コレラについて(ファクトシート)

2014年2月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • コレラは、急性の下痢症を起こし、治療しないと数時間で死亡することもあります。
  • 毎年、300万人から500万人のコレラ患者が発生し、10万人から12万人がコレラで死亡していると推計されています。
  • 患者の80%は、経口補水液で治療することができます。
  • 効果的な感染対策は、予防、事前準備、対応に依存します。
  • コレラや他の水系感染症を減らすために、安全な水と衛生を確保することが重要です。
  • 経口コレラワクチンは、コレラの感染を予防するための追加手段とみなされますが、従来の感染予防対策に代わるものではありません。

コレラは、コレラ菌に汚染された飲食物を摂取することによって起こる急性下痢症です。毎年、300万人から500万人のコレラ患者が発生し、10万人から12万人がコレラで死亡していると推計されています。潜伏期間が2時間から5日と短いため、集団発生では患者が急増することがあります。

症状

コレラは、病原性が非常に高い病気です。小児も成人も感染し、数時間以内に死亡することもあります。

コレラ菌に感染しても約75%の人は無症状です。しかし、コレラ菌に感染してから7日間から14日間は、コレラ菌が便中に含まれ、環境中に排泄されるため、他の人に感染する可能性があります。

発症した人の80%は軽症または中等度の症状ですが、約20%は重症の脱水を伴う急性下痢症になります。この場合、治療しなければ死亡することがあります。

栄養失調の小児やHIVに感染している人など、免疫力が低下している人は、感染した場合に死亡するリスクが高くなります。

歴史

コレラは、19世紀にインドのガンジスデルタから世界に広がりました。その後に発生した6回の世界的な流行では、全大陸で数百万人が死亡しました。現在の世界的な流行(7回目の流行)は1961年に南アジアで始まり、1971年にアフリカ大陸に広がり、1991年にアメリカ大陸に広がりました。コレラは、現在、多くの国に常在しています。

コレラ菌の系統

集団発生を起こすコレラ菌には、O1 と O139 の2種類の血清型があります。O1血清型のコレラ菌が集団発生を起こす主な血清型です。O139血清型のコレラ菌は、1992年にバングラデシュで初めて確認され、東南アジアに限局しています。

この2種類の血清型以外のコレラ菌は、軽症の下痢を起こすことはありますが、流行を起こすことはありません。

最近、アジアとアフリカの一部の地域で新たな変異型のコレラ菌が発見されました。調査によると、これらの系統は、致死率が高く、より重症のコレラを起こすと示唆されています。伝播しているコレラ菌の系統の疫学状況を慎重に監視することが勧められます。

コレラ菌は人の体内のほか、塩水や河口の水に存在し、しばしば藻類の異常発生に関連します。最近の研究によれば、地球の温暖化によって、細菌が生きるのに適した環境になっていることが示されています。

危険因子と疾病負荷

コレラの感染は、不適切な環境管理と密接に関連します。典型的には、生活に必要な基盤が整備されていない都市周辺のスラムや、最低限の清潔な水や衛生が確保できない国内避難民や難民のキャンプなどが、感染リスクのある地域です。

災害によって、水や衛生のシステムが破壊されたり、不適切で混雑したキャンプに避難したりすると、コレラ菌が存在していたり、持ち込まれたりして、感染が起こるリスクも高くなります。死体から流行が起こったことはありません。

コレラは、依然として、世界的な公衆衛生上の脅威であり、社会的に未発達であることの重要な指標です。最近、不衛生な環境で生活している弱者が絶えず増加しており、このことと並行して、コレラの再興がみられています。

WHOに報告されたコレラの患者数は増加し続けています。2011年の1年間で、58か国から58万9,854人の患者が報告され、そのうち7,816人が死亡しています。しかし、サーベイランスシステムが限られていたり、渡航や貿易の制限を恐れたりするため、多くの患者が計上されていません。真の疾病負荷は、毎年、300万人から500万人のコレラ患者が発生し、10万人から12万人がコレラで死亡していると推計されています。

予防と制御

予防、事前準備、対応に基づく多角的なアプローチは、効果的なサーベイランスシステムとともに、コレラの集団感染を最小限に抑え、常在地域においてコレラを制御し、死亡者を減らすために重要です。

治療

コレラは容易に治療ができます。80%の患者は、速やかに経口補水液を投与することで治療することができます。非常に重症の脱水を伴う患者には輸液が必要で、その場合にも、下痢の持続期間を短縮し、必要な補水量を減らし、コレラ菌が排泄される期間を短縮するために、適切な抗菌薬の投与が必要です。抗菌薬を集団に投与することは、コレラの感染拡大を防ぐ効果がないことと、抗菌薬への耐性が増加することにつながるため、推奨されません。

迅速な治療を確保するために、感染を受けた集団内にコレラの治療センターを設置すべきです。適切に治療することで、致死率を1%未満にすべきです。

集団発生時の対応

集団発生が探知されると、通常の介入戦略がとられますが、これは、迅速な治療を確保することで死亡者を減らし、安全な水、適切な衛生状態、衛生習慣の励行や食品の取り扱い方法を伝えるための健康教育を提供することで、感染拡大を防止するために行われます。安全な水と衛生状態の確保は、非常に大きな挑戦ですが、依然として、コレラの影響を減らすための重要な要素です。

経口コレラワクチン

安全で効果的な経口コレラワクチンは、現在、2種類が市場に流通しています。2種類ともに不活化全菌体ワクチンです。また、1種類は、コレラ毒素のリコンビナントBサブユニットが含まれています。2種類ともに、コレラが常在している状況下では、2年間、50%以上の感染予防効果が続きました。

2種類のワクチンは、ともに、WHOの事前審査に合格しており、60か国以上で承認されています。Dukoral®は、接種して4か月から6か月後に、全年齢層でO1血清型のコレラ菌に対する短期的な予防効果が85%から90%認められました。

Shanchol®は、5歳未満の小児で、O1血清型とO139血清型のコレラ菌に対し、長期の予防効果があります。

2種類のワクチンは、それぞれ、7日または6週間の間隔をあけて、2回接種します。Dukoral®は、清潔な水150mlとともに投与します。

WHOは、コレラの常在地域や集団発生のリスクがある地域では、一般に推奨される感染予防方法とともに、現在使用できるコレラワクチンの使用を推奨しています。水質や衛生状態を改善するといった、より長期的な活動が行われている一方、ワクチンは短期の予防効果を与えます。

コレラワクチンを使用する時には、リスクの高い地域に住んでいる弱者を対象にすべきであり、コレラの流行を制御または予防するための他の介入をやめるべきではありません。WHOの3段階の意思決定手段は、複雑な緊急事態の際に、保健当局が、コレラワクチンを使用するかどうかを決定するための手引きとして作成されたものです。

WHOでは、非経口コレラワクチンは、予防効果が低く、重篤な副反応の発生頻度が高いことから、決して推奨していません。

渡航と貿易

現在では、入国する際の条件として、コレラワクチンの予防接種証明書を求めている国はありません。過去の経験から、人や物の移動について、隔離したり、出入港を禁止したりする措置は必要ないことがわかっています。輸入食品に関連したコレラの孤発例は、個々の渡航者が持っていた食品に関連していました。したがって、コレラの常在国や国内で常在している地域があるという理由のみで、適切な製造方法で造られた食品の輸入を制限することは正当化されません。

コレラが発生している国の近隣諸国では、コレラ患者を早期に発見するためにサーベイランスと国の対応を強化するとともに、コレラの感染が国境を越えて広がった時に対応することが勧められます。さらに、渡航者や住民に、コレラに感染するリスク、症状、予防方法、患者が発生した時期と場所についての情報提供をすべきです。

WHOの対応

WHOは、コレラの予防に関する世界的な専門委員会を設置し、以下の対応を行っています。

  • 国レベルでのコレラの予防と感染拡大防止のための技術的な助言や支援の提供
  • 国、地域、国際レベルでの、下痢性疾患の集団発生を予防し、事前準備を行い、対応するための専門家の養成
  • 医療専門家や一般市民向けに、コレラや他の流行を起こしやすい消化器疾患に関する情報やガイドラインの普及

出典

WHO Cholera Fact sheet N°107 Reviewed February2014

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs107/en/index.html