狂犬病について(ファクトシート)

2017年9月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • 狂犬病は150以上の国や地域で発生する、ワクチンで予防可能なウイルス性疾患です。
  • 犬が人の狂犬病の死亡の主な原因で、人間に対する狂犬病の伝播の99%を占めています。
  • 狂犬病の撲滅は、犬の予防接種と犬からの咬傷の予防により可能です。
  • 感染症は、アジアやアフリカを中心に、毎年、数万人の死亡を引きおこします。
  • 狂犬病が疑われる動物に咬まれた人の40%は、15歳未満の子どもです。
  • 狂犬病が疑われる動物と接触した後、直ぐに傷口を石けんと水で洗い流すことが重要で、命を救うことができます。
  • 国際獣疫事務局(OIE)、国連食糧農業機構(FAO)と狂犬病制御世界同盟(Global Alliance for Rabies Control)は、「2030年までに狂犬病による人の死亡者ゼロ」を達成するための共通の戦略を提供するために世界の「狂犬病に対する連合」合同組織を設立しました。

概要

狂犬病は、症状の発症後には、ほとんど常に死に至るウイルス感染症です。症例の99%では、飼い犬が狂犬病ウイルスを人に感染伝播させています。さらに、狂犬病はペットと野生動物の両方に影響を与えます。通常は唾液により、咬傷または傷口から人に広がります。

狂犬病は、南極を除くすべての大陸に存在し、アジアとアフリカ地域では95%以上の人が死亡しています。

狂犬病は、主に地方の農村に住む貧しく脆弱な人々に影響を与えている、顧みられない熱帯病の一つです。狂犬病には、人に有効なワクチンや免疫グロブリンが存在しますが、それらは容易に利用できず、必要な人が利用できません。世界中で、狂犬病での死亡は稀ですが、5歳から14歳の子どもがたびたび犠牲者として報告されています。狂犬病の暴露後予防接種(PEP)の平均的な治療費は、アフリカで40USドル、アジアで49USドルとなるため、1人あたりの1日平均収入が1-2USドル前後の家族が罹ると壊滅的な財政負担となる可能性があります。

毎年、世界中で1,500万人以上の人が暴露後接種を受けています。これは、毎年十数万人もの人々を狂犬病による死亡から防ぐと推定されます。

予防

犬の狂犬病の撲滅
狂犬病は、ワクチンで予防可能な疾患です。犬の予防接種は、人への狂犬病の予防に対する費用対効果が最もあります。犬の予防接種は、狂犬病に起因する死亡と犬の咬傷患者の治療の一環として、暴露後予防接種(PEP)の必要性を減らします。

狂犬病に対する認識と犬の咬みつき予防
大人と子ども両方に対して犬の行動様式と咬みつき予防の教育は、狂犬病予防接種プログラムの不可欠な延長線上にあり、人の狂犬病の発生と犬の咬傷による治療費の財政負担の両方を減らすことができます。地域社会における狂犬病の予防と管理への意識の高まりは、責任を持ったペットの飼い主に対する教育と知識、犬の咬傷からの予防法、咬傷後の速やかな治療方法があります。地域レベルでのプログラムへの関与と所有は、主要なメッセージの達成機会や取り込みを増やします。

人に対する予防接種
人の狂犬病のワクチンは、暴露前の予防接種のためにあります。このワクチン接種は、感染力のある狂犬病ウイルスや狂犬病関連ウイルス(リッサウイルス属)を扱う研究施設で働く人、動物を疾患管理する職員や野生動物レンジャーのような人々で、専門的または個人的に、感染している可能性のあるコウモリ、肉食動物、その他の哺乳動物などに直接触れる機会のある人々など、特にリスクの高い職業の人々に推奨されています。

暴露前予防接種は、洞窟や山登りなどの屋外活動に多くの時間を費やす計画のある旅行者で、狂犬病の発生している、離れた地方への旅行者に推奨されます。狂犬病の暴露リスクが高い地域に駐在する人および長期旅行者は、狂犬病の治療薬の利用への地域環境が限られている場合、予防接種を受けておくべきです。最後に、遠隔地、高リスクの地域に住んでいる又は訪れている子どもたちの予防接種も考慮する必要があります。子どもたちは、動物たちとよく遊ぶので、より重度の咬傷を受けたり、または咬傷を報告しなかったりの可能性があります。

症状

狂犬病の潜伏期間は、一般的には1か月から3か月ですが、狂犬病ウイルスの侵入経路とウイルス量により1週間から1年までの可能性があります。狂犬病の初期症状には、痛みを伴う発熱と創傷部位の異常または原因不明の刺痛、穿刺痛、または灼熱感(感覚異常)が含まれます。ウイルスが中枢神経に広がるにつれて、脳および中枢神経には進行性で致命的な炎症がおこります。

疾患には2つの形態があります。

  1. 1.狂躁型の狂犬病患者は、活動亢進、興奮状態、恐水症(水への恐怖)、時に恐風症(隙間風への恐怖、新鮮な空気への恐怖)の症状が現れます。心肺停止のために数日後に死亡します。
  2. 2.麻痺型の狂犬病は、人の症例の約30%を占めます。この型の狂犬病は、恐躁型の狂犬病よりも劇的ではなく、たいてい長い経過をたどります。筋肉は徐々に麻痺し、咬傷や傷の部位から始まります。昏睡状態がゆっくりと進行し、最終的に死に至ります。麻痺型の狂犬病は、しばしば誤診され、症例の過小報告につながっています。

診断

現在の診断方法は、臨床的な疾患の発症前に狂犬病の感染を検出することに適しておらず、狂犬病の特異的な症状が現れなければ、臨床診断は困難です。人の狂犬病は、生検や死亡解剖で、ウイルスの全体像、ウイルス抗原、または感染組織(脳、皮膚、尿または唾液)中の核酸の検出など様々なウイルス診断技術により、確定することができます。

感染経路

人は通常、狂犬病を持っている動物からの深い咬傷や掻傷で感染し、狂犬病の犬からの人へ感染が99%を占めています。狂犬病の脅威は、アフリカとアジアが最も多く、世界の狂犬病死亡者の95%を占めています。

アメリカ大陸の地域では、犬による狂犬病の伝播はほとんど阻止されているため、現在は、コウモリが人の狂犬病の死亡の主な原因となっています。コウモリによる狂犬病は、最近オーストラリアや西ヨーロッパでも公衆衛生上の脅威となっています。キツネ、アライグマ、スカンク、ジャッカル、マングースなどその他の野生肉食動物から人に感染し死亡することはとても稀です。げっ歯類からの咬傷により狂犬病に感染したことは知られていません。

感染伝播は、感染性物質(通常は唾液)が人の粘膜や新鮮な傷口に直接接触することでも起こることがあります。人が人を咬むことによるヒト-ヒト感染も起こりえますが、これまでに人で確認されたことはありません。

ウイルスを含むエアゾールの吸入や感染した臓器の移植により狂犬病にかかることは稀です。生肉や動物由来の組織を摂取して狂犬病にかかることは、これまでに人の感染源として確認されたことはありません。

暴露後予防接種(PEP)

暴露後予防接種(PEP)は、狂犬病に暴露された後、直ちに咬傷の被害者が受ける治療です。これによりウイルスが中枢神経系に侵入し、死に至るのを防ぎます。

  • 暴露後できるだけ早い広範囲の創部の洗浄と局所治療
  • WHOの基準を満たす強力かつ有効な狂犬病ワクチンを決められたコースで受けること
  • 必要とするならば、狂犬病免疫グロブリンの投与

狂犬病の暴露後、直ぐの有効的な治療で症状の発症と死亡を予防できます。

広範囲の創部の洗浄
これは咬傷時に必要とされる応急処置で、石けんと水、洗剤、ポピドンヨード、又は狂犬病ウイルスを殺す他の物質で、最低15分間の創部の洗い流しと創部の洗浄を直ちに十分に行います。

推奨される暴露後予防接種
狂犬病疑いの動物との接触の重症度によって、下記の暴露後予防接種(PEP)を推奨します。(表参照)

表:接触状況の区分と推奨される暴露後予防接種(PEP)
狂犬病が疑われる動物との接触の区分暴露後予防接種の方法

区分1-動物に触れたり、餌を与えたり、無傷の皮膚を舐める

なし

区分2-肌を軽くかじられた、出血のない引っかき傷や擦り傷ができた

即時のワクチン接種と創部の手当て

区分3-1回また複数回の皮膚を貫く咬傷・擦過傷ができた、傷のある皮膚を舐められた、舐められて粘膜が唾液に汚染された、コウモリとの接触

即時のワクチン接種、狂犬病免疫グロブリンの投与、創部の手当て

区分2と区分3の暴露はすべて、狂犬病を発症するリスクがあると評価され、暴露後予防接種を必要とします。以下の場合はリスクが高くなります。

  • 咬んだ哺乳動物が狂犬病を保有する宿主もしくは媒介する動物種である場合
  • 暴露(咬傷)が、狂犬病がまだ存在する地理的地域で発生した場合
  • 動物が病気の様だったり、異常な行動を示したりした場合
  • 傷や粘膜が動物の唾液で汚染された場合
  • いわれのない攻撃による咬傷の場合
  • 動物が予防接種を受けていない場合

疑わしい動物のワクチンの接種状況は、暴露後の予防接種を始める時の決定要因にするべきではありません。動物の予防接種状況へ疑わしいかについても同様です。犬の予防接種プログラムが十分に規制されていない場合や人的・物的資源の不足または優先度が低い場合には、患者とみなします。

WHOは、犬の狂犬病の撲滅、犬の咬傷予防戦略、皮内投与での狂犬病暴露後の予防接種をより広く普及させることにより投与量を減らし、細胞培養ワクチンの60%~80%費用を削減することを通して、人への狂犬病の予防を推進しています。

一本化した咬傷患者の管理

もし可能であれば、動物病院サービス(の機関)は警告を出し、咬んだ動物を特定し、(健康な犬や猫の場合)観察のために隔離する必要があります。あるいは、動物を安楽死させて、直ぐに施設で検査することになるかもしれません。(暴露後)予防接種は、10日間の観察期間中または、検査結果を待つ間、継続しなければなりません。動物が狂犬病に罹っていないと判明した場合は治療を中止することができます。感染が疑わしい動物を捕獲して検査出来ない場合は、予防のための接種計画を最後まで完了する必要があります。

WHOの取り組み

狂犬病はWHOの顧みられない熱帯病のロードマップにも含まれています。人畜共通感染症として、国、地域、世界レベルで、密接な部門間調整を必要としています。

世界レベルでの活動
狂犬病に対する連合との共同:2030年までに人の死亡者ゼロを達成するための世界的な触媒の公約

WHO、国連食糧農業機構(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)と狂犬病制御世界同盟(GARC)は2015年に「2030年までに狂犬病による人の死亡者ゼロ」を達成するために共通の戦略を採択するために集まり、狂犬病に対する合同組織を結成しました。

これは、狂犬病の対策への投資を優先し、世界レベルでの狂犬病の撲滅への努力を主導するために、初めて、人と動物の保健部門が一堂に会する第一歩を記しています。「30年までに0(ゼロ・バイ・30)」と題した世界戦略計画は、国が1つの健康と部門間の協力の概念を取り入れて狂犬病撲滅計画を策定し実施する際に、各国を手引きし、支援します。

「30年までに0(ゼロ・バイ・30)」は、咬傷患者の暴露後予防へのアクセスを向上させること、咬傷予防に関する教育を提供し、人の暴露リスクを減らすために犬のワクチン接種範囲を拡大すること、に焦点を当てています。

狂犬病の監視と調査活動は全ての狂犬病計画の中心的要素です。届出義務のある疾患と宣言することは、機能的な報告(体制)を確立する上で重大です。これには、地域レベルから国レベルと、国際獣疫事務局(OIE)並びにWHOへのデータ伝達の仕組みが含まれるべきです。このことで、プログラム(計画)の効果に対してフィードバックが提供され、弱い部分を向上させるための行動を可能にします。

犬および人の狂犬病ワクチンの備蓄は、狂犬病撲滅の努力に対して触媒の効果がありました。WHOと関係機関は、WHO/ユニセフ(人のワクチンおよびRIG)およびOIE/WHO(動物ワクチン)メカニズム(体制)を通して、世界の製造能力を把握し、各国の一括購入オプションを検索できるように、人と犬のワクチンと狂犬病の免疫グロブリンの世界的な需要を予測する調査に取り組んでいます。

2016年に、WHO戦略的諮問委員会(SAGE)は、狂犬病ワクチンと免疫グロブリンに関するワーキング・グループを設立しました。ワーキング・グループは、現在、科学的根拠、関連するプログラムの検討事項とそれらの使用に関連する費用を再検証しています。具体的に、皮内ワクチン接種の評価、予防接種スケジュールの短縮、および影響を与える可能性のある新しい生物学的製剤を評価することになります。この作業の結果として提案された勧告は、狂犬病予防接種に関するWHOの立ち位置を革めるために、2017年10月にWHO戦略的諮問委員会(SAGE)によって検討される予定です。

WHOは狂犬病常在国の研究を支援します
WHOの支援を受けて、アフリカとアジアの一部の国では、犬による咬傷と狂犬病の事例、PEP治療およびフォローアップ、ワクチンのニーズとプログラムの提供オプションに関するデータを収集するための前向き研究と後向き研究が行われています。

カンボジア、ケニア、ベトナムでの予備調査の結果は、以下のとおりでした。

  • 15歳以下の子どもは狂犬病の暴露リスクが高く、ほとんどの暴露が犬の咬傷によるものです。
  • 生物製剤の利用可能性とPEPを求める費用の両方が、治療コンプライアンス(受診)の要因になります。
  • 保健(医療)システム・ベースの報告は、地域社会ベースのシステムと比較して、人と犬の狂犬病症例の検出を過小評価しています。

また、狂犬病ワクチンと免疫グロブリン製剤、調達と使用に関するデータへの期待が、インドとベトナム両国の狂犬病・生物製剤の供給業者から寄せられています。

一度(データ収集が)完了すれば、データは狂犬病プログラムへの投資の必要性を裏付ける証拠を提供するものとなり、(データは)2030年までに人の狂犬病の死亡者ゼロの達成への世界および地域の戦略を周知させるために重要です。さらに、データは、狂犬病ワクチンをポート・フォリオに含めるために、ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI Alliance)がそのワクチン投資戦略を周知させるためにも使用されます。決定は2018年後半に予定されています。

各地域と各国の事例
1983年以降、WHOのアメリカ大陸地域の各国は、狂犬病の発生率を人では95%、犬で98%以上減少させています。この成功は、地域的で調整された犬の予防接種キャンペーン、住民の意識向上、狂犬病暴露後の予防接種(PEP)を行える環境の拡大に焦点を当て、効果的な政策と計画の実施を通して達成されました。

WHO東南アジア地域事務局の多くの国が、2020年までの地域での撲滅の目標に沿って、狂犬病撲滅キャンペーンを始めています。バングラデシュは2010年に撲滅プログラムを開始し、犬の咬傷、大規模な犬の予防接種、無料でのワクチン利用の増加により人の狂犬病の死亡者数を2010‐2013年の間に50%減少させました。

WHOが主導しているビル&メリンダ・ゲイツ財団プロジェクトの一環では、フィリピン、南アフリカ、タンザニアでも、大きな進歩がありました。大規模な犬のワクチン接種、PEPへの利用環境の向上、調査活動の増加や国民の意識の向上などを含む介入の組み合わせにより、人の狂犬病を減少させることが可能であることが示されてきました。

狂犬病計画を維持し、隣接地域に拡大するための鍵は、小規模から始め、刺激パッケージを通して地域の狂犬病計画の触媒となり、成功および対費用効果を実証し、政府と感染症が発生する地域の関与を確保することです。

出典

WHO.Media centre.Fact sheet.Updated September2017
Rabies
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs099/en/