クリミア・コンゴ出血熱について (ファクトシート)

2013年1月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)ウイルスは重篤なウイルス性出血熱の集団発生を起こします。
  • CCHFの集団発生では、死亡率は最高で40%に達します。
  • ウイルスは、主にダニや家畜から人に伝播します。人から人への感染は、感染した人の血液、分泌物、臓器、その他の体液に濃厚接触をすることによって起こることがあります。
  • CCHFは、北緯50度以南のアフリカ、バルカン半島、中東、アジアに常在しています。
  • 人に対しても、動物に対しても、ワクチンはありません。

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)は、ダニによって媒介されるブニヤウイルス科(ナイロウイルス属)のウイルスによって広範囲に分布する疾患です。CCHFウイルスは重篤なウイルス性出血熱の集団発生を起こし、その致死率は10%から40%になります。

CCHFは、主要な媒介ダニが分布する北限である北緯50度よりも南のアフリカ、バルカン半島、中東、アジアに常在しています。

動物とダニでのクリミア・コンゴ出血熱ウイルス

CCHFウイルスの宿主には、牛、羊、山羊など広範囲の野生動物または家畜が含まれます。多くの鳥類は感染に抵抗性を示しますが、ダチョウには感受性があり、常在地域では高率に感染することがあり、人の感染源になったことがあります。例えば、以前、南アフリカのダチョウのと殺場で集団発生が起こりました。これらの動物はウイルスを保有していても、発症しません。

動物は感染したダニに咬まれることによって感染し、感染してから約1週間は血流にウイルスが存在するので、その間に他のダニに咬まれることで、ダニ-動物-ダニという感染サイクルが続くことになります。数種類のダニの属がCCHFウイルスに感染しますが、イボマダニ属が主要な媒介ダニです。

伝播

CCHFウイルスは、ダニに咬まれたり、と殺中やその直後に感染した動物の血液や組織に接触したりすることで、人に伝播します。患者の大多数は、農業従事者、と殺場の労働者、獣医師などの畜産業の関係者で発生しました。

人から人への感染は、感染した人の血液、分泌物、臓器、その他の体液に濃厚接触をすることによって起こることがあります。医療機器の不適切な滅菌、針の使い回し、医薬品の汚染によって、院内感染が起こることもあります。

所見と症状

潜伏期間の長さは、ウイルスの感染様式によって異なります。ダニに咬まれて感染した場合、潜伏期間は通常1日から3日であり、最長で9日間です。感染した血液や組織に接触したことにより感染した場合、潜伏期間は通常5日から6日ですが、最大13日という記録があります。

発症は突然であり、発熱、筋肉痛、めまい、頸部痛、項部硬直、背部痛、頭痛、眼痛、羞明(眼が光に対して通常よりも過敏である状態)が起こります。また、早期に悪心、嘔吐、下痢、腹痛、咽頭痛が起こることもあり、続いて気分の変動が激しくなり、錯乱状態になることもあります。2日から4日後には、興奮状態から傾眠、抑うつ、無気力状態に推移し、肝腫大を伴う右上腹部に限局する腹痛がみられることがあります。

その他の所見としては、頻拍(心拍数の増加)、リンパ節腫脹、口や咽頭など体内の粘膜表面や皮膚に点状出血(微小出血によって生じる斑)が含まれます。点状出血斑は、出血斑と呼ばれる大きな斑や、出血によって起こる他の現象に進展することがあります。また、通常は肝炎の所見があり、重篤な患者では急速に腎機能が悪化したり、発症から5日目以降に突然の肝不全または呼吸不全がみられたりすることがあります。

発症してから2週目に死亡することがあり、CCHFの死亡率は約30%です。一般的に、回復する患者は発症してから9日目または10日目に症状が改善し始めます。

診断

CCHFウイルス感染は、以下に示す数種類の異なる検査によって診断することができます。

  • 酵素免疫測定(ELISA)法
  • 抗原検出法、血清中和試験
  • 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法
  • 細胞培養によるウイルス分離

致死的な患者と発症後数日の患者では、通常は測定できるレベルの抗体産生がみられないので、これらの患者の診断は血液検体または組織検体からのウイルスの検出かRNAの検出によって診断されます。

患者から採取した検体は、バイオハザードリスクが非常に高く、バイオセーフティーレベルが最も高い環境下でのみ取り扱うべきです。しかし、検体が(殺ウイルス剤、ガンマ線、ホルムアルデヒド、加熱等によって)不活化されていれば、基本的なバイオセーフティーレベルが整った環境で取り扱うことができます。

治療

CCHFの患者管理の主な方法は、症状に応じた全身の支持療法です。CCHF感染を治療するために抗ウイルス薬であるリバビリンが使用され、効果があるようです。経口製剤でも輸液製剤でも効果があるようです。

予防と制御

動物とダニのCCHFの制御

ダニ-動物-ダニという感染サイクルは通常気づかれず、家畜の感染は一般的に不顕性感染なので、動物とダニのCCHF感染を予防したり制御したりすることは困難です。また、媒介するダニは非常に多く、広範囲に分布しているので、ダニ駆除剤(ダニを殺すための化学製品)によるダニの制御は、良好に管理された畜産設備に対してのみ現実的な選択肢となります。例えば、(前述した)南アフリカにあるダチョウのと殺場で発生した際には、ダチョウがと殺される前に検疫所で14日ダニが付着していないことを確保するための措置が講じられました。この措置は、と殺されている間に動物が感染するリスクを減らし、家畜に接触することによる人の感染を予防しました。

動物に使用できるワクチンはありません。

人に対する感染リスクの減少

CCHFに対するマウス脳由来の不活化ワクチンが開発され、東ヨーロッパで小さな規模で使用されましたが、現在では、人に広く使用するための安全性と有効性が認められていません。

ワクチンがない中で、ヒトの感染を減らすための唯一の方法は、リスクファクターに関する注意喚起と、ウイルスへの暴露を減らすために実施できる予防方法についての住民教育です。

公衆衛生上の助言にはいくつかの側面が求められます。

ダニから人への感染リスクを減らすための助言

  • 防護服(長袖、長ズボン)を着用すること。
  • 衣類に付いたダニが容易に発見できるように淡色の衣類を着用すること。
  • 衣類の上から承認されたダニ駆除剤(ダニを殺すための化学製品)を使用すること。
  • 皮膚と衣類に承認された忌避剤(虫よけ剤)を使用すること。
  • 定期的に衣類と皮膚にダニが付いていないか調べること。もし付いていた場合には、安
    全に除去すること。
  • 動物や、家畜小屋の中、納屋の中で、ダニの寄生を排除または制御するよう努めること。
  • ダニが多発する地域やダニが最も活発になる季節を避けること。

動物から人への感染リスクを減らすための助言

  • 常在地域で動物や動物の組織を取り扱う時、特に、と殺場や家庭でと殺を行う間は、手袋やその他の防護衣を着用すること。
  • 動物をと殺場に入れる前に隔離をするか、動物を取り扱う際にはと殺する2週間前に常に駆除剤を使用すること。

地域内での人から人への感染リスクを減らすための助言

  • CCHFに感染した人との身体的な濃厚接触を避けること。
  • 病気の人の世話をする時には手袋や防護衣を着用すること。
  • 病気の人の世話をした後や見舞った後にはきちんと手を洗うこと。

医療機関における感染制御

CCHFの確定患者や疑い患者の診療を行う医療従事者や、CCHFの確定患者や疑い患者の検体を取り扱う医療従事者は感染制御のためスタンダードプリコーション(標準予防策)を実施するべきです。スタンダードプリコーションには、基本的な手指衛生、個人防護具の使用、安全な注射手技、安全な埋葬方法が含まれます。

CCHFの集団発生が起こっている地域外であっても、その近くで患者の診療に従事している医療従事者も予防的に標準感染予防策を実施するべきです。

CCHFが疑われる患者から採取された検体は、適切な設備のある研究施設で熟練したスタッフが取り扱うべきです。

CCHFの確定患者や疑い患者の診療を行う際の感染予防法の推奨はWHOが作成したエボラ出血熱とマールブルグ出血熱の感染予防法(Interim infection control recommendations for care of patients with suspected or confirmed Filovirus(Ebola, Marburg)haemorrhagic fever)に従うべきです。

世界保健機関(WHO)の対応

WHOは、ヨーロッパ、中東、アジア、アフリカにおけるCCHFのサーベイランス、診断能力、発生時の対応活動を支援するために関係機関と連携しています。

また、WHOは、疾患の調査と制御を支援するための文書を提供し、血液媒介性感染症に感染するリスクと他の病原体に感染するリスクを減らすことを目的として医療機関におけるスタンダードプリコーションに関する覚書を作成しました。

出典

WHO:Fact Sheet January 2013
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs208/en/index.html