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中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)について (ファクトシート)

2015年5月 WHO (原文[英語]へのリンク

要点

中東呼吸器症候群(MERS)は、2012年にサウジアラビアで初めて同定された新規のコロナウイルス(MERS‐CoV)によって起こるウイルス性呼吸器疾患です。
コロナウイルスはウイルスの中でも大きな科で、感冒から重症呼吸器症候群(SARS)まで幅広い疾患を起こすものがあります。
典型的なMERSの症状は、発熱、咳、息切れ(呼吸困難)です。肺炎は一般的な症状ですが、必ず起こる症状ではありません。下痢などの消化器症状も報告されています。
報告されたMERS患者の致死率は約36%です。
MERS感染者の大部分はヒト―ヒト感染ですが、ラクダがMERS-CoVの重要な保有宿主であり、ヒトへのMERS感染の動物感染源となっているようです。しかし、ウイルス感染におけるラクダが果たす正確な役割や正確な感染経路は解明されていません。
患者との濃厚接触、例えば防護対策をとらずに治療に当たるようなことがなければ、ウイルスはヒトからヒトへ簡単に感染するとはみられていません。

症状

 MERS-CoV感染の臨床症状は、無症状や軽度の呼吸器症状から重症急性呼吸器疾患や死亡まで多岐にわたります。MERS-CoV疾患の典型的な症状は、発熱、咳、息切れです。肺炎は一般的な症状ですが、必ず起こる症状ではありません。下痢などの消化器症状も報告されています。重症の場合、人工呼吸器や集中治療室での治療を必要とする呼吸不全を起こすことがあります。報告されたMERS患者の約36%が死亡しています。このウイルスは高齢者、免疫力が弱い人、癌、慢性肺疾患、糖尿病といった慢性疾患がある人に、より重篤な病態を起こしているようです。

ウイルスの起源

 MERS-CoVは動物からヒトへ感染する人畜共通感染性ウイルスです。ウイルスの起源は十分には解かっていません。しかし、ウイルスゲノムの違いの解析からは、起源はコウモリにあり、遠い過去のある時にラクダに感染したと考えられています。

感染経路

ヒト以外とヒトとの感染:
 動物からヒトへの感染経路は十分には解かっていません。しかし、ラクダがMERS-CoVの主要な保有宿主で、ヒトへのMERS感染の動物感染源となっている可能性があります。

 ヒトでのウイルスの遺伝子配列と同じ配列をもつMERS-CoVが、エジプト、オマーン、カタール、サウジアラビア等のいくつかの国のラクダから分離されています。

ヒトからヒトへの感染:
 例えば感染者に防護対策をとらずに治療に当たるような患者との濃厚接触がなければ、ウイルスはヒトからヒトへ簡単に感染するとはみられていません。ヒト-ヒト感染する可能性がより高いと思われる、特に感染の予防や制御の対策が十分でない医療施設で、患者が集団発生しています。これまでのところ、持続的な地域社会での感染流行は報告されていません。

 このウイルスは、主にサウジアラビアで症例の大多数(>85%)が報告されており、アラビア半島全体に循環しているようです。何例かは中東以外でも報告されています。これらの感染者はほとんどが中東で感染し、この地域の外に感染輸出されたと考えられています。感染輸出された国では、二次感染が報告されていないか、限定的な二次感染の報告のみです。

予防と治療

 現在、ワクチンや特別な治療法はありません。治療は患者の臨床的状態に基づいて支持療法で行われます。

 一般的な予防対策として、ラクダやその他の動物がいる農場、市場、家畜小屋、他の場所に立ち寄る人は誰もが、動物との接触の前後では規則正しい手洗いを含む一般的な衛生対策を実行するべきであり、病気の動物との接触は避けるべきです。

 生や加熱が不十分なミルクや肉類などの動物製品の摂取は、ヒトで病気の原因となる様々な臓器への感染リスクを高めてしまいます。調理や低温殺菌を行い適切に処理された動物製品の摂取は安全ですが、未調理の食品との接触汚染を避けるために、注意して取り扱うことが必要です。ラクダの肉やミルクは、低温殺菌、調理、その他の熱処理をすれば摂取することができる栄養価の高い食品です。

 MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。これらの人々はラクダとの接触、ラクダの生乳やラクダの尿を飲んだり、適切に調理されていない肉を食べたりすることを避ける必要があります。

医療従事者におけるMERS-CoV

 いくつかの国において、MERS‐CoVが診断される前の医療現場での患者から医療従事者へ、また患者から患者へ、ウイルスの感染が医療施設内で発生しています。症状やその他の臨床的特徴が特異的ではないため、いつも早い時期に、または検査なしにMERS‐CoV患者を特定できるとは限りません。

 感染の予防と防御の対策は、医療施設でMERS‐CoVが広がる可能性を防ぐことにおいて重要です。MERS‐CoV感染の疑いのある患者や確定患者に治療を行う施設は、感染患者から、他の患者、医療従事者および来院者にウイルスの感染リスクを下げる適切な対策を取るべきです。医療従事者は感染の予防と制御に対する教育と訓練を受け、これらのスキルを定期的に更新するべきです。

旅行

 WHOは、MERS-CoVに関する渡航や貿易の制限や入国スクリーニングの適用を勧めてはいません。

WHOの取り組み

 WHOは、このウイルスと疾患をより詳しく理解するために、科学的なエビデンスを国際的に収集して共有し、流行対応の優先順位、治療戦略や臨床の管理方法を決定するために、感染が発生した国の臨床医や科学者と協力して取り組んでいます。またWHOは、このウイルスと戦うための公衆衛生予防戦略を展開するために国々と協力して取り組んでいます。

 感染が発生した国や国際的な技術協力者やネットワークとともに、WHOは、以下のようなMERSに対する世界的な公衆衛生対策の対応にあたっています。

発症状況に対する最新情報の提供
リスク評価や各国当局との共同調査の実施
科学会議の招集
暫定的サーベイランスの推奨、患者の生化学検査、感染の予防と制御の対策、および患者管理に関する保健当局や保健行政の技術機関のためのガイダンスと指導書の作成

 WHOの局長は、国際保健規則(2005)の下で、この事象が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当することの是非および行動すべき公衆衛生対策に関して、局長に助言を行う緊急委員会を招集しました。この委員会は、この疾患が最初に同定されてから何度も会議を開いてきました。WHOは、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスを強化し、異常なパターンのSARIや肺炎症例を注意深く検討する事を、すべての加盟国に奨励しています。

 MERS症例が報告されているかどうかに関係なく、各国は、特に中東からの多くの旅行者や出稼ぎ労働者に対して、厳重な警戒体制を維持する必要があります。サーベイランスは、WHOのガイドラインにしたがい医療施設における感染の予防と制御の対策に沿って、各国が引き続き強化していくべきです。

 WHOは、最も効果的な国際的対策と対応の情報を提供するために、ウイルスとの接触機会、検査、臨床経過の情報を含め、すべてのMERS-CoV感染の確定症例と疑い症例に関して、WHOに報告することを加盟国に引き続き求めています。 

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)
Fact sheet N°401 Updated May 2015
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/mers-cov/en/