世界におけるインフルエンザ流行状況(15)

2012年3月30日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域の多くの国々ではインフルエンザシーズンは例年より遅く始まりましたが、ピークに達したか減少しています。重症急性呼吸器感染症は主に65歳以上の年齢層で見られました。
  • 北半球の温帯地域の検出されるウイルス型、亜型のほとんどはインフルエンザA(H3N2)でしたが、インフルエンザB型の検出の割合も増加しています。メキシコではインフルエンザA(H1N1)pdm09亜型が優勢に循環しています;中国と周辺の国々では依然インフルエンザB型の報告が優勢です。
  • H3N2ウイルスの遺伝子変異、抗原変異の増加がインフルエンザシーズンの後半に報告されました。
  • 今シーズン、抗ウイルス剤耐性の大きな変化は今のところ報告されていません。

北半球の温帯地域

全般的にはインフルエンザ活動性は減少してきています。アメリカ合衆国とイギリスを含むいくつかの地域では今回は過去と比較して穏やかなシーズンだったようです。しかし他の国々での活動性は例年通りのレベルかそれよりも高いレベルに達したようです。

北部アメリカ

インフルエンザシーズンは例年より遅く、ピークに達した地域もあれば活動性がまだ増加している地域もあります。カナダでは、臨床検体に占めるインフルエンザ陽性株の割合は全国的に増加しており疫学第10週(2月下旬から3月上旬)に21.1%でしたが第11週には23.4%になりました。しかし同時期の国内インフルエンザ様疾患(ILI)での受診率は、外来患者1,000人あたり38.7%から32.6%へ減少しました。施設でのインフルエンザ発生率は第10週31件から第11週には54件と顕著に増加しました。全国的にはILIレベルと流行発生数は例年並みです。このシーズンの始めから950件のインフルエンザ関連入院が報告され、299件が小児入院、651件が成人入院で、そのうち11週に107人の報告があり増加しました。検査室で確定診断された小児入院患者の35%は2歳以下でした。同様に、成人入院の25.5%と成人死亡例の80%は65歳以上でした。カナダでのインフルエンザウイルス亜型の分布割合には変化があり、インフルエンザB型の陽性検体の割合は増加を続けており、一方インフルエンザAの陽性検体数は第11週にわずかに減少しました。シーズンの初めから検出されたインフルエンザウイルスの55.9%はインフルエンザAでしたが、最近の週ではウイルスの57%がインフルエンザB型でした;このシーズン中に亜型決定されたA型ウイルスの69.6%はA(H3N2)でした。ウイルス分布には地理的な違いがあり、マニトバ、オンタリオとニューブランズウィックを除く大西洋岸州全てでこのシーズン中ほとんどインフルエンザB型が優勢でした。本シーズンはじめから同定された146株のインフルエンザA(H3N2)のうち、89%は現在のワクチン株(A/Perth/16/2009)と抗原的に関連がありましたが、初期のほぼ100%からは減少しました。同様に同定された110株のA(H1N1)ウイルスの98.1%はワクチンウイルスA/California/07/2009と抗原的に関連がありました。インフルエンザB型と同定されたもののうち、54.6%は季節性ワクチンウイルスB/Brisbane/60/2008と、45.4%のB型ウイルスは山形系統に属するB/Wisconsin/01/2010-likeと抗原的に関連がありました。シーズンの初めから抗ウイルス剤耐性を検査したウイルス全てがオセルタミビル(591株)とザナミビル(589株)に感受性でした。

アメリカ合衆国(USA)では、インフルエンザ活動性はいくつかの地域で増加していますが、ILI受診率は全国的に比較的低いままで国内流行閾値(2.4%)より低いままです。全国的にインフルエンザ陽性検体の割合は10週の23.2%から11週には26.6%まで増加しました。アラバマ、アーカンソー、イリノイ、オクラホマ州で高いILI活動性が報告されています;5州(アイダホ、ミシシッピー、ミズーリ、テキサス、ユタ州)で中等度の活動性が報告されています;10州(カリフォルニア、コロラド、カンザス、ミシガン、モンタナ、ネバダ、ノースダコタ、テネシー、ワシントン州)で低い活動性の報告です。第11週、122市の死亡報告システムを通して報告された全死亡の7.6%は肺炎とインフルエンザによるものでしたが、季節的な基準値よりも低い値でした。3人の小児がインフルエンザ関連疾患で死亡し、2011年10月からの小児死亡は合計で8人になりました。検査室で確定診断されたインフルエンザによる入院患者は前週から35%増加しましたが、現在の入院率は前回のインフルエンザシーズンより少なく、100,000人あたり3.6人でした。検査室で確定診断されたインフルエンザ関連疾患による成人入院の半数未満(43.3%)には基礎疾患として慢性肺疾患がありました;32.6%には代謝性疾患があり、31.8%は肥満でした。同様に小児入院の45.3%には基礎疾患は認められませんでした。小児で報告された基礎疾患で最も多いのは慢性肺疾患(25.6%)、喘息(23.3%)、神経学的疾患(19.8%)でした。臨床検体の26.6%はインフルエンザ陽性(n=1,353)でした。カナダとは対照的に第11週に検出されたウイルスの93.3%はインフルエンザAウイルスで、シーズンを通して安定した割合でした。第11週におけるインフルエンザAウイルスの16.7%がA(H1N1)pdm09でした;しかしこのウイルスの占める割合はいくつかの地域で増加を続けています。抗原性について精査されたインフルエンザウイルスのうち、472株のインフルエンザA(H3N2)の80.3%、インフルエンザA(H1N1)ウイルスの98.7%は現在の季節性3価ワクチンに含まれるウイルスに関連性がありました。581株のインフルエンザA(H3N2)、257株のA(H1N1)pdm09、115株のインフルエンザB型ウイルスの抗ウイルス剤耐性について検査したところ、A(H1N1)pdm09の2株だけがオセルタミビル耐性でした。

メキシコでのインフルエンザ活動性は減少してきているようです。インフルエンザ陽性検体の割合は第10週の21.8%から第11週には11.9%まで減少しました。インフルエンザA(H1N1)pdm09が依然として最も多いウイルス亜型でした。

ヨーロッパ

ヨーロッパのほとんどの国ではインフルエンザ指標は過去2週間から3週間にわたり減少を続けています。スペイン、フランス、イタリア、スイス、ドイツではILIとARIでの受診率は減少傾向を示しています。第11週の間定点外来機関で採取された1,482の呼吸器検体のうち、588検体(39.7%)がインフルエンザウイルス陽性で、前週の報告より25%減少し、3週間連続でピーク時の46%から減少してきています。重症急性呼吸器感染症(SARI)症例数は減少しましたが、いくつかの国ではインフルエンザ陽性率は増加しました。ILIと急性呼吸器感染症(ARI)の受診率は一般的に低いですが、ベルギー、スウェーデン、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、ポーランドでは昨年のレベルを超えました。65歳以上の高齢者全死亡率は、各国がヨーロッパ死亡率監視プロジェクトへ報告するインフルエンザ確定数の増加に平行して増加しました。2010/2011インフルエンザシーズンの始めからSARI症例のほとんど(49%)が65歳以上の成人で報告されました。SARI患者から合計142の呼吸器検体が採取され、そのうち32%がインフルエンザ陽性でした。ヨーロッパ全体で、インフルエンザA(H3N2)ウイルスが最も多く分離され続けているインフルエンザウイルスで、西ヨーロッパでは82.9%を占めていますが、前週はインフルエンザBの循環の割合が増加しました。A(H1N1)pdm09ウイルスの検出はほとんど報告されていません。ヨーロッパの他の国とは対照的にギリシャではこのシーズン中、インフルエンザBウイルスの陽性例が高い割合でした。ヨーロッパでは、このシーズン中、遺伝子内変異の増加がH3N2でみられ、ワクチン株が現在循環しているウイルスと完全には一致していないことを示唆しています。ノイラミニダーゼ阻害剤(オセルタミビルとザナミビル)に対する耐性は現在まで報告されていません。

北部アフリカと東部地中海地域

これらの地域のほとんどの国では、インフルエンザ活動性は現在またはまもなくシーズンオフレベルと報告されています。アルジェリア、チュニジア、イラン、エジプトはほとんどがインフルエンザA(H3N2)でしたが、2012年の初めにピークに達した後数週間インフルエンザ症例数が減少し少数であると報告しています。パキスタンとモロッコを含む数ヶ国は少数のインフルエンザB型を報告していますが、オマーンではB型が現在最も多く検出されるインフルエンザウイルスです。

アジア

中国北部でのインフルエンザ活動性はわずかに減少しました。国内定点機関から報告されるILIの割合は、前週(3.3%)よりわずかに減少し現在3.2%です。インフルエンザB型が最も多く検出されるウイルスのまま(循環ウイルスの69.2%)ですが、インフルエンザB型が減少し、インフルエンザA(H3N2)がわずかに増加しておりこの地域では大きな割合を占めてきています。同様の傾向がモンゴルでもみられ、全体的な割合が減少するにつれ、B型の優勢な伝播がH3N2へ移行しています。モンゴルでの肺炎入院患者の割合は2010/11シーズンピーク時より高くなりましたが、第9週から減少しています。日本と韓国のインフルエンザ活動性はそれぞれ1月下旬と2月上旬のピーク時から減少傾向を示しています。中国やモンゴルとは対照的に、両国のシーズン中優勢に循環したのはインフルエンザA(H3N2)で、最近になってインフルエンザB型がわずかに増加してきました。

熱帯地域

アメリカ

インフルエンザ伝播は低いか検知できないレベルと報告されています。

サハラ以南アフリカ

入手できたデータではほとんどの国でインフルエンザ活動性はほとんど認められていません。

アジア

全体的にインフルエンザ活動性は減少しているか低く、インフルエンザBが依然最も多く検出されています。中国南部では国内定点機関から報告されるILI受診の割合は安定しており2週間連続で3.2%でした。中国南部で第11週に検査された1,186検体のうち、450検体(37.9%)はインフルエンザ陽性でした。インフルエンザウイルス伝播のほとんどがインフルエンザB(陽性検体の51%)によるものでした;インフルエンザA亜型の100%がインフルエンザA(H3N2)でした(n=185)。中国香港では2月中旬にピークに達したようです。定点一般外来医療機関での平均ILI受診率は過去数週間減少しました(受診1,000件あたり5.7ILI)。しかしながら、民間医療機関では受診1,000件あたり第10週の50.4から第11週54.3ILI症例へとわずかに増加しました。

南半球の温帯地域

インフルエンザ活動性は低いままです。南米の温暖地域では、インフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです。

出典

Influenza update30 March 2012- Update number 156
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html