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シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)について (ファクトシート)

2013年3月 WHO ( 原文〔英語〕へのリンク )

要点

世界中で、約700万人から800万人が、シャーガス病の原因であるクルーズトリパノソーマ
 (Trypanosoma cruzi)に感染していると推計されており、その大部分はラテンアメリカで発
 生しています。

 シャーガス病は、かつて、アメリカ大陸に限局し、主にラテンアメリカで発生していましたが、
 現在では他の大陸に広がっています。

 シャーガス病に感染した後、早期に治療を開始すれば治療できます。

 持続感染者の30%は心疾患が進行し、10%は消化器疾患、神経疾患、複数の疾患が進行
 し、特異的な治療が必要になります。

 ラテンアメリカのシャーガス病を予防するために最も有効な方法はベクター・コントロールで
 す。

 輸血や臓器移植による感染を防ぐために、血液のスクリーニングが必須です。

 シャーガス病は、アメリカトリパノソーマ症とも呼ばれ、クルーズトリパノソーマという原虫が寄生することによって起こる疾患で、死亡することもあります。シャーガス病は主にラテンアメリカの21か国(アルゼンチン、ベリーズ、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、エルサルバドル、フランス領ギアナ、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ベネズエラ、ウルグアイ)に常在しています。主にサシガメ(英語では、”kissing bugs”という名前でよく知られていますが、地域によっては他の名前で呼ばれます)の糞によって人に感染します。

 世界中で、約700万人から800万人が、シャーガス病に感染していると推計されており、その大部分はシャーガス病の常在地域であるラテンアメリカで発生しています。シャーガス病の治療費は依然として高く、コロンビアだけでも、シャーガス病の患者全員に必要な医療費は約年間2億6700万米ドルと推計されています。また、ベクター・コントロールに必要な殺虫剤の噴霧には年間約500万米ドルかかっています。

 シャーガス病という名前は、1909年にこの疾患を初めて発見した、ブラジルのリベイロ・ジュスティニアーノ・シャーガス(Carlos Ribeiro Justiniano Chagas)医師の名前に由来します。 

分布

 シャーガス病は、主にラテンアメリカで発生しています。しかし、この数十年間で、米国、カナダ、ヨーロッパの多くの国々、西太平洋の数か国でも患者の発生が増加しています。これは、主に、ラテンアメリカから他の地域への人の移動によるものです。頻度は低いですが、輸血、垂直感染(母子感染)、臓器移植による感染もあります。

症状と所見

 シャーガス病には2つの病期があります。第1期では、感染から約2か月間、急性症状が続きます。急性期には、血中に多くの原虫が存在します。ほとんどの患者では、症状はないか軽度ですが、発熱、頭痛、リンパ節の腫脹、蒼白、筋肉痛、呼吸困難、浮腫、腹痛、胸痛がみられることもあります。サシガメに刺された人の50%未満では、最初の可視性病変として、皮膚病変または紫色の一側性眼窩周囲浮腫がみられます。

 慢性期には、原虫は主に心臓や消化器の筋肉内に生息します。患者の30%は心疾患が進行し、10%は消化器疾患(典型的には巨大食道または巨大結腸)、神経疾患、複数の疾患が進行します。その数年後に心筋障害が進展し、突然死や心不全を来すことがあります。

伝播

 ラテンアメリカでは、クルーズトリパノソーマは、主に吸血性のサシガメの糞によって感染します。このサシガメは、一般的に、農村部や都市部郊外にある貧しい家の隙間に生息しています。サシガメは通常、日中は隠れており、夜に活動を始めて吸血します。サシガメは、通常、顔のように皮膚が露出した部位を刺し、刺した部位の近くに糞を排泄します。人が無意識にサシガメの糞を触った後に、刺し口、目、口、傷口を触ることによって、原虫が体内に入ります。

 クルーズトリパノソーマは、サシガメの糞に汚染された食品等の摂取、感染した人の血液を使った輸血、妊娠中や出産時の母子感染、感染した人の臓器を使った臓器移植、実験室事故でも感染することがあります。

治療

 シャーガス病に対しては、ベンズニダゾールやニフルチモックスによって原虫を殺すことで治療できます。どちらの薬も、感染後の早期で、急性期の症状が出現している間に投与すれば、ほぼ100%の有効性があります。しかし、どちらの薬も感染してから長期間経過した患者には有効性が減少します。

 感染症の再発(免疫不全等による)、先天性の感染と慢性期の早期にある両親への治療にも治療が適用されます。感染した成人で、特に症状のない人は治療するべきです。治療によるシャーガス病の進行の防止や遅延という恩恵と、長期間の治療(最長2か月間)と副反応の発生(治療を受けた患者のうち最高で40%に発生)を比較して検討すべきです。

 ベンズニダゾールやニフルチモックスは、妊婦、腎不全の患者、肝不全の患者には投与すべきではありません。ニフルチモックスは、神経疾患や精神疾患のある人にも禁忌です。

 さらに、心疾患や消化器疾患に対する特異的な治療が必要になることがあります。

制御と予防

 シャーガス病にはワクチンがありません。ラテンアメリカのシャーガス病を予防するために最も有効な方法はベクター・コントロールです。輸血や臓器移植による感染を防ぐために、血液のスクリーニングが必要です。

 元来(9000年以上前)、クルーズトリパノソーマは野生動物のみに感染していたものが、その後、飼育動物や人に広がったと考えられています。アメリカの野生動物がクルーズトリパノソーマの主な保有宿主であるということは、この原虫を根絶することができないということを意味します。その代わり、疾患の制御は、伝播の排除と、感染した人や発症した人に対する医療の提供の確保を目標としています。

 クルーズトリパノソーマは数種類のサシガメに感染しますが、その多くはアメリカ大陸で発見されています。地域によりますが、WHOは、感染予防と制御の方法として下記に示す対策を推奨しています。

  ●家屋やその周辺での殺虫剤の噴霧

  ●ベクターの生息を防ぐための家屋の改修

  ●蚊帳などの個人予防

  ●食品の準備、輸送、貯蔵、摂取時の衛生対策の励行

  ●献血者のスクリーニング

  ●臓器、組織、細胞の移植の際のドナーとレシピエントの検査

  ●早期に診断し、治療するために、感染した母親から生まれた新生児やその他のこどものスクリ
   ーニング

WHOの対応

 1990年代以降、南回帰線以南、中米、アンデス共同体、アマゾン流域の1990年代以降、ラテンアメリカでは、汎米保健機関事務局と連携した南回帰線以南の地域、中米地域、アンデス共同体、アマゾン流域の政府間イニシアティブによって、ラテンアメリカの原虫とベクターの制御は大きく成功しました。これらの多国間のイニシアティブによって、各国のベクターの伝播が大きく減少しました。また、ラテンアメリカ全体で、輸血による感染リスクも大きく減少しました。この進展は、常在する加盟国の強い関与、調査・研究の強化、組織の管理、多くの国際的な関係団体の支援によって実現できました。

 同時に、以下の更なる課題に直面しています。

  ●制御の進展の持続可能性、継続性、強化

  ●アマゾン川流域など、以前にはシャーガス病が発生していないと考えられた地域でのシャーガス
   病の発生

  ●アルゼンチンとボリビアにまたがるチャコ地域など、疾患の制御が進展している地域での疾患
   の再興

  ●主に、ラテンアメリカとその他の地域間の人の移動の増加によって起こる疾患の広がり

  ●何百人もの感染者の診断と治療の提供

 常在国のみならず、非常在国においても、シャーガス病の伝播の排除と、感染者と患者に対する医療の提供の確保という目標を達成するために、WHOは世界的なネットワークを増加し、地域や国の対応能力を強化しようとしており、以下のことに焦点を当てています。

  ●世界での疫学的なサーベイランスと情報収集システムの強化

  ●常在国、非常在国での輸血や臓器移植による感染の予防

  ●感染のスクリーニングや診断のための検査の普及

  ●二次感染(先天性感染)の予防の推進、先天性感染と後天性感染の患者管理

  ●適切な患者管理に関する統一見解の普及

出典

WHO
Fact sheet N°340 Chagas disease (American trypanosomiasis)  Updated March 2013
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs340/en/index.html