デング熱と重症型デング熱について (ファクトシート)(更新2)

2016年7月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症です。
  • 感染によりインフルエンザ様の症状が現れます。また、時には、重症型デング熱と呼ばれ、死に至る可能性のある合併症を起こすことがあります。
  • 世界におけるデング熱の発生率は、ここ数十年で劇的に増加しています。現在、全世界の人口の約半数が危険な状態にあります。
  • デング熱は、世界中の熱帯及び亜熱帯地域でみられます。そして、そのほとんどが都市部、準都市部でみられます。
  • 重症型デング熱は、アジアやラテンアメリカの数か国では、子どもの間で深刻な疾患や死亡の主な原因となっています。
  • デング熱や重症型デング熱に特異的な治療法はありませんが、早期発見と適切な医療機関を受診することにより、死亡率を1%未満に低下させることができます。
  • デング熱の予防と感染制御は、もっぱら、効果的なベクターコントロールに依存しています。
  • デング熱ワクチンが流行地域の9-45歳に向けて数か国で承認登録されました。

概要

デング熱は蚊によって伝播される感染症で、近年、WHOが事務所を置く全ての地域で急速に拡大しています。デング熱ウイルスは、主には雌のネッタイシマカによって伝播されますが、それよりは程度は少ないもののヒトスジシマカによっても伝播されます。この種の蚊は、チクングニア熱、黄熱、ジカウイルス感染症も伝播します。デング熱は、地域での降雨量、温度によって影響されるリスクの変動と、無計画な都市化とにともない、熱帯地域に広く拡がっています。

(デング出血熱として知られている)重症型デング熱は、1950年代にフィリピンとタイでデング熱が流行した際に、初めて認識されました。現在、重症型デング熱は、アジアやラテンアメリカのほとんどの国で発生しており、これらの地域の子どもたちの入院や死亡の大きな原因となっています。

デング熱を起こすウイルスには、4種類の血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)があり、それぞれに型は異なりますが関連しています。ある血清型のウイルスに感染してから回復すると、その血清型への免疫が得られ、生涯に亘り続きます。しかし、回復後、他の血清型への交差免疫は部分的かつ一時的です。その後に、他の血清型ウイルスに感染すると、重症型デング熱に発展するリスクが増加します。

デング熱の世界的な脅威

デング熱の罹患率は、ここ数十年間に世界中で劇的に増加しています。実際のデング熱の患者数は、たくさんの患者が誤って分類され、少なく報告されています。現在、年間のデング熱感染者は3億9000万人(信頼水準95%[2億8400万人-5億2800万人])で、そのうち9600万人(6700万人-1億3600万人)が臨床症状(全ての重症度を含む)を発現していると推定されます。別の研究では、デング熱の流行により128か国で39億人がデング熱ウイルスに感染する危険にさらされていると推定されています。

WHOの3地域における加盟国は、定期的に毎年感染者数を報告しています。2010年には2200万人であった報告患者数が、2015年には3200万人に増加しました。この疾患の世界全体での脅威は定かではありませんが、すべてのデング熱患者を記録する活動の開始は、近年、報告される患者数の急激な増加を部分的に説明しています。

この疾患の他の特徴は、多くの国で複数の型のデング熱ウイルスが大流行し、人々の健康と世界および各国の経済状況に由々しき影響を与えるなどの疫学パターンにあります。

1970年以前は、重症型デング熱の流行はわずか9か国のみでした。現在、この疾患は、アフリカ、アメリカ大陸、東地中海、東南アジア、西太平洋などWHOの地域事務局にある100か国以上で流行しています。アメリカ、東南アジア、西太平洋の地域では、最も深刻な影響が出ています。

感染者数は、アメリカ大陸、東南アジア、西太平洋で2008年に120万人、2015年に320万人以上を超えました(加盟国からの提出された公式データに基づく)。現在も報告された感染者数は増え続けています。2015年には、アメリカ大陸だけで、235万人のデング熱患者が報告されました。そのうち10,200人は、重症型デング熱と診断され1,181人が亡くなりました。

デング熱は、新しい地域に拡大するにつれて、患者数が増加するだけではなく、爆発的な流行が起きています。現在、ヨーロッパでもデング熱が流行する可能性があり、2010年にはフランスとクロアチアで初めてデング熱の国内伝播が報告されました。また。ヨーロッパではその他3か国で輸入例が確認されました。2012年にはポルトガルのマデイラ島でデング熱が流行し、2,000人を超える患者が報告され、ポルトガル本土とヨーロッパの10か国で輸入例が確認されました。低・中所得国からの帰国者の中で、デング熱はマラリアの次に多い発熱の原因です。

2013年には、フロリダ州(アメリカ合衆国)、中国の雲南省で患者が発生しました。また、南米の数か国、特に、コスタリカ、ホンジュラス、メキシコで、デング熱の患者が発生し続けています。アジアでは、シンガポールで数年間消失した後に、患者数が増加しました。流行は、ラオスでも報告されています。2014年には、南太平洋で10年以上発生がなかったデングウイルス3型(DEN3)が発生しており、中国、クック諸島、フィジー、マレーシア、バヌアツで患者数が増加しています。デング熱は、消失してから70年以上経過した日本でも報告されました。

2015年には、フィリピンでは16万9000人、マレーシアでは11万1000人の感染者が発生し、それぞれ前年の59.5%と16%の増加という世界的な大流行を印象付けました。

2015年には、ブラジルだけで2014年の感染者の約3倍の150万人の感染者が報告されました。同じく2015年に、インドのデリーでは2006年以来の最悪となる1万5000人の感染者が報告されました。

アメリカ合衆国のハワイ州のハワイ諸島は、2015年と2016年に感染が続き181人の感染の流行が報告されました。フィジー、トンガ、フランス領ポリネシアなどの太平洋諸国では、報告が続きました。

入院が必要な重症型デング熱患者は、毎年50万人発生していると推定されており、その大部分が子どもです。重症型デング熱患者の約2.5%が死亡しています。

感染経路

Aedes aegypti(ネッタイシマカ)がデング熱の主な媒介昆虫になります。ウイルスは感染した雌蚊の刺咬によって人に感染します。4日から10日のウイルス増殖期間の後、感染した蚊はその生涯にわたってウイルスを伝播させることができます。

症状のある人もない人も、ウイルスの主たるキャリアとなり、ウイルス増殖宿主であり、未感染の蚊への感染源となります。デングウイルスに感染した人は、発症後、(4日~5日、最長12日)蚊を介してデングウイルスを伝播できるようになります。

ネッタイシマカは都市部に生息し、多くが人工物の容器で繁殖します。他の蚊とは異なり、ネッタイシマカは日中に吸血します。刺咬する時間帯のピークは早朝と夕暮れ前です。雌のネッタイシマカは産卵期毎に複数の人を刺咬します。

Aedes albopictus(ヒトスジシマカ)は、アジアでは2番目に主要なデング熱のベクターですが、古タイヤ(繁殖環境)やその他の製品(萬年竹など)の国際貿易に伴って、広く北米や25か国以上のヨーロッパの国々へ拡がっています。ヒトスジシマカは適応性に優れており、そのため、ヨーロッパの冷涼な地域でも生存できます。ヒトスジシマカの拡大は、零度以下の温度に対する耐性、冬眠、微生息場所で生息する能力などによるものです。

特徴

デング熱は、重症のインフルエンザ様の疾患で、乳児、幼児、成人ともに罹りますが、死亡することは滅多にありません。

デング熱は、高熱(40℃/104°F)を伴い、激しい頭痛、眼の奥の痛み、筋痛と関節痛、悪心、嘔吐、リンパ節の腫脹、発疹のうち2つ以上の症状がある場合には疑う必要があります。症状は、ウイルス感染した蚊に刺された後4~10日の潜伏期を経て現われ、通常2~7日間持続します。

重症型デング熱は、血漿漏出、体液貯留、呼吸促迫、重度の出血、臓器不全などの死に至る可能性のある合併症です。危険な兆候は、初発症状が出現してから3~7日後に起こり、同時に体温低下(38℃/100°F以下)のほか、激しい腹痛、連続する嘔吐、呼吸促迫、歯肉出血、倦怠感、不穏、吐血といった症状がみられます。危篤状態後の24~48時間で死亡することがあり、合併症や死亡リスクを避けるために適切な医学的治療が必要です。

治療

デング熱には特異的な治療法はありません。

重症型デング熱は、疾患の影響や進行に関して経験のある医師と看護師とが治療に当たることで救命の可能性を高め、20%以上ある致死率を1%未満に減らすことができます。重症型デング熱の治療では、患者の体液量の管理が非常に重要です。

予防接種

2015年末から2016年初めに、サノフィパスツールによって最初のデング熱ワクチンDengvaxia(CYD-TDV)が、流行地域の9-45歳に向けて数か国で承認登録されました。

WHOは、疫学データで疾病の強い脅威が示されている地理的な環境(国や地域)では、各国がデング熱ワクチンCYD-TDVの導入を検討すべきと促しています。

その他にも、4価弱毒化ワクチンが第III相臨床試験を実施中で、また、他のワクチン(サブユニット、DNAおよび精製された不活性化ウイルスのプラットフォームに基づくワクチン)が臨床開発の初期段階にあります。WHOは、ワクチンの研究と評価を支援する各国や民間の支援組織に技術的なアドバイスやガイダンスを行っています。

予防と制御

現在、デングウイルス伝播の制御と予防の唯一の方法は、媒介蚊の除去に努めることです。以下のような方法があります。

  • 環境の管理と改善により、産卵環境から蚊を閉め出す。
  • 固形廃棄物を適切に廃棄し、人工的にできる生育場所を取り除く。
  • 週毎に家庭での貯水容器を遮蔽し、空にし、清掃する。
  • 屋外の貯水容器に適切な殺虫剤を用いる。
  • 網戸、長袖の衣服、殺虫剤で処理した物、蚊取り線香、噴霧器など、家庭での防護対策を実施する。
  • ベクターコントロールを継続するために、地域社会の参加と動員を向上させる。
  • 流行時期には、緊急ベクターコントロールの一方法として、殺虫剤の空中散布を行う。
  • 制御介入の効果を評価するために、積極的なベクター監視とベクターサーベイランスを行う。

WHOの取り組み

WHOは、以下のような方法でデング熱に対応しています。

  • 検査施設の共同研究ネットワークを通して、各国の流行状況の確認を支援する。
  • デング熱の流行に効果的に対応するために、技術的支援やガイダンスを提供する。
  • 報告システムの改善や、疾病負荷を正確に把握するために各国を支援する。
  • 地域事務局単位では、数か所の共同センターで、臨床管理、診断、ベクターコントロールについての訓練を提供する。
  • 根拠に基づいた戦略や政策を構築する。
  • 殺虫剤や技術の応用などを含めた新しいツールを開発する
  • 100か国以上の加盟国からデング熱と重症型デング熱の公式記録を収集する。
  • 加盟国のために、デング熱の患者管理、予防と制御に関するガイドラインやハンドブックを発行する。

出典

WHO:Dengue and severe dengueFactsheet N°117Update July2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/index.html