エボラ出血熱について (ファクトシート)

2018年1月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • Ebola virus disease(EVD)は、以前からエボラ出血熱としても知られており、人への感染では重症化し、しばしば死に至る疾患です。
  • このウイルスは野生動物から人に伝播し、生活環境下で人から人へも拡大します。
  • エボラ出血熱の致死率は平均して50%前後です。過去の流行では、致死率は25%から90%の間でさまざまです。
  • エボラ出血熱の最初の流行は、アフリカ中央部の熱帯雨林に近い僻村で発生しました。しかし、最近、2014-2016年に発生した西アフリカでの流行は僻村だけでなく主要都市でも発生しました。
  • 地域社会の参加が流行の制御を成功に導くための鍵となります。感染流行の適切な制御は、症例の管理、感染の予防と制御の実践、調査活動と接触者の追跡、処理能力をもった検査体制、安全で尊厳を保った埋葬、社会資源の動員など、一連を組立てて取り行うことにかかっています。
  • 補液による早期の支持療法は、生存率を向上させます。まだ、このウイルスを中和し回復に向かわせることに承認された治療法はありません。しかし、ある種の血液療法、免疫療法、薬物療法が開発途上にあります。

背景

 エボラウイルスは、治療をしなければ、しばしば死に至る急性かつ重篤な病態を引き起こします。エボラ出血熱は、1976年に初めて、現在の南スーダンのNzara(ンザラ)とコンゴ民主共和国のYambuku(ヤンブク)の2か所で同時期に発生しました。後者は、エボラ川の近くの村で発生したため、疾患名が川の名前にちなんで名づけられました。

 2014-2016年に発生した西アフリカの流行は、1976年にエボラウイルスが最初に確認されてから、最大かつ最も深刻なエボラの流行となりました。患者、死亡者ともに、過去の流行を全て合わせた数を上回りました。流行は、ギニアで始まり、国境を越えてシエラレオネとリベリアに拡がりました。

 エボラウイルスが属するフィロウイルス科は、クウェバウイルス(Cuevavirus)属、マールブルグウイルス属(Marburgvirus)、エボラウイルス(Ebolavirus)属の3種の属から成ります。また、エボラウイルス属は、ザイール、ブンディブギョ、スーダン、レストン、タイフォレストの異なる5型が同定されています。ブンディブギョ、ザイール、スーダンの3種は、アフリカでの大流行を起こしてきました。2014-2016年に発生し、西アフリカでの流行を起こしたウイルスはザイール型に属しています。

感染経路

 エボラウイルスの自然宿主はオオコウモリ科のフルーツコウモリと考えられています。エボラウイルスは、熱帯雨林で発症したり、死亡したりした感染動物(チンパンジー、ゴリラ、フルーツコウモリ、サル、森林に生息するレイヨウ、ヤマアラシなど)の血液、分泌液、臓器、その他の体液を介して、人が濃厚に接触することで人間社会に持ち込まれます。

 その後、エボラウイルスは感染した人の血液、分泌液、臓器、体液など、また、これらに汚染された物体の表面や日用品(ベッド、衣類など)に(皮膚の傷や粘膜を通して)直接接触することで人から人へと拡がります。

 医療従事者は、エボラ出血熱の疑いや確定患者を扱う際に、しばしば感染しています。これは、感染予防対策が厳格に実践されずに、患者と濃厚に接触することで起きています。

 埋葬儀式で(参列者が)死者の体に直接触れることも、エボラの伝播に寄与しています。

性行為感染

 性行為感染のリスク、特に、時間の経過とともに精液中で活性があるため、感染力を有するウイルスの存在率について、さらに多くの調査データと研究(成果)が必要とされています。現在の証拠に基づいて、暫定的に、WHOは以下のことを推奨しています。

  • 全てのエボラ出血熱からの回復者および性的パートナーは、安全な性行為を確実に行えるように講習を受けることが必要です。エボラ治療病棟から退院したとき、また、国による精液と体液の検査プログラムに登録されたときには、コンドームが支給されることが必要です。
  • 男性のエボラ回復者は、エボラ治療病棟から退院した時点で精液検査を受けることが必要であり、その後、検査結果が陽性であった者は、最小2週間の間隔を置いて、RT-PCR法検査による2度の精液検査が陰性になるまで、毎月、精液の検査が行われるべきです。
  • エボラ出血熱からの回復者および性的パートナーは、以下の何れか(の対策)を行う必要があります。
    • 性行為の一切を控えること
    • 回復者の精液が2度の検査で陰性となるまでは、一貫して確実にコンドームを使用して安全な性生活を送ること
  • 回復者は、上記のように2度の陰性結果が得られれば、性行為感染のリスクが低下した者として、通常の性生活を再開しても安全です。
  • 男性生存者が精液検査を利用できない例外的な状況では、症状の発症から少なくとも12か月間は安全性の高い性生活を続けなければなりません。この間隔は、追加情報が、生存者の精液におけるエボラウイルスの有病率および感染力に関して、時間の経過とともに利用可能になるにつれて調整され得る。
  • 回復者の精液が2度のエボラウイルスに対する検査で陰性の結果が得られるまでは、回復者はマスタベ-ションの後を含め、精液と直接に接触した後には、石鹸と水で直ぐに徹底的に洗浄することによって、適切に手と身体の清潔を保つことを実践する必要があります。この間、使用されたコンドームは、中の精液との接触を防ぐために、安全に取り扱い、安全に破棄される必要があります。
  • 全てのエボラ出血熱からの回復者およびそのパートナーや家族には、敬意と尊厳そして思いやりをもって接せられるべきです。

エボラ出血熱から回復した人に対する医療支援 -暫定ガイドライン

エボラ出血熱の症状

 潜伏期間(感染から発症するまでの期間)は2日から21日です。症状が発現するまでは、その人は感染力をもちません。初期症状は、突然の発熱とともに襲われる倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛です。これらの症状に続いて、嘔吐、下痢、発疹、腎機能および肝機能の障害が起こり、しばしば内出血と外出血(歯肉出血や血性便)がみられます。検査所見では、白血球減少、血小板減少、肝酵素の上昇がみられます。

エボラ出血熱からの回復者に潜伏するウイルス

 エボラウイルスは、エボラ出血熱からの回復した一部の人の免疫特異部位で存続することが知られています。これらの部位には、睾丸、眼の内部、および中枢神経系などがあります。妊娠中に感染した女性では、胎盤、羊水、胎児でウイルスが存続します。授乳中に感染した女性では、ウイルスは母乳中に存続している可能性があります。

 ウイルスの存続についての研究では、病気からの回復者の何人かの体液では、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法検査において、エボラウイルスが9か月以上にわたって陽性であったことが示されています。

 稀ですが、病気からの回復者の何人かで、特定の部位でウイルスが増殖したために生じた再燃性の症候性疾患が、報告されています。この現象が起こる理由は、まだ完全には解明されていません。

診断

 マラリア、腸チフス、髄膜炎などの感染症とエボラ出血熱との鑑別は困難です。エボラウイルス感染症による症状であることの確認は以下の検査で行います。

  • 抗体捕捉によるELISA法検査
  • 抗原検出試験
  • 血清中和法試験
  • RT-PCR法検査
  • 電子顕微鏡
  • 細胞培養によるウイルス分離

 診断検査の選択には、技術の特殊性、疾患の発生率と罹患率、検査結果の社会的および医学的な意味などを慎重に考える必要があります。確立された評価と国際的な評価を受けた診断検査法の使用を検討することが、強く勧められます。

 現在、WHOが推奨している検査法は、次のとおりです。

  • 定期検査での診断を管理するための自動または半自動核酸検査(NAT)。
  • NATを簡単に使えない僻地の環境では、迅速な抗原検出法検査。これらの検査は、調査活動の一部としてのスクリーニング検査を目的とすることにも推奨されますが、(感染)再燃の検査はNATで確認する必要があります。
  • 診断のために求められる検体の採取法は、次のとおりです。
    • 症状を有する患者からは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)管に全血を採取します。
    • 死亡した個体または採血ができないときには、感染を防止できる搬送媒体に口腔内液検体を採取して保管します。

 患者から採取された検体は、病原体に対する高いリスクがあります。不活化されていない検体を扱う施設での検査は、最大級の生物学的な封じ込めの条件下で実施されなければなりません。すべての生体からの検体は、国内および国際的に輸送される場合に、3重包装の方法で梱包する必要があります。

治療とワクチン

 経口または点滴の補液で行う支持療法や特異的な症状への対症療法は、生存率を向上させます。まだ、エボラ出血熱に対処できると証明された治療法はありません。しかし、血液療法、免疫療法、薬物療法など、ある種の治療法の可能性は、現在、評価の段階にあります。

 ギニアでの大規模な(臨床)試験で、実験段階のエボラワクチンが、致死的なウイルスに対して高い防御を示すことが証明されました。rVSV-ZEBOVと呼ばれるこのワクチンは、2015年に11,841人を対象とした試験で調査が行われました。ワクチンを受けた5,837人で、ワクチン接種後10日以上にわたりエボラ患者は記録されませんでした。一方、ワクチン接種を受けていなかった人はワクチン接種後10日以上経過して23人の患者がでました。

 この臨床試験は、WHO、ギニア保健省、国境なき医師団(MSF)、ノルウェー公衆衛生研究所とともに、他の国際支援組織の協力を得ながら、WHOの主導の下で行われました。リング・ワクチン接種プロトコールが、試験には選択されました。この試験プロトコールでは、患者が発見された直後に(患者の周囲の)いくつかの集団でワクチンが接種され、3週間後にその他の患者の周囲の集団にワクチンが接種されました。

予防と感染制御

 適切な流行の制御は、一連の介入方法、即ち、症例の管理、調査活動と接触者の追跡、適正な検査体制、安全で尊厳を保った埋葬、社会資源の動員などに左右されます。地域社会の関わりが流行を上手く制御するための鍵となります。エボラ感染のリスク要因に注意を払う意識を高め、個々人で対処できる予防対策(ワクチン接種を含む)を行うことが、人での感染伝播を減らす有効な方法となります。感染のリスクを低減するためのメッセージが、いくつかの要点としてまとめられています。

  • 感染したオオコウモリ、サル/類人猿との接触、その生肉の摂取を原因とする、野生動物から人への感染のリスクを減らすこと:動物は、手袋やその他適切な防護服の下で処理することが必要です。動物食品(血液や食肉)は食べる前に徹底して加熱調理することが必要です。
  • エボラ症状のある人、特に、感染者の体液との直接接触または濃厚に接触することでの人から人への感染のリスクを減らすこと:自宅で病人を世話するときには、手袋と適切な個人用の防御具を着用することが必要です。家庭内で病人を世話した後と同様に、患者の見舞いで病院を訪れた後にも必ず手洗いを行うことが必要です。
  • エボラ出血熱への対策に関して、WHO諮問グループによって続けられてきた研究と考察の分析に基づいて、WHOは、性行為感染の可能性を減らすため、精液での2度のエボラウイルス検査が陰性になるまで、男性のエボラ出血熱からの回復者は安全な性生活を実践することを奨励しています。体液への接触を避け、石鹸と水を使って洗浄することが勧められます。WHOは、血液によるエボラウイルス検査で陰性の結果を得た回復期の男女を隔離することは推奨していません。

 詳細については、「エボラ出血熱からの回復者のための臨床対応に関するガイダンス(原文)」を参考にしてください。

The Guidance on clinical care for survivors of Ebola virus disease

  • 流行の抑制策:抑制策には、エボラ感染者と接触した可能性のある人を特定し、21日間の接触者の健康状態の監視すること、さらなる感染拡大を防ぐために病人から健康者を遠ざけることを重視すること、適正な衛生環境と清潔な環境の維持を重視することなどがあります。

医療機関での感染予防

 推定される診断名に関係なく、医療従事者は、患者を世話するとき、常に基本的な予防対策を講じることが必要です。これらには、基本となる手指の衛生、室内の換気、個人用の防御具の使用(飛沫または感染物質などとの接触を防御するため)、安全な注射の実施、さらには安全な埋葬の実施などが含まれます。

 エボラウイルスが疑われた、または確定診断された患者を世話する医療従事者は、患者の血液や体液との接触を防ぎ、衣類やベッド・シーツのような(ウイルスで)汚染された物やその物の表面などとの接触を防ぐために、追加の感染管理対策をとる必要があります。1m以内でエボラ出血熱患者と接するときには、医療従事者は顔面の防御(フェイス・シールド、医療用マスクとゴーグル)、滅菌は必要ないものの清潔な長袖のガウン、手袋(いろいろな処置を行うための滅菌手袋)をつける必要があります。

 検査施設の勤務者にもリスクがあります。エボラ感染の検査のために人や動物から採取された検体は、訓練を受けた職員が取り扱うべきであり、十分に設備が整った検査施設で対処されるべきです。

WHOの取り組み

 WHOは、エボラ出血熱の調査体制を維持し、感染制御の計画を作成してリスク国を支援することで、エボラ出血熱の流行を防ぐことを目指しています。下記の文書は、エボラやマールブルグウイルスの流行を制御するための総合ガイダンスです。

エボラやマールブルグウイルス病の流行:準備、警告、制御、および評価

 流行が発生したとき、WHOは、調査の支援、地域社会への参画、症例の管理、検査設備、接触者の追跡、感染管理、法的支援、安全な埋葬の実施への訓練や支援に取り組みます。

 WHOはエボラ感染予防と制御に関する詳細なアドバイスを作成しました。

エボラに焦点を当てた医療施設における疑いおよび確定したフィロウイルス出血熱の患者をケアするための感染予防と制御のための指針

エボラ出血熱発生の年表

エボラ出血熱発生の年表

出典

WHO.Fact sheet, Media centre. January 2018
Ebola virus disease.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/