2011年のニュース

ニパウイルスについて

2011年10月7日 WHO(WER)(原文〔英語〕へのリンク

ニパウイルスは新興動物由来感染症ウイルスです(つまり、動物から人へ感染するウイルスです)。感染患者の中で、ウイルスは重症な脳の炎症(脳炎)や呼吸器疾患を引き起こします。また豚などの動物で重症の疾患を引き起こし、農家へ著しい経済損失を与えます。ニパウイルスはヘンドラウイルスと近縁です。両者ともパラミクソウイルス(Paramyxoviridae)科の新しいクラスであるへニパウイルス(Henipavirus)の一種です。
ニパウイルスは小流行しか起こしませんが、多くの動物種に感染し、人では重症化したり、死亡することもあり公衆衛生上重要です。

流行

ニパウイルスは1999年のマレーシアの養豚業者の中の患者発生で初めて確認されました。その後さらに12回の発生がみられましたが、全て南アジアです。

伝搬

初期のマレーシアとシンガポールでの発生におけるヒト感染例はほとんどが病気の豚、または感染した組織との直接の接触によるものでした。伝搬は飛沫や病気の動物の組織を介して起こったと考えられています。

2001年から2008年の間のバングラディシュとインドでの患者発生は、感染したフルーツコウモリの尿や唾液で汚染された果物や果実製品が感染源として最も疑われています。

バングラディシュ、インドでの後半の発生(2005年~2008年)ではニパウイルスはヒトからヒトへ直接感染拡大しました。未感染のヒトが感染者の分泌物や排泄物、例えば唾液、尿、嘔吐物、下痢便などに接触したときに感染しました。2001年インドのシリグリでは医療施設で流行がありました。感染患者の75%は病院スタッフまたは訪問者でした。2001年から2008年、バングラディシュで報告された症例の約半数がヒト-ヒト感染によるものでした。

所見と症状

ヒトでの感染では無症状から致死的な脳炎まで広い幅があります。感染者は初期にインフルエンザ様症状、発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、咽頭痛があります。その後、めまい、うとうとした状態、意識の低下、急性脳炎を示唆する神経学的所見がみられることもあります。非定型肺炎や急性呼吸不全を含む重症呼吸器症状がみられることもあります。重症例では脳炎、痙攣などが起こり24時間から48時間以内に昏睡状態になることもあります。
潜伏期(すなわち、感染してから発症までの時間)は4日から45日まで様々です。
急性脳炎から回復した患者のほとんどは完全に回復しますが、約20%で神経学的後遺症、てんかん発作や性格変化が残ることもあります。回復した人の中にはわずかですが再燃したり、遅発性脳炎になったりする例もあります。長期観察では15%以上の人で神経学的な機能障害が認められます。
致死率は40~75%と見積もられていますが、地域のサーベイランス能力により流行発生ごとに異なります。

診断

ニパウイルス感染は様々な試験で診断することができます。

  • 血清中和試験;
  • 酵素抗体(ELISA)法;
  • PCR法;
  • 蛍光抗体法;
  • 培養細胞によるウイルス分離;

治療

ニパウイルス感染症の治療法やワクチンはありません。症状に対する支援的治療(対症療法)が主な方法です。

自然宿主:フルーツコウモリ

Pteropodidae科-特にPteropus属に属する種-のフルーツコウモリがニパウイルスの自然宿主です。フルーツコウモリでは明らかな疾患は引き起こしません。

ヘニパウイルスの地理的分布はPteropusの分布と重なります(地図1)。この仮説はオーストラリア、バングラディシュ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、マダガスカル、マレーシア、パプアニューギニア、タイ、東ティモールのPteropusコウモリでヘニパウイルス感染が確認されたことで強い証拠となりました。

2008年にはPteropodidaeEidolon属のアフリカフルーツコウモリがニパウイルスとヘンドラウイルスに対する抗体をもっていることが確認され、この2種類のウイルスはアフリカのPteropodidaeコウモリの地理的分布に一致して存在することが示唆されました。

家畜動物内のニパウイルス

ブタや他の家畜動物(ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ)での感染が初めて報告されたのは1999年のマレーシアでの最初の流行時でした。多くのブタで症状はありませんでしたが、一部で急性発熱、努力性呼吸、ふるえやひきつけ、筋けいれん等の神経症状がみられました。一般的に致死率は子ブタを除いて低いレベルでした。
これらの症状はブタでおこる他の呼吸器疾患や神経疾患と比較して特別異なるものではありません。ニパウイルス感染はブタがいつもと異なる激しい咳をしたり、ヒトの脳炎症例が認められるときに疑うべきでしょう。
このウイルスはブタで非常に感染性が強いです。ブタは4日から14日続く潜伏期間の間感染源となります。

予防

家畜動物でのウイルス制御

 ニパウイルス感染を予防するワクチンはありません。日常の養豚場の(次亜塩素酸ナトリウムや他の洗剤を使った)掃除と消毒が感染を予防するのに効果的だと期待されます。
 発生が疑われたときは、動物を飼っている場所を直ちに隔離すべきです。感染動物をと殺し監視下で埋葬するか焼却することがヒトへの感染リスクを低減するために必要でしょう。感染の起こった農場から他地区への動物の移送を制限、または禁止することも疾患の拡大を防ぎます。

家畜動物の感染発生がヒト症例に先行するので、獣医や住民の公衆衛生担当者が早期警報を発出するために、新たな感染例を検出する動物の健康監視システムを確立することが必要です。

人の感染リスクの低減

ワクチンがないので、ヒト感染を減ずるためにはリスク要因に注意し、ウイルス曝露を減ずるための方法を人々に教育することが必要です。
教育的公衆衛生上の広報は以下のことに注目すべきです:

  • コウモリ-ヒト感染のリスク低減。感染予防の努力としてまず、ナツメヤシ樹液へコウモリが集まるのを少なくすることが必要です。新鮮な状態で集めたナツメヤシジュースは煮沸し、果実はよく洗い食べる前に皮をむきましょう。
  • ヒト-ヒト感染リスクの低減。ニパウイルスに感染したヒトへの密接な接触は避けましょう。介護をする人は手袋や防護服を着用しましょう。介護の後、病気見舞いの後は通常の手洗いをしましょう。
  • 動物-人感染リスクの低減。病気の動物やその組織を扱うとき、またはと殺や選別の過程では手袋や防護服を着用しましょう。

医療施設での感染制御

ニパウイルス感染患者や疑い患者の治療を担当する医療従事者、またはその検体を扱う人は標準的な感染防御策をとるべきです。ニパウイルス感染が疑われる患者や動物の検体は適切な設備のある検査室内で訓練を受けたスタッフが取り扱うべきです。

                        地図1
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出典

WHO:Weekly epidemiological record Nipah virus
http://www.who.int/wer/2011/wer8641.pdf