中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)-アラブ首長国連邦

Disease Outbreak News:更新 2020年1月8日

2019年12月29日に、アラブ首長国連邦の国際保健規則(IHR)の担当窓口は、1人の中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染の検査確定例をWHOに報告しました。

症例は74歳男性のアラブ首長国連邦の国民で、居住している同国のアブダビ地域、アル・アイン市にあるラクダ農場を所有しています。男性は2019年12月8日に発熱し、咳嗽と咽頭痛が出現しました。男性は12月10日に入院し、12月16日にICUへ移りました。シーク・ハリファ・メディカルセンター検査室で、12月16日に鼻咽頭吸引物の検体が採取され、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(UpEとOrf1aの各遺伝子)による検査が行われたところ、MERS-CoVに陽性反応を示しました。男性は基礎疾患として、高カリウム血症、糖尿病性腎症を伴う糖尿病、心疾患、喘息、高血圧を有しています。男性はまた、症状が出現する以前の14日間に、所有する農場において、ヒトコブラクダと羊との濃厚接触の経緯があります。男性に最近の渡航歴は無く、食肉処理のための解体への関与もありません。現在患者は集中治療室で隔離され、安定した状態にあります。

2012年以降、アラブ首長国連邦は89人のMERS-CoV症例(本症例を含む)と12人の関連死を報告しています。2012年から2019年12月29日までに、世界でWHOに報告されたMERS-CoV感染の検査確定例の総数は、858人の関連死を含む2494人です。世界の症例数は、現在までにIHRの下でWHOに報告された検査確定例の総数を反映しています。死亡者の総数には、影響を受けた加盟国とともに行っているフォローアップを介して、現在までにWHOが把握している死亡者を含んでいます。

公衆衛生上の取り組み

患者の発見後、インシデントレポート、症例調査、接触者追跡が開始されました。調査は現在も進行していて、職業上の接触者、家族内の接触者、男性が治療を受けた病院の医療従事者を含む、全ての濃厚接触者のスクリーニングが含まれています。同定された確定例との接触者は全て、最後の曝露の後の14日間、呼吸器症状または消化器症状の有無を毎日観察される予定です。

医療従事者の接触者70人と家庭内の接触者18人を含む、総計88人の接触者が確認されました。患者の全ての濃厚接触者はMERS-CoVに対して検査陰性でした。獣疫当局は動物におけるMers-CoV感染の調査が進行中であると通知しています。

WHOによるリスク評価

MERS-CoVによる感染は高い死亡率をもたらす重篤な疾患を引き起こす可能性があります。ヒトは、ヒトコブラクダとの直接的または間接的な接触を通してMERS-CoVに感染します。MERS-CoVはヒトの間で感染伝播する限定的な能力が実証されています。これまでに観察された非持続性のヒト-ヒト感染は主に医療施設で発生しています。

これらの新規症例の報告は、全体的なリスク評価を変えるものではありません。WHOはMERS-CoV感染の新規症例は中東から報告されると予測しています。またヒトコブラクダ、動物性食品(例えば未加工のラクダのミルクの消費)、ヒト(例えば医療施設内での接触)への曝露により感染したかもしれない個人によって、他国への感染症例の流出が続くと予測しています。

WHOは疫学的状況の監視を継続し、最新の入手可能な情報に基づいてリスク評価を実施しています。

WHOからのアドバイス

現在の状況と入手可能な情報に基づき、WHOは全ての加盟国に対し、急性呼吸器感染症に対するサーベイランスを継続し、あらゆる異常なパターンを慎重に評価することを奨励しています。

感染予防と管理は、医療施設でのMERS-CoVの拡大を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的であるため、MERS-CoV感染症の患者を早期に特定することは必ずしも可能ではありません。したがって、医療従事者は、診断に関係なく、常にすべての患者に対して一貫した標準予防策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の症状がある患者に治療を行う場合は、飛沫感染予防策を標準予防策に追加する必要があります。MERS-CoV感染の疑い例または確定例を治療するときには、接触感染予防策および眼の保護具を追加する必要があります。エアロゾルを発生させうる手技を行う際は、空気感染予防策を講じる必要があります。

早期発見と症例の管理および隔離は、適切な感染予防と管理の対策とともに、MERS-CoVのヒト-ヒト感染を予防することができます。


MERS-CoVは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患や免疫不全のような慢性疾患がある人々に対し、さらなる重症化を引き起こします。したがって、これらの人々はウイルスが潜在的に伝播しているということが知られている農場、市場、または家畜小屋などを訪れる際に、動物、特にヒトコブラクダとの濃厚接触を避けるべきです。動物に触れる前後の手洗い、病気の動物との接触の回避といった一般的な衛生対策は徹底されるべきです。

食品衛生の手技は監視が必要です。ラクダの生ミルクや尿を飲むことは避けるべきで、適切に加熱調理されていないラクダ肉を食べることも控えるべきです。

WHOは本件に関して、入境地点での特別なスクリーニングは勧告しておらず、現時点ではいかなる渡航や貿易の制限も推奨していません。

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – The United Arab Emirates
Disease outbreak news, 8 January 2020
https://www.who.int/csr/don/08-january-2020-mers-uae/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja