2016年のニュース

シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)について (ファクトシート)

2016年3月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

世界中で、推定で約600万人から700万人がシャーガス病(Trypanosoma cruzi)に感染しており、その大部分はラテンアメリカで発生しています。
アメリカ大陸で媒介昆虫によって伝搬され発生しています。媒介昆虫は、Trypanosoma cruziという寄生虫を運ぶサシガメ(triatomine bug)です。
シャーガス病は、かつて、アメリカ大陸に限局し、主にラテンアメリカで発生していました。しかし、現在では他の大陸にも広がっています。
Trypanosoma cruziへの感染は、早期に治療が開始されれば、治癒します。
慢性期でも、駆虫治療が疾患の悪化や進行を防ぐことができます。
慢性感染者のうち、30%で心疾患が進行し、10%で消化器疾患、神経疾患、複数の疾患などが進行します。(このときには、)特異的な治療が必要になります。
ラテンアメリカのシャーガス病を予防するために最も有効な方法は、媒介昆虫の防御と駆除です。
輸血や臓器移植による感染を防ぐために、血液のスクリーニングが必須です。
妊娠女性や新生児、並びにその兄弟の感染に対する診断は重要です。

概観

 世界中で約600万~700万人がシャーガス病を引き起こす寄生虫Trypanosoma cruziに感染しているとみられています。シャーガス病は主にラテンアメリカの21か国でみられます。(英語では、"kissing bugs"という名前で知られ、地域によってはたくさんの他の名前で呼ばれています)。主に媒介昆虫であるサシガメの糞や尿に人が触れることによって感染伝播します。

 シャーガス病の治療費は相当な額になります。コロンビアだけでも、2008年にシャーガス病の患者全員に必要な医療費は推定で約2億6,700万米ドルでした。また、媒介昆虫の制御と駆除に必要な殺虫剤の散布には年間で約500万米ドルかかっています。

 シャーガス病という病名は、1909年にこの疾患を初めて発見した、医師であり研究者でもあるブラジルのリベイロ・ジュスティニアーノ・シャーガス(Carlos Ribeiro Justiniano Chagas)に由来して命名されています。

分布

 シャーガス病は、主にカリブ海諸島を除くラテンアメリカ大陸地域で発生しています。しかし、この数十年間は、アメリカ合衆国、カナダ、ヨーロッパの多くの国々や、西太平洋のいくつかの国でも患者の発見が増えています。これは、主に、ラテンアメリカと他の地域で人々が往来したことによります。

所見と症状

 シャーガス病の病期には2つの期間があります。第1期は急性期で、感染後から約2か月間、症状が続きます。急性期には、多くの原虫が血中を循環していますが、ほとんどの患者は無症状か軽度です。最初の可視的所見としては、皮膚病変または紫色の一側性眼窩周囲浮腫がサシガメに刺された50%未満の人でみられるだけです。また、発熱、頭痛、リンパ節の腫脹、蒼白、筋肉痛、呼吸困難、浮腫、腹痛、胸痛がみられることがあります。

 慢性期には、原虫は主に心臓や消化器系の筋肉内に潜んでいます。患者の30%は心疾患、10%は消化器疾患(通常は食道又は結腸の肥大)、神経疾患、複数の疾患を患います。数年後には、心筋や神経系で組織破壊が進行し、突然死や心不全を起こします。

感染経路

 ラテンアメリカでは、T. cruziは、主に吸血性のサシガメの糞尿によって伝播されます。これらの原虫を運ぶサシガメは、一般的に、農村や郊外の粗末な作りの家の壁や屋根のひび割れなどに生息しています。サシガメは、通常、日中は隠れており、人の血液を餌として夜に活動します。サシガメは、通常、顔のような皮膚が露出した部位を咬み、咬んだ部位の近くに糞尿を排泄します。人が無意識にサシガメの糞尿に触れた後、刺し口、目、口、傷口を触ることで原虫が体内に入ります。

 T. cruziは、次のようなことでも伝播します。

 ・T. cruziを含む汚染された食品、例えば、サシガメの糞尿に汚染された食品等の摂取
 ・感染した人からの血液の輸血
 ・妊娠中や出産時の母親から新生児へ感染(母子感染)
 ・感染した提供者からの臓器を使った臓器移植
 ・検査室での事故

治療

 シャーガス病は、ベンズニダゾールやニフルチモックスによって原虫を駆除することで治療できます。どちらの薬剤も、先天性の感染を含めて急性期症状の出現後、直ぐに投与されれば、この疾患をほぼ100%治癒させる効果があります。しかし、どちらの薬剤も感染経過の長い患者では効果が減弱します。

 この治療は、感染症の再発(免疫不全等による)と慢性期初期の患者に対しても行われます。感染した成人、特に症状のない成人感染者には、駆虫薬治療は疾患の悪化や進行を防ぐために実地する必要があります。シャーガス病の悪化を防ぎ進行を遅らせるために行う薬剤の潜在的効果は、対象となる人々の中で(2か月までの)長い治療期間と起こりうる副作用(治療を受けた患者の40%に起こる)とを比較して検討されることになります。

 ベンズニダゾールやニフルチモックスは、妊娠女性、腎不全、肝不全の患者には投与すべきではありません。ニフルチモックスは、神経疾患や精神疾患の既往がある人にも禁忌です。さらに、心疾患や消化器の症状出現に対しては、臓器特異的な治療が必要になることもあります。

制御と予防

 シャーガス病に対するワクチンはありません。ラテンアメリカにおける媒介昆虫の制御と駆除が最も有効な方法です。血液のスクリーニング検査は、輸血や臓器移植による感染を防ぐために必須です。

 元来(9000年以上前)、T. cruziは野生動物のみに感染していました。その後、家畜に、そして人に広がりました。アメリカ大陸の野生動物がT. cruziの大きな保有宿主であるということは、この原虫は根絶できないことを意味します。その代わりとなる感染制御の目標は、感染した人や発症した人々から感染経路を遮断し、早期に医療施設の利用を確保することになります。

 T. cruziは数種類のサシガメに感染しますが、その多くはアメリカ大陸で発見されています。地域にもよりますが、WHOは、感染予防と制御の方法として、次のような対策を推奨しています。

 ・家屋やその周辺での殺虫剤の散布
 ・媒介昆虫の生息場所を防止するための家屋の改修
 ・蚊帳などの個人的な感染防御
 ・食品の準備、輸送、貯蔵、摂取時の衛生対策の励行
 ・献血者のスクリーニング検査
 ・臓器、組織、細胞の移植の際の提供者と移植者の検査
 ・感染した母親から生まれた新生児と母親の子どもの早期診断及び治療のためのスクリーニング検査

WHOの取り組み

 1990年代以降、汎米保健機関(PAHO)の事務局と連携しながら、南回帰線以南の地域、中央アメリカ、アンデス共同体、アマゾン川流域で政府間での取り組みを行い、ラテンアメリカで原虫と媒介昆虫の制御に対し大きな成功を収めました。これらの多国間の取り組みによって、媒介昆虫による感染が大きく減少しました。

 さらに、ラテンアメリカ全体で輸血による感染リスクも大きく減少しました。この進歩は、たくさんの国際的な関係団体の支援とともに、この疾患が常在する加盟国の強い関与、調査・研究の強化、組織の管理によって実現できました。

 同時に、以下の更なる課題に直面しています。

 ・疾患の制御対策の維持と進歩への地盤強化
 ・アマゾン川流域など、以前にはシャーガス病の発生がないと考えられていた地域でのシャーガス病の発生
 ・アルゼンチンとボリビアに跨るチャコ地域など、疾患の制御対策が進んでいる地域での感染症の再発生
 ・主に、ラテンアメリカとその他の地域間の人の往来の増加によって起こる疾患の拡大
 ・感染した何百万人もの人々に対する診断環境と治療環境の向上

 流行国及び非流行国の双方が、シャーガス病の感染予防と感染者およびその後の患者に対する医療支援の確保という目標を達成するために、WHOは、以下のことに焦点を当てて、世界的なネットワークを増やし、地域や国の対応能力を強化しています。

 ・世界での疫学的なサーベイランスと情報収集システムの強化
 ・流行国と非流行国両方における輸血や臓器移植による感染の防止
 ・感染のスクリーニング検査や診断検査の普及
 ・先天性感染からの二次感染での拡大の予防と先天性および後天性感染者の患者管理
 ・適切な患者管理に関する統一見解の推進

出典

WHO. Fact sheet, Media Centre. Updated March 2016
Chagas disease (American trypanosomiasis)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs340/en/