フランス領レユニオンでのデング熱の再発生 2012年1月~4月

2012年5月17日Eurosurveillance原文〔英語〕へのリンク

要約

2012年1月以降、 レユニオンでは、20例のデング熱感染者が確認されています。そのうち7例は可能性例で、13例が検査診断による確定例です。最初の患者は西海岸で発見されましたが、その後、島の異なる市で、2種類のウイルス(1型と3型)が広がっているようです。9例が4月に発生しており、ウイルスの伝播の増加を示唆しています。また、同時に、感染者の地理的分布は、ウイルスが地域で広がっていることを示唆しています。翌週以降、ウイルスの伝播が増加するリスクは小さくなく、レユニオンの保健の専門家と公衆衛生当局は、流行する可能性に対する準備をしています。

背景

インド洋の南西部の島々は、熱帯気候であり、アフリカやアジアの多くの流行国に地理的に近く、多数の観光客の往来や商業取引があるため、常に、デング熱のアウトブレイクの脅威にさらされています。

レユニオンはフランスの海外県で、マダガスカルの700km東に位置しており、住民は84万人(2011年の推計)です。1977年から1978年と2004年の2回、デング熱のアウトブレイクが記録されています。1977年から1978年には、島全体で大きな流行が発生し、住民の約30%が感染したと推計されています。2004年には、島の西部で228例の感染者が報告され、人口1万人当たり3人の発病率でした。

2004年以降は散発例のみが確認されており、2007年には2例、2008年には3例、2010年には2例が確認されました。フランスの公衆衛生サーベイランス機関(Indian Ocean Regional Office of the French Institute for Public Health Surveillance:Cire OI - InVS)は、フランスのインド洋保健局(French Health Agency Indian Ocean:ARS OI)のベクターコントロールチーム(Lutte anti-vectorielle:LAV)と協力して、疫学的なサーベイランスを実施しています。このサーベイランスは、病院や一般の開業医、公立及び民間の生物学的検査機関が積極的に参加して実施されており、デングウイルス感染は全例報告されることになっています。患者の発生が報告されると、すぐに、LAVによって感染予防措置が行われ、LAVとCire OI – InVSによって、患者の接触者に対する積極的な調査が行われます。確定(confirmed)例の症例定義は、PCR陽性の患者または血清抗体が陽転化した患者とされています。高可能性(probable)例の症例定義は、1検体でIgM抗体が陽性であることに加え、確定例との疫学的リンクがあるかIgM抗体が高力価のデング熱様疾患であること、またはその両方を満たす患者とされています。可能性(possible)例の症例定義は、1検体でIgM抗体が陽性の患者とされています。

デングウイルスの流行の再発生

島の西海岸に位置し、2010年にチクングニアウイルスの再発生が起こったサン=ポール(Saint Paul)市の2つの異なる地域で、2012年1月に、渡航歴のないデング熱の可能性例が2例確認されました。接触者や近隣の住民の有症例を積極的に調査しましたが、他の症例は確認されませんでした。残念なことに、継続調査のための血液検体の2つめのセットを得ることができませんでした。

2012年2月10日、1月に確認された2例の可能性例が確認されたベルメヌ(Bellemène、サン=ポール市)地域で、RT-PCRで確定された症例が発見されました。そのため、ウイルスの地域内での伝播が強く疑われ、最初の可能性例の2例は高可能性例に分類されました。しかし、この患者は、発症する3週間前にアジアから帰ってきており、無症状の同行者によって入ってきたウイルスによる感染の可能性もあります。

3月に、島の西部の住民から、確定例が3例と高可能性例が2例(デング熱様疾患があり、IgM抗体が陽性で、確定例と疫学的リンクのある症例)が報告され、ウイルスの地域内感染が確認されました。4月上旬に、島の北部に位置する首都のサン=ドニ(Saint Denis)でも可能性例が2例確認され、その後、島の別の地域から10例を超える症例が発見されています。

アウトブレイクの解説

過去4か月で、デング熱の国内感染例が20例確認されています。このうち、7例は高可能性例で、13例が確定例です。20例の患者の平均年齢は39歳(最少年齢は2歳、最高年齢は86歳)、12例が女性でした。発症の3週間前から発症までの間にデング熱の流行国に渡航した患者はいませんでした。3人の患者は危険な症状(持続する嘔吐、粘膜の出血、臨床上の体液貯留)があったため、入院を要しましたが、重症型の症例はありませんでした。9例が4月に発生しており、ウイルスの伝播が増加したことを示唆しています。また、20例の地理的分布はウイルスが地域で広がっていることを示唆しています。8例は島の西部、サン=ポールで発見されました。その全例に疫学的または地理的なリンクがあり、すべて単一の感染鎖に関連した感染であることが示唆されています。しかし、その後、症例は島の他の地域でも確認され、ウイルスが地理的に広がっていることを示しています。さらに、2種類の異なる血清型(デングウイルス1型が2例、デングウイルス3型が3例)が確認されており、少なくとも、2つの異なる感染鎖の存在が確認されています。今年になってから、レユニオンでは、これらの2種類の血清型が定常的に流行しているアジア(タイ、インド、インドネシア)からの輸入例が7例あったことから、この異なるウイルスの同時流行は、異なるウイルスが同時に入ってきたことが発端です。このうち5例は、発症前に戻ってきたので、レユニオンでウイルス血症でしたが、血清検査が実施されたのみで、血清型の確認はされませんでした。

感染予防対策

2012年1月から、症例の近くにある3,500以上の建物がLAVによって調査されています。対策として、ヒトスジシマカの繁殖場所除去、空間に散布する殺虫剤による処置、有症者の積極的な調査が行われています。さらに、地域の中で関係するすべての保健専門家と一般開業医は電話で連絡を取り、毎週、情報提供を行っています。保健当局は、一般市民が蚊から身を守るための予防対策を強化するために、メディアを通じて、状況を定期的に伝えています。

結論

レユニオンでは、現在、デング熱が、7年の流行間期の後、再発生しています。2005年から2011年に報告された症例は合計で7例でしたが、今年の4か月間に20例が報告されました。現時点では、疫学的な状況は安定しているようですが、おそらく、症例が発生するたびに適時の感染予防策が行われ、疫学的なサーベイランスが改善されたことによるものです。しかし、ヒトスジシマカは、一年中伝播するのに十分な密度で存在し、特に、現在の気象状態(高温と降水量のレベル)は繁殖に適しているので、レユニオンでデング熱を媒介するのに好適です。さらに、無症候性感染の割合が高い可能性があり(諸研究によると50%から94%)、ウイルスは気づかれずに広がり続けることができました。最近、無症候性感染の数は、前年の感染の発生によって増加することができたということが示唆されています。これは、過去7年間、活発なデング熱の流行がなかったレユニオンで、感染が極端に高い割合ではないことを支持しているのでしょう。しかし、無症候性感染例は必ず島に存在し、媒介蚊を感染させるのに十分なウイルス血症のレベルに達するかもしれません。

したがって、翌週以降のウイルスの伝播が増加するリスクは小さくなく、レユニオンの保健の専門家と公衆衛生当局は、流行する可能性に対する準備をしています。地域内感染例の中で2種類の血清型が確認されたことは、ベクターの密度が高く、集団の免疫もおそらく低いということと重なって、高いリスクの存在を示唆しており、おそらく南半球の冬の到来でリスクは減少するでしょう。実際、レユニオンでは、過去のアルボウイルス感染症のアウトブレイクでは、ウイルスの流行は7月に終わったか、著しく減少しました。しかし、2005年から2006年に発生したチクングニア熱のアウトブレイクでは、南半球の冬季でもウイルスの低い流行が持続し、これまでに記録された流行の中で最も多い、266,000人の感染(発病率は34%)が記録されました。このアウトブレイクの経験から、疫学的なサーベイランスは、現在、新規発生症例の早期探知と組織的な検査確認を行うために、病院や一般の開業医、公立及び民間の生物学的検査機関が積極的に参加して、強化されています。

出典

Re-emergence of dengue in Réunion, France, January to April2012
Eurosurveillance, Volume17, Issue 20, 17 May 2012Rapid communications

http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20173