デング熱-スーダン共和国

Disease outbreak news  2019年11月22日

2019年10月10日に、スーダン国際保健規則(IHR)国家担当窓口は、カッサラ州(Kassala)における99人のデング熱疑い例についてWHOに通知しました。最初に報告された症例は、高熱、頭痛及び関節痛を含む、嘔吐を伴う、または伴わない症状があり、2019年8月8日に医療機関を受診しました。

2019年8月8日から11月4日までに、5人の死亡を含む合計1,197人のデング熱疑い例が7つの州から報告されました。州の内訳はカッサラ(1,111例;3人の死亡)、西ダルフール(Darfur)(43症例;1人の死亡)、北ダルフール(29症例;1人の死亡)、紅海(Red Sea)(9症例;0人の死亡)、南ダルフール(3症例;0人の死亡)、ガダーレフ(Gadarif)(1症例;0人の死亡)、北コルドファン(Kordofan)(1症例;0人の死亡)となっています。

125の検体が検査され、そのうち71(57%)がハルツーム(Khartoum)の国立衛生研究所(the National Public Health Laboratory)のデング熱検査陽性でした。検査は免疫グロブリンM(IgM)を使用した酵素免疫測定法(ELISA)とポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行われました。症例の54%が女性、93%が5歳より上の年齢でした。1,197人のデング熱疑い症例のうち、95症例(7.9%)は出血症状を示しました。

図1.7つの州における時系列順のデング熱の拡大


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公衆衛生上の取り組み

以下の公衆衛生上の対策が実施されています。

• 2019年8月1日から連邦レベルの対策本部委員会が始動しました。
• 影響を受けた地域の日報と積極的症例調査のため、サーベイランスチームが訓練・配置されました(8月17日時点)。
• スーダンの全地区に指定された158の観測地点における日報と強化サーベイランスが開始。州・地域レベルでアウトブレイク調査チームが活動を再開し、全ての報告症例が調査されています。
• 予防とベクターコントロール対策が報告症例の家とその周囲の家に適用されています。
• WHOとスーダン保健省は、カッサラ州の全地区からの220人の医療従事者に、サーベイランス、症例定義、症例管理のプロトコールの訓練を実施しました。
• WHOは、症例管理の物資不足を解消すべく、2,000個の点滴用の乳酸リンゲル液と500回分のパラセタモールを提供しました。
• ベクターコントロールの介入が実施。紅海州のポートスーダン(Port Sudan)では、合計1,225世帯が調査され、そのうち29世帯がヤブカ属の存在に対して陽性であることが見つかり、1,949世帯で殺虫剤の噴霧が行われました。
• WHOは、カッサラ州の主要な病院でデング熱の症例定義と症例管理のプロトコールの印刷と配布を支援しています。

WHOによるリスク評価

デング熱はスーダンの風土病です。複数のアウトブレイクが2010年、2013年、2017年に記録されています。スーダンで伝播しているデング熱ウイルスの血清型の情報はまだ入手されていません。この点で、デング熱ウイルスについてのさらなる調査の実施が必要とされています。

現在のデング熱のアウトブレイクは、チクングニア熱、リフトバレー熱、マラリア、コレラといったその他の現在も続いているアウトブレイクと同時に起こっています。公共の医療機関による制御と対応のキャパシティには限りがあります。長年に渡る政治的な紛争や市民の衝突により、アウトブレイクの制御と予防に対する国家のキャパシティは落ちています。

2019年8月8日にアウトブレイクが開始して以降、デング熱は同国全域の7つの州に拡大しました。現在までに5人の死亡が報告されています。チクングニア熱、マラリアとの高い同時感染の可能性は症例管理を複雑にし、予後不良となる可能性があります。

デング熱ウイルスの国外への拡大のリスクは、近隣の国々に伝播能力のある蚊のベクター(ヤブカ属)が存在するために高くなります。それらの国々はまた、過去に洪水、季節性の豪雨が起きたことがあり、効果的なベクターコントロールが欠如しています。紅海州の州都であるポートスーダンは、多数の国際貿易や輸送を行う紅海の最重要港で、さらなる国外への拡大を潜在的に引き起こす可能性があります。

WHOからのアドバイス

蚊の繁殖地が人の居住地に近接していることは、デング熱ウイルス感染の重要なリスクファクターです。デング熱感染に対する特異的な治療法はありませんが、早期発見と適切な医療を受けることは死亡率を低下させます。早期発見と症例管理により死亡率が低下させられるように、重症デングの前兆を全ての医療従事者に情報を与えるための活動がなされるべきです。効果的なベクターコントロールの対策の実施はまた、デング熱の予防と制御にとって必須のものです。

WHOは、ヤブカ属(デング熱の第一媒介種)を含む蚊のベクターを制御するための、総合的ベクター対策管理(Integrated Vector Management;IVM)として知られている戦略的なアプローチを勧めています。総合的ベクター対策管理の活動では、潜在的な繁殖地を除去し、媒介蚊密度を減少させ、個体の曝露を最小化させることを強化するべきです。これには幼虫と成虫のベクターコントロールの両方の戦略が含まれているべきで(例えば環境の管理、ソースリダクション、化学的制御策)、個人と家族を守る戦略も同様に含まれるべきです。ベクターコントロールの活動は、人とベクターの接触が起きる全ての場所(住居、仕事場、学校、病院)を対象とするべきです。

ベクターコントロール活動には、毎週、全ての家庭用水貯留槽の遮蔽、水の廃棄と清掃が含まれる可能性があります。さらに、推奨殺虫剤は屋外の貯水槽への適量使用も可能です。制御策はまた、ヤブカが日中刺す蚊であることから、職場や学校を対象にするべきです。

家屋内での蚊刺が起きる場所では、家庭用エアロゾル製品、蚊取り線香、その他の殺虫剤の噴霧器が蚊刺の活動性を低下させる可能性があります。窓、網戸、エアコンの装置といった家庭の設備もまた、蚊刺を減少させることができます。日中の肌の露出を最小化させる衣服の使用といった、個人の保護対策が推奨されています。殺虫剤は露出した肌や衣服に使用することができます。殺虫剤を噴霧した蚊帳は睡眠中の蚊刺に対して、特に日中眠る人(乳幼児、病気や年齢のために寝たきりの人、デング熱患者、夜勤の労働者など)の良好な保護を可能にします。

ベクターサーベイランスと症例追跡は、全ての影響を受けた地域内と国家のレベルで強化を続けるべきです。ベクターサーベイランスは制御活動と影響の評価に対するガイダンスを提供するべきです。

デング熱の伝播のリスクを減少させることについての主要な公衆衛生上のコミュニケーションメッセージは、マスメディア、医療機関、その他の公共の場所で提供され続けるべきです。

WHOは現在入手可能な情報に基づき、スーダンへの、またはスーダンからの渡航や貿易についてのいかなる制限も推奨しません。

デング熱についてのさらなる情報は、下記のリンクをご覧ください。

出典

Dengue fever – Republic of the Sudan
Disease outbreak news, 22 November 2019
https://www.who.int/csr/don/22-november-2019-dengue-sudan/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja