動はイスラマバードとパンジャーブで開始されました。イスラマバードでは、採取された71の検体のうち28の検体(39%)にネッタイシマカの幼虫が存在していました。

• 症例報告のため、ほとんどの公立病院と個人病院がパンジャーブ州情報技術委員会(the Punjab Information Technology Board)に登録されています。症例のマッピングのためのダッシュボード(疫学的状況がリアルタイムで表示されるシステム)が作成されています。

• 感染地域での地域レベルおよび世帯単位での積極的な対応を実施するため、迅速対応チームが配置されています。

• 全ての州で、症例の無料診断と臨床管理サービスを準備しています。

• 日報が連邦政府と州の健康部門に共有されています。

• 季刊の注意啓発文書(The Seasonal Awareness & Alert Letter)とデング熱の予防と制御に関する勧告(Advisory on Prevention and Control of Dengue)が、情報、教育、広報資料と合わせて大規模に広められました。

• 保健省に、24時間365日稼働のデング熱の制御と対応部局(Dengue Control & Operations Cell)が設置されました。当部局はデング熱対策計画で包摂される世帯からのフィードバックの取得にも携わります。

WHOによるリスク評価

デング熱は蚊によって媒介される感染症で、4つの血清型のデング熱ウイルス(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)によって引き起こされます。1つの血清型への感染により同じ血清型への長期間の免疫が付与されますが、その他の血清型への免疫は付与されません。一連の感染により人々は、重症型デング熱とデングショック症候群に対するリスクが増大しています。パキスタンにおけるデング熱は、季節性の症例急増の報告がある風土病であり、同国の様々な場所で異なる血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3)が流行します。

国家レベルでの全体のリスクは高いです。デング熱のアウトブレイク対応のイニシアティブは、ペシャワールにおける2017年のアウトブレイク中にパキスタンに導入されましたが、今日の実践には全く反映されませんでした。影響を受けた州におけるデング熱に対する十分なサーベイランス体制が欠如している中で、アウトブレイクの拡大を追跡することが困難であった可能性があります。現在のアウトブレイクは、保健医療サービス提供者がデング熱の検出と症例管理に敏感になる必要性、疾病負担と季節傾向をより正確に把握するべくパキスタンにおける急性熱性疾患のサーベイランスが改善される必要性を強調しています。

地方での全体のリスクは中等度と評価されています。ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)はイランと国境を共有しているバルチスタン州に存在することが知られていて、2018年にはアフガニスタンでも、カイバル・パクトゥンクワ州と接している地域から検出されました。この国境は、1日に約2,000人の国境を越えた移動があります。アフガニスタンはデング熱のような蚊によって媒介される疾患に対する監視と対応についてさらなる支援を行う必要があります。アフガニスタンでアウトブレイクが拡大した場合、地域資源の確保が課題となると見込まれています。デング熱症例はインドとの国境にあるシンドとパンジャーブ州においても報告されています。

世界レベルでのリスクは低いと評価されています。

WHOからのアドバイス

蚊の繁殖地のヒトの居住地への近接はデング熱感染の有意なリスクファクターとなります。デング熱の特異的な治療法はありませんが、早期発見と適切な医療を受けることが死亡率を下げます。加えて、デング熱の予防と制御はベクターコントロール措置にかかっています。

WHOは、ベクターとしての蚊を制御するために総合的ベクター対策管理(Integrated Vector Management)として知られている戦略的アプローチを進めています。ここにはヤブカ属(Aedes spp)が含まれます(デング熱のベクター)。総合的ベクター対策管理の活動を強化し、潜在的な繁殖地の除去、ベクターの生息密度の減少、個体の曝露の最小化強化がなされるべきです。ここでは幼虫と成虫のベクターコントロール戦略(例えば環境管理、繁殖地削減、化学的制御策)と、個人や世帯を保護する戦略も含まれるべきです。ベクターコントロール活動はヒトとベクターの接触が起こる全ての環境を対象とするべきです(住居、職場、学校、病院を含む)。

ベクターコントロール活動には、毎週、全ての家庭用水貯留槽の遮蔽、水の廃棄と清掃が含まれる可能性があります。さらに、推奨殺虫剤は屋外の貯水槽への適量使用も可能です。

家屋内の蚊刺が起こる場所では、家庭用噴霧器、蚊取り線香、またその他の殺虫剤の噴霧器により蚊刺の活動性を減少させる可能性があり、それらの製品のラベル表記に従って使用されるべきです。窓、網戸、空調の設備といった家庭用の設備もまた蚊刺を減少させることができます。ヤブカ(第一媒介種)は日中に刺す蚊であるため、日中に肌の露出を最小限にする衣服の着用といった、個別の保護策が推奨されます。防虫剤は露出した肌または衣服に適用される可能性があります。殺虫剤で処理した蚊帳は、夜間の蚊刺の予防と同様、日中眠る人々(例えば乳幼児、病気または年齢のためにベッドに寝たきりの人、デング熱患者、夜勤の労働者)の良好な保護を可能にします。

加えて、サーベイランス(ベクターと症例追跡)は、全ての影響を受けた地域で、また国家レベルで強化され続けるべきです。ベクターサーベイランスは活動を統制するためのガイダンスを提供し、影響を評価するべきです。

デング熱の集団伝播のリスク低減に関する主要な公衆衛生上のコミュニケーションメッセージは、マスメディア、医療センター、その他の手段を介して提供され続けるべきです。

WHOは、現在利用可能な情報に基づいて、パキスタンへの一般的な渡航または貿易に対していかなる制限も推奨しません。

パキスタンのデング熱についてのさらなる情報は以下をご覧ください。

出典

Dengue fever – Pakistan
Disease outbreak news, 19 November 2019
https://www.who.int/csr/don/19-november-2019-dengue-pakistan/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja