2010年のニュース

警報:アメリカ地域でのデング熱の増加

PAHO Epidemiological Alert 2010年7月07日

今年の上半期を通して、デング熱の流行状況は非常に危惧されるものになっており、この地域の国の中には、非常に大規模なデング熱のアウトブレイクがみられた国がありました。気候条件はベクターである熱帯シマカが増殖するのに非常に都合の良いものであり、今年初めから中央アメリカやカリブ海諸国では、デング熱の流行が通常ではみられないシーズンパターンで起きていることが報告されていました。

中央アメリカおよびカリブ海諸国は雨期に入りつつあり、通常気候が寒いためにベクターが生き残れない環境であった地域や寒気が訪れるのが遅れた地域など、デング熱流行がみられなかった地域で、多くの住民に影響を与える可能性のあるデング熱発生が危惧されたり、すでに流行が起きつつあります。

これに加えて、特にデング熱の土着流行地域では公衆衛生上のインフラストラクチャーが整っておらず、例えば水の供給が不安定なため不適切な方法で貯水していたり、地域の衛生状態が悪く、プラスチック製のごみ箱に雨水がたまっていたり、使用済みタイヤが適切に廃棄されず多量に放置されることなどが起きています。このため、熱帯シマカにとっては非常に成育上好都合な環境となっており、多量の成虫が発生し、流行を起こしています。流行リスクは次第に危機的な状況になっています。

この流行警報によって、PAHOおよびWHOはデング熱を制御するための手段を強化し、より大きい効果が得られるように、すべての活動が地域と時期に即して行われるよう組織だったものであるように呼びかけています。保健部門はデング熱による患者死亡が起きないように、診断や治療に対してあらゆる努力を払わなければなりません。一方、ある部局だけでなく、すべての保健機関、省庁、NGO、個人組織、一般市民のすべてを含む、包括的な体制によって対応するという原則に基づいて、ベクターコントロールのため、組織を強化しなければなりません。

同時に、デング熱の予防やコントロールのために、国家的戦略を上に掲げたような弱点を補うように立て、実行する努力を続けなければなりません。PAHOおよびWHOは各国に対して地域のデング熱アウトブレイクの予防およびコントロールのため、疫学的サーベイランス、ベクターコントロール、臨床管理、検査室診断、環境および社会的コミュニケーション、リスクコミュニケーションの専門家による技術上の援助を提供しつづける予定です。

疾患およびアウトブレイクの状況を直ちにPAHOに提供することによって、感染が起きた国に対して迅速に対応できるよう、組織だった国際的協力がいち早く実行できます。

アメリカ大陸でのデング熱のアウトブレイク情報

このアップデート情報はPAHOの加入国の保健省による、PAHO/WHO対する文書通告か、ウェブサイトへの掲載情報からえられたものです。
この報告書の日付までに、この地域の各国でのデング熱症例の総数は、1,009,576 例で、そのうちの21,213例が重症例でした。全部で503の死亡例が報告されており、この地域での症例の致死率は2.3%でした。

表1 アメリカ地域でのデング熱症例数、重症者数、死亡数(2010年26週まで)

地域 症例数 罹患率
(/10万人)
重症例 死亡例 死亡率(%)
(対重症例)
中央アメリカ
メキシコ
82,044 55,83 2,443 42 1,72
アンデス地域 146,283 142,80 11,538 102 0,88
コーノ・スール 742,411 306,17 6,475 336 5,19
カリブ海地域
(スペイン語圏)
7,040 29,70 472 18 3,81
カリブ海地域
(フランス語圏)
31,798 400,69 285 5 1.75
全例 1009,576 192,85 21,213 503 2,37
中央アメリカおよびメキシコ

コスタリカ

症例数:2010年第23週までに、コスタリカ保健省は8,307例のデング熱症例を報告しております。この国で2010年第1週から第23週の間に報告された症例数は、前年度の同じ時期に比べて408%増加しており、過去の3週間にわたって症例数が増加する傾向があります。
重症度: 7例の重症デング熱が報告されております。死亡例はありません。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3
流行地域:Chorotega (Cañas, Carrillo, Abangares and Santa Cruz), Central Pacific (Peninsula, Puntarenas Canton and Rural), North Central (Alajuela), Brunca地区で全症例の84.9%を占めています。確認された症例数に基づく国全体の罹患率は、人口100,000人対159.1例でした。

エルサルバドル

症例数:2010年第26週までで、エルサルバドル保健省は13,712のデング熱症例を報告しています。このうち5,955では検査によって確定されたものでした。
重症度:検査によって確定した重症デング熱症例は91例でした。今のところ致死例は報告されていません。
流行している血清型:DEN-1, 2
流行地域:健康システムによって確認されたところ、症例罹患率が最も高かったのは、Cabañas (220.4), Oriente de San Salvador (201.7), Chalatenango (191.3), Santa Ana (190,2), Cuscatlan ( 187.2) , La Paz (157.1)でした。
対応:雨季になって熱帯シマカの幼虫数が増大するリスクが増えています。きたる数週間で国全体で消毒を行う予定が組まれました。

グアテマラ

症例数:2010年第25週までにグアテマラ保健省は6,190例のデング熱症例を報告し、このうち679例が検査で確定されたものでした。
重症度:98例の重症デング熱症例が確定しており、13例が死亡しました。
流行している血清型:DEN-1, 2
流行地域:Zacapa, Chiquimula, Escuintla, Santa Rosa.
対応:感染が起きている自治体のほとんどで、ベクターを制御するための活動が続いており、医療関係者に対して、デング熱患者管理のために訓練集会が設けられています。

ホンジュラス

症例数:2010年第25週までにホンジュラス保健省は12,385例のデング熱臨床症例を報告しており、このうち1,066例が検査確定例でした。この6週間の症例数は増加傾向です。
重症度:475例の重症デング熱例が確認されており、13例が死亡しました。
流行している血清型:DEN-1, 2
流行地域:Metropolitana MDC 276 (56%), Metropolitana SPS 70 (14%), Yoro 21 (4%), Comayagua 17 (3%) , Olancho 17 (3%) これらの5つの地域で症例の85%を占めています。
対応:6月20日、ホンジュラス政府はデング熱症例数の増加に基づいて、国家非常事態を宣言しました。研究所内に内部委員会が設けられ、この非常事態に対応する計画を作成する責任を持つ保健省の協力を受けています。PAHO/WHOのホンジュラス地域事務局は、2010年3月にホンジュラスに派遣されたデング熱対応チームの行った勧奨に基づいて援助を行っています。7月5日から9日にかけて、PAHO/WHO GTデング熱専門家の援助のもとに、国家レベルで訓練集会が開催されています。この訓練は小児重症デング熱患者の管理を目標に掲げています。

メキシコ

2010年第24週までにメキシコ保健局は7,191例のデング熱確定症例を報告します。
重症度:1,648例の重症デング熱確定症例があり、13例の死亡が報告されています。
流行している血清型:DEN-1, 2 このうちDEN-2が優位に流行しています。
流行地域:最も感染者の多い州は、Guerrero, Colima, Jaliscoです。確認症例数は、昨年に比して国全体としては少数であり、デング熱の発生状況は想定範囲です。
対応:ベクター制御、庭からの蚊の排除よる環境整備、地域住民の啓蒙に関して努力が続けられています。

アンデス地方

コロンビア

症例数:2010年第23週までに、国家サーベイランスシステムには全部で90 ,360例のデング熱疑い症例が報告されました。この中で36,744例が検査で確定されたものでした。
重症度:これらの症例のなかで6,852例が重症デング熱で、そのうちの3632例が検査で確定されたものでした。デング熱によって死亡したと考えられる症例は99例で、その他29の死亡例で調査が行われています。 流行している血清型:DEN-1, 2, 3, 4 DEN-2が優勢です。
流行地域:国全体のレベルで、流行地域でendemic channelが持続していますが、減少する傾向にあります。しかし、今週Antioquia, Arauca, Bolívar, Cundinamarca, Huilaでは症例数が増加する傾向がありました。
対応:今週、国立衛生研究所およびla Dirección Nacional de Calidad del Ministerio de Saludは、Quindi地区に治療レベルを改善するための技術的援助を行いました。次週、VaupésおよびArauca地区でも、デング熱発生に対応できるよう同様の活動が行われる予定です。

ベネズエラ

症例数:2010年第24週までにベネズエラ保健省は全部で48,581例のデング熱症例を報告しました。流行がみられた地域では引き続き流行が続いており、この第17週から24週にかけての症例数は一貫して上昇しています。今週の傾向は前週と同様です。
重症度:国全体の罹患率は人口100,000に対して132.4です。10の行政地域(Amazonas, Merida, Tachira, Monagas, Nueva Esparta, Miranda, Trujillo, Guarico, Barinas, Federal District)ではこれよりも高値です。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3, 4
対応:5月にPAHO/WHOのデング熱地域アドバイザーが、ベネズエラの要請によって現地に赴き、社会的コミュニケーションに関するトレーニングを行いました。PAHO/WHO ベネズエラ国家事務局はベネズエラ保健省に対して技術援助とアドバイスを引き続き行っています。

アメリカ大陸南部

アルゼンチン

症例数:2010年第22週までに報告されたデング熱疑い症例は1,284例でした。ここ数週では明らかな増加傾向が見られず、同程度で見られています。
重症度:死亡症例は報告されていません。
流行している血清型:DEN-1, 2, 4
流行地域:Buenos Aires, Capital Federal, Catamarca, Chaco, Chubut, Corrientes, Entre Rios, Formosa, Jujuy, La Pampa, Mendoza, Misiones, Salta, Santa Fe, Santiago del Estero.
対応:感染発生地域での治療ネットワークおよび制御法の強化が施行されています。これには、消毒、アウトブレイク制御、蚊の生息場所に対する幼虫殺虫剤の使用、感染者の家の周囲への殺虫剤の散布、デング熱様症状を示した患者に対する地域の調査、などが行われています。

ブラジル

症例数:2010年第27週までにブラジル保健省は730,5807例のデング熱疑い症例と203,197例の確定症例を報告しています。
重症度:重症デング熱症例は6,438例確認され、321例が死亡しました。致死率は4.9%です。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3
流行地域:国の南部地域で臨床症例の419,385例以上が報告されており、このうち2,457の確定例と172例の死亡例がみられました。症例報告がもっとも多かったのは、Minas Gerais州およびSao Paulo州でした。現在のところすべての地域で症例数は減少しています。
対応:国内発生状況がモニタリングされています。ブラジルPAHO/WHO地域事務局はブラジル保健省に対して、暫定的にデング熱専門家を任命することによって援助を行っており、Special Technical Group for dengue for the Health Surveillance Secretariat of the Ministry of Health (SVS / MS)による活動を行っています。 Goias (Goiânia y Aparecida de Goiânia); Minas Gerais (Belo Horizonte)のような都市では、流行に対抗するために、SVS / MSおよび州および自治体保健事務局に対して直接の支援が行われています。それに加えて、PAHO/WHOによるリボルビング基金(第40期協力基金)によって、殺虫剤といった戦略物資が規則的に国内供給されるように、支援されています。

パラグアイ

症例数:2010年第22週までに、サーベイランスシステムに報告されたデング熱疑い症例は全部で17,530例です。確認された症例数は8,277例になり、確認症例数全体に占める15歳未満の割合は16.4%でした。流行は非常に大規模なもので、人口100,000人に対しての罹患率は100人です。しかし症例数は現在減少傾向にあります。
重症度:15例の死亡例が確認されました。
流行している血清型:DEN-1, 2, 3
流行地域:最近の地域報告によると、Alto Paraná, Central, Capital, Concepcionでは、引き続き低レベルの流行が起きています。
対応:国の流行カーブは強い減少傾向を示しています。今後はパラグアイの地域で流行が完全になくなることが考えられます。発熱例に対する調査、流行地域の蚊の生育環境の根絶措置や地域啓蒙活動が行われました。

スペイン語圏カリブ海諸国

プエルトリコ

症例数:2010年第22週までにプエルトリコ保健局は3,541例のデング熱症例を報告し、その1,658例が検査診断されたものでした。Endemic channelによると、流行地域では症例報告が続いています。
重症度:20例の重症デング熱がみられ、2例の死亡が確認されました。
流行している血清型:DEN-1, 2, 4
対応:健康局はベクターと疾患の制御活動、および、国民への防御手段の注意喚起を強化しています。

ドミニカ共和国

症例数:第22週までにドミニカ共和国保健省は3,499例のデング熱症例を報告し、その後1,705例が検査診断で確定したものでした。
流行している血清型:DEN-1, 2, 4
対応:PAHO/WHO
GTデング熱専門家によるサポートを受けながら、デング熱患者に対する治療に重点を置いた、国家標準対応の見直しが行われています。これに加えて、蚊の産卵場所の撲滅、成虫に対する殺虫剤散布によるベクター制御が強化されています。デング熱による死亡がみられた自治体では、地域レベルで治療に関する問題点の確認および改善のために、会議が開かれました。

フランス語圏

アンティル諸島地域疫学部門(La Cellule d'Epidemiologie interrégionale des Antilles (CIRE))が疫学に関する掲示板で、フランス領ガイアナ、グワドループ、マルティネークでデング熱アウトブレイクが生じたことを報告しました。

ガイアナでは27週までにデング熱の疑い症例6,300例が報告され、1,920例が検査室診断されました。1例の死亡が報告されています。流行している血清型はDEN-1, 2, 4でした。

グワドループでは24週までに11,320例の好デング熱が報告されており、そのうち1,833例が確認されています。入院を必要とした症例数は143例でした。流行している血清型はDEN-1, 2, 4でした。グワドループでは死亡例の報告は今のところありません。

マルティネークでは25週までに7,990例のデング熱症例が報告されており、そのうち1,593例が確定症例でした。入院を必要とした症例数は102例でした。流行している血清型はDEN-1, 4で、今までにデング熱により3例が死亡しました。

デング熱のアウトブレイクと流行を制御するために念頭に置かなければならない技術上のコメント

アメリカ地域で、現在デング熱のアウトブレイクが生じ、デング熱の予防及び制御に体制を強化している国があることを踏まえ、私たちは次のような技術的要素について考慮するように推奨します。

○蚊が生育できる環境をなくすことが最も重要であることからわかるように、デング熱は根本的には地域衛生環境の問題です。
○感染リスクのある地域を特定し(リスクの階層化)、人の密度が高い地域(学校、駅、病院、健康施設など)に対して、優先して対処する必要があります。少なくとの直径300メートルの範囲で蚊を撲滅する必要があります。
○感染が活動性である地域では、生息している蚊成虫を殺虫剤散布で殺し、感染を断ち切ることが非常に重要です。
○成虫に対する殺虫剤散布(燻蒸)を効果的に行うために非常に重要な要素としては次のようなものがあります。
○適切な殺虫剤、その構成成分を選ぶこと、そして殺虫剤に対する蚊の感受性について知っておくこと。
○混合物の薬剤量と調製法をチェックすること。
・スプレーの粒子サイズを確かめること。MVD(粒子の平均直径)が8から15mμが最適であり、それ以外であれば蚊に対する効果がない。
・計画を実行する時間帯は、蚊が最も多い時間帯でなければならない。
・もっともよい気候条件を選ぶことを考慮する。降雨時や風が強い場合には屋外で散布しないようにする。
・各自が家屋に殺虫剤を散布することによって、もっとも高い効果がえられる。
・人および蚊から完全にウイルスを除去するためには、7日間の間隔をおいて少なくとも3回燻蒸処置を行うことが強く勧められる。
・流行がやんだかどうかを確かめるためには、メスの成虫数の減少率や生存数を評価する必要がある。
・燻蒸計画が誤って施行された場合には、都市の未感染地域に蚊の成虫が拡散することになる。
○地域対策について、殺虫剤の使用(燻蒸)に際して、行動計画をモニターし制御すること(品質管理)と、実行者のフィールドワークの両方が重要である。
○社会的コミュニケーションによって住民の目が、ベクターが主として生育し最も繁殖する場所に向けられるように、戦略を立てなければならない。朽ちた木材や木屑といった、蚊の生育に関与しないものに時間を費やしてならない。
○ベクターの制御に関して、行動計画が時間的、空間的に適切に行われることによって(熟練者による殺虫剤使用、幼虫制御、衛生管理、コミュニティーによる活動の推進など)、その効果はより大きく、より短時間で出ることになる。
○サーベイランスは、臨床的かつ疫学的に高水準に維持しなければならない。地域住民に対して、重症デング熱の症状に対して、その兆候に関する情報広めることが重要である。これによって、診断が遅れて重症化し、死亡に至る可能性を避け、早期に治療することが可能となる。
○治療の諸段階について、デング熱疑い症例あるいは重症デング熱症例に対する適切な管理を記した、手順書や最新のフローチャートを準備しなければならない。これは個人的部門にとっても必要である。これによって死亡例を防ぐ直接効果がえられる。
○対策に必要とされる行動の多くが、他の省庁や組織を通してなされる可能性があることから、他部門の関与が必要かつ重要である。このような部門には環境部門、水質部門、コミュニティー、警察、自治体、消防部門、文部省、観光省などがある。