マラリアについて (ファクトシート)

2013年12月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • マラリアは、寄生虫によって起こる、生命に危険のある疾患で、感染した蚊に刺されることにより人に感染します。
  • 2012年には、推計で62万7,000人(47万3,000人から78万9,000人までの不確実性の範囲があります)がマラリアで死亡し、そのほとんどがアフリカの小児でした。
  • マラリアは予防することができ、治療できる疾患です。
  • マラリアの予防と制御対策が進み、多くの場所でマラリアによる負荷が劇的に減少しています。
  • マラリアが常在していない国から渡航する免疫のない人が感染すると、非常に脆弱です。

2013年12月に公表された最近の推計によれば、2012年のマラリア患者数は、約2億700万人(1億3,500万人から2億8,700万人までの不確実性の範囲があります)で、推計62万7,000人(47万3,000人から78万9,000人までの不確実性の範囲があります)が死亡しました。マラリアによる死亡者は、2000年以降、世界で45%減少し、アフリカでは49%減少しました。

死亡者のほとんどはアフリカに住む小児で、アフリカでは1分に1人の小児がマラリアで死亡しています。アフリカの小児におけるマラリアの死亡率は、2000年以降、54%減少したと推計されています。

マラリアはマラリア原虫(Plasmodium)という寄生虫によって引き起こされる疾患です。この寄生虫は、「マラリアベクター」と呼ばれる、感染したハマダラカ(Anophelesmosquitoes)に刺されることで人に感染が広がります。ハマダラカは、主に夕暮れから明け方に吸血します。

人のマラリアの原因になる原虫には、以下の4種類があります。

  • 熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum
  • 三日熱マラリア原虫 Plasmodium vivax
  • 四日熱マラリア原虫 Plasmodium malariae
  • 卵形マラリア原虫 Plasmodium ovale

熱帯熱マラリアと三日熱マラリアがよくみられます。熱帯熱マラリアは最も致死的です。

近年、東南アジアの特定の森林地帯で発生するサルのマラリアの原虫であるPlasmodium knowlesiによるマラリア患者も数例発生しています。

伝播

マラリアは、もっぱらハマダラカに刺されることによって伝播します。伝播の程度は、寄生虫、媒介蚊、人と環境に影響されます。

世界では、特定の場所で、約20種類のハマダラカが重要です。重要な媒介蚊は、すべて夜間に吸血します。ハマダラカは水中に産卵し、産卵場所は種によって好みがあり、例えば、水たまり、水田、蹄の跡などの新鮮な水が集まった浅い場所に好んで産卵する種があります。蚊の寿命の長い場所(そのため、蚊の体内で原虫が成育するのに十分な時間があります)や、他の動物よりも人の血液を好んで吸血する蚊がいる場所では、マラリアの伝播がより深刻です。例えば、アフリカの媒介蚊は寿命が長く、人の血液を好んで吸血するため、世界のマラリア死亡者の90%以上が発生しています。

伝播は、降雨パターン、気温や湿度など、蚊の個体数や生存に影響を与える気候の状況にも影響を受けます。多くの場所では、伝播は季節性で、ピークは雨期とその直後にみられます。人々がマラリアに対してほとんどまたは全く免疫を持たない地域で、気候や他の条件がマラリアの伝播に突然有利に働いたとき、マラリアの流行が起こることがあります。また、免疫の低い人々が、マラリア伝播の高い地域で、仕事を探したり、難民となったりして、移り住んだときにもマラリアの流行が起こることがあります。

人の免疫も、もう一つの重要な要因となり、特にマラリア伝播が中等度から高い地域の成人の免疫が重要です。何年にも渡り暴露されることによって部分的な免疫はつきますが、その免疫によって完全に予防できるものではなく、マラリアに感染した時に重症化するリスクを低減するものです。このため、アフリカでマラリアによる死亡は、ほとんどが小児で発生しています。一方、伝播が低く、免疫が低い地域では、すべての年齢層にリスクがあります。

症状

マラリアは急性熱性疾患です。免疫のない人では、感染した蚊に刺されてから、7日以上(通常は10日から15日)後に発症します。初発症状(発熱、頭痛、悪寒、嘔吐)は軽く、マラリアと気づくのは困難です。熱帯熱マラリアは、24時間以内に治療しなければ重症化し、しばしば死亡します。小児の重症マラリアでは、高度の貧血、代謝性アシドーシスに伴う呼吸窮迫、脳マラリアのうち1つ以上の症状がしばしば発生します。成人では、しばしば、多臓器不全がみられます。マラリア常在地では、部分的な免疫ができ、不顕性感染が起こることがあります。

三日熱マラリアと卵形マラリアでは、初感染後、マラリア常在地を離れたとしても数週間から数か月後に再発することがあります。この再発症状は、原虫が肝臓での休眠期(熱帯熱マラリア原虫や四日熱マラリア原虫では存在しません)から、再び増殖を始めることによって起こり、完治するためには、肝臓感染ステージを標的とする特異的な治療法が必要です。

リスクのある人

世界人口の約半数にマラリアのリスクがあります。マラリア患者と死亡者のほとんどが、サハラ以南のアフリカで発生しています。しかし、アジアやラテンアメリカ、また、より少ないですが、中東やヨーロッパの一部でもリスクがあります。2013年には97の国と地域でマラリアの伝播がみられました。

特にリスクのあるグループは以下の人々です。

  • 小児;伝播が継続して起きている地域の小児は、マラリアの重症化に対する免疫がほとんどないのでリスクがあります。
  • 免疫のない妊婦;マラリアは高率に流産を起こし、妊産婦の死亡を招くことがあります。
  • 部分的に免疫を持つ妊婦;伝播の高率に起こっている地域では、マラリアは、特に、初回の妊娠時と二度目の妊娠時流産や低出生体重児の原因となることがあります。
  • 部分的に免疫があり、HIVに感染している妊婦;伝播が継続して起きている地域では全妊娠期間を通してリスクがあります。マラリアの経胎盤感染がある場合、新生児がHIVに感染するリスクも高くなります。
  • HIV/AIDS感染者
  • 非常在地からの渡航者;免疫がないためリスクがあります。
  • 常在地からの移民と小児;非常在地に移住した人が祖国の友人や親戚を訪ねる時は、免疫が低下しているか、免疫がないため、同様に感染リスクがあります。

診断と治療

マラリアの早期診断と早期治療が疾患を減らし、死亡を防ぎます。また、マラリア伝播の減少に寄与します。

最も良い治療法は、特に熱帯熱マラリアでは、アルテミシニン併用療法(ACT)です。

WHOは、マラリアが疑われる症例は、全例、治療の前に寄生虫学的検査(顕微鏡検査または迅速診断検査)を用いて確定診断することを推奨しています。寄生虫学的検査は15分以内で結果が得られます。症状のみで診断して治療することは、寄生虫学的検査ができないときに限定するべきです。さらに詳しい推奨内容は、マラリア治療のガイドライン(第2版)に記載されています。

薬剤耐性

抗マラリア剤への耐性は再び問題となっています。熱帯熱マラリアに対するクロロキンやスルファドキシン-ピリメサミンのような前世代の薬剤に対する耐性は、1970年代と1980年代に広がり、マラリアを制御するための取組を阻害し、小児の死亡を増加させました。

近年、アルテミシニンに対する耐性が大メコン圏のカンボジア、ミャンマー、タイ、ベトナムの4か国で報告されています。薬剤耐性が発生して広がることには多くの要因があるようですが、経口アルテミシニン単剤療法の使用が重要な要因であると考えられています。経口アルテミシニン単剤療法では、マラリアの症状が急速に改善するので、治療が完了する前に患者が服薬をやめてしまうことがあります。その結果、不完全な治療となり、そのような患者の血液中には原虫が残存し続けることになります。アルテミシニンと第2薬剤を併用して治療されなかった場合、耐性を獲得した原虫は残存し、蚊を介して他の人に感染することができます。

アルテミシニンに対する耐性化が進み、地理的に拡大すると、少なくとも5年間は、代わりの抗マラリア剤がないので、公衆衛生上、悲惨な結果となるでしょう。

WHOは、日常的な抗マラリア剤耐性モニタリングを推奨しており、この重要な分野の取組を強化するために対象の国々を支援しています。

さらに包括的な推奨は、2011年に公表された、アルテミシニン耐性抑制計画(GPARC)に掲載されています。

予防

コミュニティーレベルで、マラリアの伝播を減少させる主な方法はベクターコントロールです。これは、マラリアの伝播を非常に高い水準からゼロに近づけることができる唯一の介入方法です。

個人のマラリア予防は、蚊に刺されないようにすることが第一です。

広範囲な環境下では、2つのベクターコントロールの方法が効果的です。

殺虫剤処理された蚊帳(ITNs)

長期作用型殺虫剤含浸蚊帳(LLINs)は公衆衛生普及計画のためのITNsとして好まれます。WHOは、リスクのあるすべての人と多くの環境に分配されることを推奨しています。誰もが毎晩、LLINの中で寝ることができるように、LLINを無償支給することは、最も費用対効果が高い方法です。

屋内での残留殺虫剤噴霧

屋内残留殺虫剤噴霧(IRS)はマラリアの伝播を急速に制御するために威力のある方法です。標的とする地域で、少なくとも80%の家屋で噴霧した場合に、その威力が最大になることが確認されています。屋内での噴霧は、使用される殺虫剤や噴霧される表面の形状にもよりますが、3~6か月間効果があります。DDTは9~12か月間効果が続くこともあります。IRSの計画で使用するための新しい種類の殺虫剤と同様に、効果がより長い噴霧用殺虫剤の開発が続けられています。

マラリアを予防するために、抗マラリア剤が使用されることもあります。渡航者では、血中のマラリアを抑制して発症を予防するための予防内服によって、マラリアを予防することができます。また、WHOは、高伝播地域に住む妊婦に対して、妊娠中期、後期に、サルファドキシン・ピリメサミンを間欠的に予防投与することを推奨しています。同様に、アフリカの高伝播地域に住む乳幼児にも、定期の予防接種と並行して、サルファドキシン・ピリメサミンを間欠的に3回予防投与することを推奨しています。2012年、WHOは、アフリカのサヘル地域に対し、マラリア予防のさらなる戦略として、季節性の抗マラリア薬の予防内服を推奨しました。この戦略では、伝播が高率に起きる季節の間、5歳未満の小児すべてにアモジアキンとサルファドキシン・ピリメサミンを月単位で投与することが含まれています。

殺虫剤耐性

現在まで、マラリアを制御することにおける成功のほとんどは、ベクターコントロールによるものです。ベクターコントロールは、主に、ピレスロイドによって行われています。現在、ピレスロイドは、ITNsやLLINsで使用が推奨されている唯一の殺虫剤です。近年、多くの国でピレスロイドに耐性を獲得した蚊が出現してきました。地域によっては、公衆衛生上使用される4種類の殺虫剤すべてに耐性を獲得した蚊も発見されています。幸いなことに、この耐性は、極めて稀に有効性の減少と関連するのみであり、LLINsとIRSは、ほとんどすべての環境で、依然として高い有効性のある方法です。

しかし、サハラ以南のアフリカとインドでは、非常に懸念されています。これらの国は、マラリアの伝播が高い水準であり、殺虫剤に対する耐性も広範囲に報告されているのが特徴です。新たな代替の殺虫剤を開発する優先度は高く、いくつかの有望な製品開発が進行中です。蚊帳に使用する新しい殺虫剤の開発は特に優先度が高いです。

殺虫剤耐性の確認は、最も効果的なベクター制御を行うために、国のマラリア制御対策において必須です。IRSに使用する殺虫剤の選択は、標的となるベクターの直近の、その地域での感受性データの情報に基づくべきです。

殺虫剤耐性の脅威に対して、世界的に、迅速かつ協調した対応を行うために、WHOは広範囲な関係者とともにマラリアのベクターにおける殺虫剤耐性管理の世界計画(GPIRM)の策定を進め、2012年5月に公表しました。GPIRMでは、世界のマラリア常在地に求める、以下の5つの柱から成る戦略を提唱しています。

  • マラリア常在国で、殺虫剤耐性の管理戦略を計画し、実施すること。
  • 適切かつ迅速な昆虫学的モニタリングと耐性モニタリングを確実に実施すること。また、効果的なデータ管理を確実に実施すること。
  • 新しく革新的なベクターコントロールの方法を開発すること。
  • 殺虫剤耐性の仕組みと現在の殺虫剤耐性管理手法の影響に関する知見を収集すること。
  • 効果的な仕組み(アドボカシー、人的資源、財源)を確保すること。

サーベイランス

追跡調査を進めることは、マラリアの制御において大きな課題です。マラリアのサーベイランスシステムで発見される患者は、世界で推計された患者数の約14%のみです。常在地での迅速で効果的なマラリア対策を行い、新興や再興を防ぎ、追跡調査を進め、各国政府と世界のマラリア常在地域が責任を持って行動するために、より強力なマラリアのサーベイランスシステムが、緊急に必要です。2012年4月、WHOの事務局長はマラリアの管理と排除のために、新しい世界的なサーベイランスマニュアルを公表し、常在国にマラリアのサーベイランスシステムを強化するように力説しました。これは、WHOのT3(Test、Treat、Track initiative)として知られるマラリアの検査診断、治療、サーベイランスを拡大するという大規模な要求の一部でした。

排除

マラリアの排除は、特定の地域で、蚊が媒介するマラリアの伝播がない、つまり、その地域でマラリア患者の発生がないということと定義されています。マラリアの根絶は、特定のマラリア原虫種によって起こるマラリア感染の発生が世界的にないことと定義されています。

2012年に報告された患者数によれば、世界保健総会で採択された、2015年にマラリアの罹患率を75%減少させるという目標に向けて、52か国は順調に進んでいます。WHOが推奨する戦略の大規模な展開、現在使用可能な方法、確固たる国家責任、関係者との協力態勢によって、更に多くの国(特にマラリアの伝播が低く変動している国)での疾病負荷を減らし、排除へと進むことができるでしょう。

近年では、2007年にアラブ首長国連邦、2010年にモロッコとトルクメニスタン、2011年にアルメニアの4か国が、WHOの事務局長にマラリアを排除したと認められました。

マラリアワクチン

現在、マラリアや人に感染する他の寄生虫に対して承認されたワクチンはありません。RTS,S/AS01として知られている熱帯熱マラリア原虫に対するワクチンの研究が最も進んでいます。このワクチンは、現在、アフリカの7か国で大規模臨床試験の評価中です。このワクチンの使用に関するWHOの推奨は、大規模臨床試験の最終結果によります。最終結果は2014年後半にまとまる予定であり、既存のマラリアを制御する方法に加えて、このワクチンを使用するかどうかについての推奨は2015年後半になる予定です。

WHOの対応

WHOの世界マラリア計画はマラリアの制御と排除の課程を以下の方法で示す責任があります。

  • 根拠に基づく方針、標準的な方法、制作、技術的な戦略、ガイドラインを示し、公開し、推進すること。
  • 世界的な進捗状況を独立して評価すること。
  • 対応能力の確立、組織強化、サーベイランスへの取組を推進すること。
  • マラリアの制御と排除を阻害する脅威と新たな行動分野を見極めること。

世界マラリア計画は、公開の推薦手続で任命された世界中のマラリア専門家15人で構成されている、マラリア政策の諮問委員会(MPAC)の事務局です。マラリア政策の諮問委員会は、年2回開催され、マラリアの制御と排除のために推奨される政策をWHOに助言します。諮問委員会の役割は、透明で迅速かつ信頼性のある政策決定過程の一部として、戦略的な助言と技術的な考え方を提供することで、マラリアの制御と排除に関することのすべてに及びます。

WHOは、マラリアに対し共同で行動する世界的な組織であるロールバック・マラリア・パートナーシップ(Roll Back Malaria partnership)の共同創立者であり主催者でもあります。この組織は行動や資源を動員し、合意形成します。マラリア常在国、開発機関、民間団体、非政府組織、共同体単位の組織、基金、研究機関、学術団体を含む500以上のパートナーで構成されています。

出典

WHO:Fact sheet N°94 Malaria Updated December2013

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs094/en/index.html