リンパ性フィラリア症(Fact sheet)

2012年1月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

概要

  • 世界72ヶ国の13億人以上のヒトが、通常象皮病として知られるリンパ性フィラリア症の脅威にさらされています。
  • 1億2000万人以上の人々が現在感染しており、4000万人以上がこの疾患による外観の変化、障害を被っています。
  • リンパ性フィラリア症はリンパ系組織の変化、身体部位の異常な腫脹をきたし疼痛、重症身体障害の原因になります。
  • 皮膚、リンパ節、リンパ管を含む局所炎症の急性発作は、しばしば慢性リンパ浮腫を伴います。
  • 伝播を遮断するため、WHOは流行地の全ての対象者に、毎年2薬剤の1回集団投薬を行っています。

疾患

リンパ性フィラリア症は、通常象皮病として知られていますが顧みられない熱帯病です。蚊を介してフィラリア寄生虫がヒトに伝播されると感染が起こります。感染期幼虫を保有する蚊がヒトを刺咬すると、寄生虫はヒトの皮膚へ落とされそこから体内へ侵入します。それから幼虫はリンパ管へ迷入し、ヒトリンパ系組織の中で成虫になります。

通常感染は小児期に起こりますが、疼痛性の外見上深い変形は人生の後期に起こります。この疾患の急性発作は一過性の障害を起こす一方、リンパ性フィラリア症は永続的な障害を起こします。

現在、72ヶ国の13億人以上の人々にリスクがあります。感染者の約65%がWHO東南アジア地域に住み、30%がアフリカ地域、残りが他の熱帯地域に住んでいます。

リンパ性フィラリア症は、2500万人以上の男性で生殖器疾患、1500万人以上のヒトでリンパ浮腫を起こしています。罹患率と感染の度合いは貧困と関連し、その根絶は国連ミレニアム開発目標達成に寄与します。

原因と伝播

リンパ性フィラリア症はFilariodidea属の線虫(回虫)の感染で起こります。この細長い線虫には3つの型があります。

  • Wuchereria bancrofti(バンクロフト糸条虫)は症例の90%を占めます。
  • Brugia malayi(マレー糸条虫)は残りの症例のほとんどの原因です。
  • B. timoriもまた疾患の原因となります。

成虫はリンパ系組織に留まり免疫システムを混乱させます。6-8年生き、生活史の中で何百万ものミクロフィラリア(小幼虫)を産み、ミクロフィラリアは血中を循環します。

リンパ系フィラリア症は異なった種類の蚊によって伝播されます。例えば都市部、都市郊外に広く分布するCulex(イエカ);田舎に分布するAnopheles(ヤブカ);太平洋地域の流行島嶼に分布するAedes(シマカ)です。

症状

リンパ性フィラリア感染症には無症候性、急性、慢性状態があります。感染の大部分は無症候性で、感染の外部所見はありません。それでも無症候性感染はリンパ系組織と腎障害を引き起こし同様に体の免疫システムも変化させます。

皮膚、リンパ節、リンパ管を含む局所炎症の急性発作は、しばしば慢性リンパ腫脹または象皮病を伴います。この発作のいくらかは、寄生虫に対する身体の免疫反応によって引き起こされます。しかし、ほとんどが潜在するリンパ系障害により正常な防御機構が部分的に失われ皮膚細菌感染が起こった結果です。

リンパ性フィラリアが慢性状態に移行すると、四肢のリンパ浮腫(組織腫脹)または象皮病(皮膚/組織肥厚)や陰嚢水腫(液貯留)になります。乳房や生殖器への波及はよくあります。

そのような身体の変形は社会的な傷跡となり、同時に収入の減少と医療費の増大から経済的困難をもたらします。孤立と貧困の社会経済学的な負担ははかりしれません。

治療と予防

推奨される集団投薬による治療レジメは2種類の薬剤-アルベンダゾール(400mg)1回、さらにオンコセルカ症(河川盲目症)が同時流行している地域ではアイバメクチン(150-200mcg/kg)またはオンコセルカ症の非流行地ではジエチルカルバマジン(DEC)(6mg/kg)を同時投与します。これらの薬剤は血中ミクロフィラリアを駆虫し成虫のほとんどを殺虫します。

蚊制御は伝播抑制のために使用されるもう一つの方法です。殺虫剤処理された蚊帳と屋内残留噴霧は流行地住民の感染予防になるでしょう。

象皮病やリンパ浮腫、陰嚢水腫のような慢性身体障害患者へは、徹底した衛生管理の継続と二次感染や病状悪化の予防策を取るよう助言します。

WHOの対応

WHO総会決議50.29は参加国に公衆衛生上の問題としてリンパ性フィラリア症を根絶するよう奨励します。

対応として、WHOは2000年にリンパ性フィラリア症撲滅世界プログラム(GPELF)を開始しました。GPELFの目標は公衆衛生問題として2020年までにリンパ性フィラリア症を撲滅することです。

戦略は2つの鍵となる部分があります。

  • 集団投薬として知られている、リスクのある住民全体に対して実施される毎年の大規模治療を通して伝播を遮断する;
  • 疾患管理と身体障害予防を通してリンパ性フィラリア症の引き起こす苦痛を軽減する、

ことです。

集団投薬(MDA)

伝播の遮断を達成するためにまず、どこでMDAを実施するのかについて疾患マッピングを行い、そしてコミュニティー毎にアルベンダゾール1回投与とジエチルカルバマジンかアイバメクチンのどちらかの同時投与が、流行地でリスクのある全住民の治療のために実施されます。

感染伝播を完全に遮断するためにMDAは4-6年継続すべきです。2010年までに流行59ヶ国がマッピングを完成させ、53ヶ国がMDAを開始しました。MDAを開始した53ヶ国のうち37ヶ国はすでに5回以上のMDAを流行地の少なくとも数カ所で完了しました。

2000年から2010年、34億の治療薬が53ヶ国の約9億人の対象となる住民へ届けられ、多くの場所で伝播をかなり減少させました。最近の研究データでリスクのある住民のリンパ性フィラリア症伝播が、GPELF開始時から43%減少したことが示されています。2000年から2007年のプログラムによる全体的な経済効果は控えめに見積もって240億米ドルです。

疾患管理

疾患管理と身体障害予防は公衆衛生改善に必須で、保健システムの中に完全に組み込まれるべきです。GPELFは適切なケアと治療を提供するためのヘルスケアにたずさわる人やコミュニティーの訓練に焦点を当てています。

リンパ浮腫の臨床学的重症度と急性炎症発作は、衛生、スキンケア、運動、障害肢の挙上などの簡単な方法で改善することができます。陰嚢水腫(液貯留)は外科的に治療することができます。

出典

WHO:Fact Sheet
Lymphatic filariasis
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs102/en/index.html