世界におけるインフルエンザ流行状況(13)

2012年3月2日WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の国々ではインフルエンザの活動性は低いですが、北アメリカ、ヨーロッパのほとんどでは増加してきています。北アフリカや中東の国々と同様に南ヨーロッパの数ヶ国ではピークに達したようです。
  • 熱帯地域の国々ではインフルエンザの活動性は低レベルの報告です。
  • 南半球の温帯地域の国々では、インフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです。
  • 北半球の温帯地域の国々で検出されるウイルス型、亜型の多くはインフルエンザA(H3N2)です。例外的にメキシコではインフルエンザA(H1N1)pdm09亜型が優勢に循環し、中国と周辺の国々ではインフルエンザB型の報告が優勢です。B型インフルエンザはこの数週間カナダでも増加してきています。
  • オセルタミビル耐性は過去シーズンで報告されたレベルを超えて特に増加はしていません。
  • 今シーズン初期に検出されたウイルスのほとんどが、現在接種されている3価ワクチンンと抗原的に関連していましたが、2月20日-24日に行われたワクチン株選定委員会会議では、最近循環しているインフルエンザA(H3N2)ウイルスの抗原的、遺伝子学的な小変異が増加しているという証拠があり、B型ウイルスでもビクトリアと比較し山形系統ウイルスの割合が増加していることを強調しています。そのため委員会は北半球での次期ワクチン成分を変更し、A/Victoria/361/2011(H3N2)-likeウイルス、山形系統のB/Wisconsin/1/2010-likeウイルスを含め、引き続きA/California/7/2009(H1N1)pdm09-likeウイルスを含めるように推奨しました。

北半球の温帯地域

全般的にはインフルエンザ活動性は増加していますが、ヨーロッパ、北アフリカ、中東の数ヶ国ではすでにピークに達したようです。いくつかの地域、特にアメリカ合衆国(US)とイギリス(UK)では穏やかなシーズンだったようですが、他の国々での活動性は例年通りのレベルに達したようです。

北部アメリカ;カナダでは、ほとんどの地域のインフルエンザ活動性は全体的に低いですが、増加してきています。6地域で限局したインフルエンザ流行、22地域で散発的なインフルエンザ活動性が報告されており、最新の報告ではわずかに増加しているようですが、広範囲に拡大した活動性は報告されていません。インフルエンザ様疾患(ILI)での受診率は、インフルエンザ陽性株の割合と平行して増加し6.4%から10.5%になりました。国内ILI活動性の報告は、例年シーズンの国内平均に近い値でした。今シーズンは小児入院の35%が2歳未満の小児で、成人入院の49%は65歳以上でした。小児入院の43%はインフルエンザB型でした。全体では、今シーズンの初めから確定されたインフルエンザウイルスの56%をインフルエンザAウイルスが占め、44%はインフルエンザBウイルスでした。インフルエンザB型の割合は過去数週間増加しています。亜型同定されたインフルエンザA型ウイルスの81%がインフルエンザA(H3N2)で、19%がA(H1N1)pdm09でした。ウイルスの型、亜型の分布は年齢層により様々でした。5歳未満の小児患者ではインフルエンザBが症例の58%で検出されましたが、一方65歳以上の成人では25%のみで検出されました。同様にインフルエンザA(H1N1)pdm09全患者の41%が5歳未満の小児で、13%のみが65歳以上の成人でした。シーズンの初めから検査された354検体のインフルエンザウイルスのうち、165検体のインフルエンザAウイルスの全てが現在北半球で接種されているインフルエンザ3価ワクチンと抗原的に関連性がありました。しかし、インフルエンザBウイルスは54%のみが現在のワクチン株B/Brisbane/60/2008と抗原的に関連していました;残りの46%のインフルエンザBウイルスは山形系統に属していました。山形系統由来B型ウイルスの割合は今シーズン中増加しています。今シーズンの初めから、抗ウイルス剤抵抗性について検査したウイルス全てがオセルタミビル(279株)とザナミビル(238株)に感受性でした。

アメリカ合衆国国内では、インフルエンザ活動性は増加していますが比較的低いままです。全国的に、ILI受診率は季節的閾値を超えていませんが、インフルエンザ検査陽性検体の割合は14%まで増加し、これまでの週より増加しパラメーターとなる季節的な閾値を超えました。ミズーリ州1州だけが、高いILI活動性を報告しました。122の都市での定点報告では肺炎やインフルエンザでの死亡者は、過去3週間季節的閾値以下でした。インフルエンザ関連の小児死亡が1例報告され、今シーズンの合計が3症例になりました。定点医療機関サーベイランスネットワークで347人の入院患者のうち、293症例(84.4%)はインフルエンザAで、45症例(13.0%)はインフルエンザBでした。インフルエンザA亜型情報として、87症例はH3N2、26症例が2009H1N1でした。成人症例の基礎疾患として最も多く報告されているのは慢性肺疾患、代謝性疾患、肥満です。小児症例の基礎疾患として最も多いのは慢性肺疾患、喘息、神経学的疾患、肥満です。しかしながら、入院した小児症例の47.5%では基礎疾患は認められませんでした。カナダとは対照的に、USAでのインフルエンザBの検出は全ウイルスの9%のみでした。亜型情報ではA型ウイルスの大部分(81%)はA(H3N2)です。抗原性を調べた397株のインフルエンザウイルスのうち、A(H3N2)の96.6%とA(H1N1)pdm09の95.2%は現在の季節性インフルエンザ3価ワクチンに含まれるウイルスと抗原的に関連性がありました。最近ワクチンウイルスからのいくつかの抗原小変異がA(H3N2)ウイルスで見つかりました。検査されたインフルエンザBウイルス48株のうち22株(45.8%)はビクトリア系統に属する性質を持っており2011-2012北半球インフルエンザワクチンのインフルエンザB成分であるB/Brisbane/60/2008-likeと特徴付けられました。2011年10月から検査された491ウイルス全てがノイラミニダーゼ阻害剤である抗ウイルス薬オセルタミビルとザナミビルに感受性でした。

メキシコでは2012年の初めから合計5,544症例のインフルエンザが発生しその90.9%がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。そのうち180症例が死亡症例で、同様の割合(92.2%)はインフルエンザA(H1N1)pdm09に関連したものです。2月下旬、インフルエンザ陽性検体の割合は1月上旬のピーク時50%以上よりも減少し35%でした。

ヨーロッパと中央アジア;ヨーロッパではインフルエンザ活動性が27ヶ国で増加しましたが、その傾向は大陸の地域によって様々です。イタリアやブルガリアを含むいくつかの国々では、インフルエンザ活動性がピークに達したようですが、北ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジアでは増加を続けています。しかしトルコでは、北アフリカや中東の国々と同様にもっと早い時期にピークに達し、この数週間減少してきています。全体的に、2月最終週に定点外来診療所で採取された検体の46%がインフルエンザウイルス陽性で、前週よりわずかに増加しました。データの出ている国々でILIの割合は例年シーズンの同様な割合で、ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトの参加国により報告された全死亡数も例年シーズン同時期の平均を下回っています。インフルエンザA(H3N2)が優勢な亜型のままです。ヨーロッパ全体で、ILIの定点検査で確定された91%がインフルエンザAで、9%がB型でした;A型ウイルスの99%の亜型がA(H3N2)でした。重症急性呼吸器感染症(SARI)症例について、インフルエンザシーズンの始まりから西ヨーロッパ6ヶ国で報告された611症例のうち87.8%はインフルエンザA(H3N2)感染によるもので、7%がA(H1N1)pdm09、5.2%がB型によるものでした。東ヨーロッパ11ヶ国から報告のあったSARI172症例のうち、66.9%がインフルエンザA(H3N2)、26.1%がA(H1N1)pdm09、2.3%がB型でした。218株ウイルスの抗原的な特徴を調べたところ、A型198株全てが現在の季節性インフルエンザ3価ワクチンとの関連性が認められました;B型ウイルス20株のうち12株が山形系統で、ワクチン株には含まれていません。200株近くのウイルスについてノイラミニダーゼ阻害剤に対する感受性を調べた結果、耐性のある株はありませんでした。

北部アフリカと東部地中海地域;これらの地域のインフルエンザ活動性は2011年の終わりと2012年の初めにピークに達しました。各国からのインフルエンザ陽性検体数の減少傾向が報告されています。ヨーロッパと同様に、亜型検査されたほとんど全てのウイルスでインフルエンザA(H3N2)が優勢な亜型として検出されています。

アジア温暖地域;中国北部とモンゴルの国内定点病院でのILIの割合は前週よりわずかに低く、2月上旬のピーク時より減少してきています。今シーズンの一般的なILIの割合は両国とも2010/2011冬季の割合と同様です。両国共にB型インフルエンザウイルスが依然優勢に循環していますが、全体的に報告される陽性症例数は減少してきています。対照的に韓国でのインフルエンザ活動性は、この数週間陽性検体数の報告が増加しており、主にインフルエンザA(H3N2)によるものですが、インフルエンザBの割合も増加しています。韓国のILI活動性も例年と同様です。日本ではILI症例数が1月下旬にピークに達したようで、主にA(H3N2)によるものでしたが、現在は減少してきています。

熱帯地域

アメリカ;データがこの数週間更新されていませんが、コロンビア(主にA(H1N1)pdm09)、エクアドル(A(H3N2)とA(H1N1)pdm09がほぼ同じ割合)で伝播が報告されました。

サハラ以南アフリカ;低レベルか散発的なインフルエンザウイルスの検出が報告されています。

アジア;インフルエンザ活動性は低いままです。インドではインフルエンザ活動性は減少を続けていますが、インフルエンザAの割合が増加してきていますスリランカではインフルエンザ伝播がインフルエンザBへ替わってきています。ベトナムとラオスではB型が依然優勢です。中国南部でのインフルエンザ循環は全体的に増加し、B型がまだ優勢です。

南半球の温帯地域

この地域のインフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです。

出典

WHO:Influenza update,02 March 2012Update number154
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_
update_GIP_surveillance/en/index.html