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マールブルグ病(出血熱)について (ファクトシート)

2012年11月 WHO (原文〔英語〕へのリンク) 

要点

  • マールブルグウイルスは、人に重症のウイルス性出血熱を起こします。
  • マールブルグ病のアウトブレイクでは、致死率は24%から88%にもなります。
  • オオコウモリ科のルーセットオオコウモリ(Rousettus aegypti)がマールブルグウイルスの自然宿主であると考えられています。マールブルグウイルスはオオコウモリから人に感染し、人-人感染によって、人の間で広がります。
  • 特異的な治療法やワクチンはありません。

 マールブルグウイルスは、マールブルグ病(出血熱)の病原体であり、マールブルグ病の致死率は88%にもなります。マールブルグ病が初めて確認されたのは、1967年、ドイツのマールブルグとフランクフルト、セルビアのベオグラードで同時期にアウトブレイクが発生した後です。疾患名は発生地のマールブルグにちなんで名づけられました。

 マールブルグウイルスとエボラウイルスは、フィロウイルス科に属します。ウイルスの種は異なりますが、この2つの疾患は臨床的に類似しています。両者とも稀な疾患ですが、致死率の高い劇的なアウトブレイクを引き起こし得ます。

アウトブレイク

 マールブルグ病が初めて確認されたのは、1967年、ドイツのマールブルグとフランクフルト、セルビアのベオグラードで、同時期に大規模なアウトブレイクが発生した時です。このアウトブレイクは、ウガンダから輸入されたアフリカミドリザルを用いた検査施設の作業に関連していました。その後、アウトブレイクや散発例の発生が、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ケニヤ、南アフリカ(直近でジンバブエへの渡航歴があった人)、ウガンダで報告されています。また、2008年には、ウガンダのルーセットオオコウモリが生息する洞窟に入った渡航者の感染例が2例報告されました。

感染経路

 人への感染は、初めは、ルーセットオオコウモリの群れが生息する鉱山や洞窟での長時間の暴露によって起こります。

 人から人への伝播は、主に、感染した人の血液、分泌物、臓器、その他の体液に濃厚接触することによって起こります。会葬者が死亡者の身体に直接触る葬儀も、マールブルグ病の感染伝播の重要な原因です。また、感染者が回復した後、7週間は、感染者の精液から感染が起こることがあります。

 マールブルグ病の患者を治療する際に、正しい感染予防法を行わずに濃厚接触したことにより医療従事者が感染した事例も報告されています。汚染された注射器による感染や針刺し事故による感染は、より重症で急速な増悪と関連しており、おそらく高い死亡率とも関連しています。

症状と所見

 潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2日から21日です。

 マールブルグウイルスによって起こる疾患は、高熱、重度の頭痛、重度の倦怠感が急に発症します。筋肉痛はよくみられる症状です。第3病日に重度の水様性下痢、腹痛、腹部疝痛、悪心、嘔吐が出現することがあります。下痢は1週間持続することがあります。この時期の患者は、“幽霊のように”顔が引きつり、眼は深くくぼみ、無表情で、極度の無気力状態になります。1967年にヨーロッパで発生したアウトブレイクでは、ほとんどの患者で、第2病日から第7病日に、かゆみを伴わない発疹がみられたことが特徴でした。

 多くの患者は、第5病日から第7病日に重度の出血傾向を呈します。死亡例は、通常、何らかの出血がみられ、しばしば複数の部位からの出血があります。吐物や便に新鮮血がみられる場合には、しばしば、鼻、歯茎、膣からの出血が合併します。静脈穿刺部位(輸液の静脈確保部位や血液検体を採取した採血部位)からの自然出血は、特に対応が困難となることがあります。症状が重篤な病気の間、患者の高熱は持続します。中枢神経系の合併症として、錯乱、易刺激性、攻撃性を伴うこともあります。精巣炎は、時折、病期の後半(第15病日)で報告されています。

 死亡例では、通常、重度の失血とショックを起こし、多くの場合、第8病日から第9病日に死亡しています。

診断

 通常、鑑別診断を要する疾患には、マラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎、他のウイルス性出血熱が含まれます。

 マールブルグウイルス感染の確定診断をつけられるのは、研究所で実施される、数種類の異なる検査のみです。その検査方法は、酵素免疫測定(ELISA)法、抗原検出法、血清中和試験、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、細胞培養によるウイルス分離です。

 臨床検体の検査は、バイオハザードリスクが非常に高く、バイオセーフティーレベルが最も高い環境下でのみ行われます。

治療とワクチン

 患者には、しばしば、電解質を含んだ輸液や経口補水液の投与が必要であり、重症例には集中的な支持療法が必要です。

 マールブルグ病に対する特異的な治療法やワクチンは、まだありません。数種類のワクチンの試験が行われていますが、実用化までには、まだ何年もかかる見込みです。新しい薬物療法は、実験室での研究では有望な結果が出ており、現在、評価が行われています。

マールブルグウイルスの自然宿主

 アフリカでは、オオコウモリ科の、特にルーセットオオコウモリがマールブルグウイルスの自然宿主と考えられています。オオコウモリには明らかな症状は現れません。結果として、マールブルグウイルスの地理的分布は、オオコウモリの生息域に重なると考えられています。

動物のマールブルグウイルス

 最初のマールブルグ病のアウトブレイクでは、人への感染源はウガンダから輸入されたアフリカミドリザルでした。

 異なるエボラウイルスを豚に実験的に接種した報告によれば、豚はフィロウイルスに感受性があり、ウイルスを排泄するとされています。したがって、豚は、マールブルグ病のアウトブレイクが発生している間は増幅宿主になる可能性があると考えるべきです。これまでに、他の動物がフィロウイルスのアウトブレイクに関連していると確定された事例はありませんが、予防的な措置として、増幅宿主にならないと証明されるまでは、増幅宿主になる可能性があると考えるべきです。

予防

 〇常在地域の養豚場での予防措置

 アフリカの養豚場では、豚がオオコウモリと接触することによる感染を避けるために予防措置が必要です。そのような感染が起こると、ウイルスが増幅され、マールブルグ病のアウトブレイクの原因になるか、関与する可能性があります。

 〇人でのエボラウイルス感染のリスクの減少

  マールブルグ病に対して、有効な治療法や人に使用できるワクチンがないので、人での感染と死亡を減らすためには、マールブルグウイルスに感染する危険因子の認識の向上と、個人がウイルスへの暴露を減少させることができる予防対策を行うことしかありません。

 アフリカでは、マールブルグ病のアウトブレイクが発生している間、リスクを減らすために、公衆衛生学的な啓発メッセージはいくつかの要因に焦点があてられるべきです。

  ・オオコウモリの群れが生息する鉱山や洞窟での長時間の暴露から生じる、コウモリから人
  への感染リスクの減少。研究活動や観光で、オオコウモリの群れが生息する鉱山や洞窟に
  入るときには、手袋や適切な防護服(マスクを含む)を着用するべきです。

  ・地域の中で、感染した患者、特に患者の体液に直接または濃厚接触した人から発生する、
  人から人への感染リスクの減少。マールブルグ病の患者との身体的な濃厚接触は避ける
  べきです。自宅で病気の患者の世話をする時には、手袋や適切な個人防護具を着用する
  べきです。自宅で病気の患者の世話をした後と同様、病院に病気の親類を見舞った後にも、
  常に手洗いが必要です。

  ・マールブルグ病が発生している地域では、住民に、病気の性質や、死体の埋葬を含むアウ
  トブレイクを封じ込めるための対策を伝えるべきです。エボラ出血熱の死亡者は、迅速かつ
  安全に埋葬すべきです。

 〇医療機関での感染予防

 マールブルグウイルスの人から人への感染は、主に、血液や体液への直接接触と関連します。適切な感染予防対策が取られていなかった医療提供に関連したマールブルグウイルスの感染が報告されています。

 マールブルグウイルスに感染したことが確定された患者や、その疑いのある患者の診療をする医療従事者は、患者の血液や体液からの感染や、汚染された可能性のある環境に直接接触することによる感染を防ぐために感染予防策を実施するべきです。したがって、マールブルグウイルスに感染したことが確定された患者や、その疑いのある患者への医療提供には、特別な予防方法と標準予防策の強化、特に基本的な手指衛生や個人防護具の使用、安全な注射手技、安全な埋葬方法を実施することが必要です。

 検査施設の勤務者にもリスクはあります。マールブルグウイルス感染が疑われる人や動物から、診断のために採取された検体は、トレーニングを受けた職員が取り扱うべきであり、十分に設備が整った検査施設で処理すべきです。

WHOの対応

 WHOは、疾患の調査や感染拡大防止を支援するために、専門的な知識や文書を提供することによって、過去すべてのマールブルグ病のアウトブレイクに関わってきました。

 マールブルグ病と確定された患者やその疑いのある患者を診療する際に推奨する感染予防法は、2008年3月の「フィロウイルスによる出血熱(エボラ出血熱、マールブルグ病)と確定された患者や、その疑いのある患者を診療する際に、暫定的に推奨する感染予防法(Interim infection control recommendations for care of patients with suspected or confirmed Filovirus (Ebola, Marburg) haemorrhagic fever)」の中で示しています。

 WHOは、医療における標準予防策に関する覚書を作成しました。標準予防策は、血液に由来する感染や、他の病原体による感染のリスクを減らすためのものです。標準予防策が、常に実施されていれば、血液や体液からの感染のほとんどが予防できると考えられます。標準予防策は、感染状況にかかわらず、すべての患者の医療に推奨されます。標準予防策には、基本的な感染予防方法が含まれ、手指衛生、血液や体液との直接接触を避けるための個人防護具の使用、針刺しや鋭利な器具による傷の予防、環境管理が含まれます。

<表:マールブルグ病のアウトブレイク>

ウイルスのサブタイプ 患者数 死亡者数 致死率
2008 オランダ
(ウガンダからの輸入例)
マールブルグ 1 1 100%
2008 米国
(ウガンダからの輸入例)
マールブルグ 1 0 0%
2007 ウガンダ マールブルグ 4 2 50%
2005 アンゴラ マールブルグ 374 329 88%
1998-2000 コンゴ民主共和国 マールブルグ 154 128 83%
1987 ケニヤ マールブルグ 1 1 100%
1980 ケニヤ マールブルグ 2 1 50%
1975 南アフリカ マールブルグ 3 1 33%
1967 ユーゴスラビア
(現在のセルビア)
マールブルグ 2 0 0%
1967 ドイツ マールブルグ 29 7 24%
出典

WHO Marburg haemorrhagic fever Fact sheet November 2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs_marburg/en/index.html