2016年のニュース

トラコーマについて (ファクトシート)

2016年7月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

トラコーマは、細菌(Chlamydia trachomatis)が目に起こす感染症です。
トラコーマは、42か国に常在することが知られ、約190万人の失明や視力障害に関係しています。トラコーマが常在する国には2億人以上が住み、トラコーマによる失明の危険に曝されています。
トラコーマによる失明は元には戻りません。
感染は、人との接触(手や衣服、寝具)から広がるほか、感染した人の眼や鼻から出る分泌物と接触したハエからも広がります。長年に亘り繰り返される感染にともない、睫毛は逆さに伸び、その結果、痛みや不快感を覚え、角膜に永久的な障害をもたらします。
1998年の世界保健総会において採択されたWHA Resolution 51.11決議では、2020年までに公衆衛生上の問題としてトラコーマを世界から根絶することが定められました。
根絶への戦略は、進行性の病態に対する手術(S:Surgery for advanced disease)、クラミジア・トラコーマの感染を除去する抗生物質(A:Antibiotics to clear C. trachomatis infection)、顔の清潔さ(F:Facial cleanliness)、と感染経路を減らすための環境改善(E:Environmental improvement to reduce transmission)の頭文字をとって「SAFE」として収められています。
2015年には、18.5万を超える人が進行する病態のために外科手術を受け、5,600万人がトラコーマに対する抗生物質での治療を受けました。

トラコーマ

 トラコーマは、世界中で感染症による失明の主要な原因となっています。トラコーマは、クラミジア・トラコマティスという偏性細胞内寄生微生物によって起こります。この疾患は、感染した人、特に保菌者となる若年者の眼や鼻から出る分泌物から感染します。また、感染した人の眼や鼻から出る分泌物に触れたハエからも広がります。

臨床的特徴と罹患率

 トラコーマが常在する地域では、感染力のあるトラコーマは未就学児でよくみられ、有病率は60%から90%に達する地域もあります。年齢が上がるにつれて、感染頻度は低くなり、感染期間も短くなります。通常、感染は感染力のある人の近くで生活することによって成立し、家族内ではよく感染します。生体の免疫反応は、一回の感染エピソードを終息させることができますが、感染が常在する国では、頻繁に組織(眼)への再感染が起こります。

 感染を繰り返しながら数年経過すると、眼瞼の内側に重度の瘢痕が形成され(結膜の瘢痕化)、内側に曲がり、眼瞼の境界の瘢痕組織によって睫毛で眼球が擦られます(トラコーマ睫毛乱生症;逆さまつげ)。これによって、絶えず痛みが生じ、光に耐え難くなります。この他にも角膜の瘢痕化を起こします。無治療のまま放置すれば、この状態は眼に不可逆的な変化をもたらし、視覚障害や失明に至らしめます。この状態に至るまでの年齢は、地域の流行の程度などのいくつもの要因に依存します。通常は30歳から40歳までに失明に至りますが、流行度が極めて高い地域では、子どもでも起こることがあります。

 視覚障害や失明は、感染者本人にもその家族にも、生活状態の悪化を引き起こします。既に、貧困の中の最貧困層でそれが常態化しています。女性は、男性よりも4倍の頻度で失明しています。おそらくは、感染した子供と濃厚に接触することが多く、感染症既往の頻度が多くなるからです。

 この疾患の伝播に影響する環境上のリスクファクターは以下の通りです。

・不十分な衛生状態
・過密な状態で生活する家族
・水の不足
・トイレや衛生施設の不備

分布

 トラコーマは、アフリカ、アジア、中南米、オーストラリア、中東の42か国の最貧困層や農村部に高く常在しています。

 トラコーマは、約190万人の視覚障害や失明の原因となっています。これは、世界の失明者の1.4%に当たります。

 全体として、アフリカが依然として最も感染者の多い大陸ですが、最も強力に感染制御に向けた取り組み行われている地域でもあります。2015年、トラコーマが公衆衛生上の問題と認識されているWHOのアフリカ地域事務局管内29か国で、睫毛乱生症を有する約17.6万人(世界の手術適応者の95%)が手術を受け、5,400万人(世界の投与適応者の97%)が抗菌薬による治療を受けました。

 2016年3月までに、7か国で根絶の目標を達成したことが報告されました。これは、トラコーマを根絶するためのキャンペーンの大きな試金石となることを意味します。根絶を達成した国は、中国、ガンビア、ガーナ、イラン、モロッコ、ミャンマー、オマーンです。2012年11月に、オマーンはWHOからトラコーマが根絶されたと認められました。

経済的な影響

 感染した個人および地域におけるトラコーマの疾病による負担は莫大です。失明や視力障害によって失われる生産性に関する経済的な損失は、1年間で29億米ドルから53億米ドルと見積もられており、睫毛乱生症を含めると80億米ドルに増加するとみられています。

予防と制御

 (感染の)常在国での根絶計画は、WHOが推奨するSAFEの戦略に基づいて実施されています。この戦略には、以下の内容が含まれています。

・失明に進展する段階の病態(トラコーマ睫毛乱生症)に対する手術
・感染除去のための抗生物質、特に、国際トラコーマ・イニシアティブを通じて、根絶計画のために製造会社から寄贈された抗生物質アジスロマイシンの集団投与
・顔の清潔保持
・飲料水と下水の利便性の改善などの環境の改善

 (感染の)常在国のほとんどは、2020年までに各々の国で根絶の目標を達成するために、全ての国がこの計画の実施を加速することに合意しています。

 2015年に加盟国からWHOに報告されたデータによれば、トラコーマ睫毛乱生症を有する18.5万を超える人が、この年に矯正手術を受け、常在国の5,600万人がトラコーマを根絶するための抗生物質による治療を受けました。

 世界保健総会(World Health Assembly)では、2020年までに公衆衛生上の問題としてトラコーマを根絶することが採択されており、決議(WHA 51.11)で設定された目標を満たし続けるためには、根絶に向けた取り組みを続けることが必要です。特に、飲料水、下水道、社会経済の発展などの関連する部門と十分に連動させることが重要です。

WHOの取り組み

 WHOは1993年(原文どおり記載)にSAFE戦略を採択しました。この戦略は、公衆衛生学上の問題として、トラコーマを根絶することを目的として、技術的な指導を行い、国際的な取り組みへの調整を諮るためのものです。

 1996年には、WHOは2020年までにトラコーマを世界から根絶するための同盟(GET2020)を立ち上げました。GET2020は、各加盟国のSAFE戦略の実施を支援し、疫学調査、発生状況の管理、現地調査活動、計画実行の評価、人的・物的資源の導入などを通して、国の対応能力の強化を支援するための共同援助組織です。

 2012年から2015年までに、WHOは世界のトラコーマの分布図を作成する計画を支援しました。この分布図は、29か国の感染の常在が疑われる1,546地域を基とする調査データが提供され、これらの地域で必要とされる対策のための介入の立ち上げを促進しています。2016年7月に、WHO、国際トラコーマ・イニシアティブ、RTIインターナショナル、およびSightsaversは、それぞれの国の顧みられない熱帯病に対するプログラムを支援するために、WHOが主導する疫学調査支援サービスである熱帯データ(Tropical Data)を立ち上げました。

出典

WHO. Fact Sheet, Media centre. Updated July 2016
Trachoma
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs382/en/index.html