2014年07月16日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況について (更新38)

7月14日付けのWHOから公表された情報によりますと、2014年7月3日、5日、6日、8日、10日にサウジアラビア国立IHRフォーカルポイント(NFP)は新たに7人の検査で確定診断された中東呼吸器症候群(MERS-CoV)の症例と、以前報告した症例の死亡を報告しました。

また、2014年7月10日に、アラブ首長国連邦国立IHRフォーカルポイント(NFP)は、新たに2人の検査で確定診断された中東呼吸器症候群(MERS-CoV)の症例を報告しました。新たに報告された症例の詳細は以下のとおりです。

●7月3日にサウジアラビアで報告された症例の詳細は以下のとおりです。
リヤード(Riyadh)州Addawaser市の55歳の女性で、6月25日に発症して7月2日に入院し、現在状態は安定しています。7月3日にMERS-CoV感染が検査で確定診断されました。

基礎疾患があると報告されています。患者の夫はラクダ牧場を所有しており、患者は頻繁にそこを訪れていました。発症するまでの14日以内に生のラクダ製品を摂食していなかったと報告されています。以前にMERS-CoV感染を検査で確定診断された患者と接触していないことが報告されています。6月15日、リヤド市を訪れて1日滞在しました。

患者の接触者調査が継続中です。

●7月5日と6日にサウジアラビアで報告された2症例の詳細は以下のとおりです。
マッカ州ジッダ市在住の52歳の男性。6月24日に発症し、個人診療所を受診しましたが、状態は改善しませんでした。呼吸器の問題と腎不全で7月2日に入院し、現在重篤です。

患者は7月4日にMERS-CoV感染症が検査で確定診断されました。旅行歴はありません。

北部国境州アラー(Arar)市の72歳の男性。7月3日に発症し、入院しました。7月5日にMERS-CoV感染が検査で確定診断されました。患者は7月6日に死亡しました。複数の基礎疾患がありました。最近の旅行歴はなく、以前にMERS-CoV感染を検査で確定診断された患者との接触歴はありませんでした。患者に生のラクダ製品の摂食歴はありません。

●7月8日にサウジアラビアで報告された3症例の詳細は以下のとおりです。
マッカ州ターイフ(Taif)市の70歳の男性で、6月28日に発症して7月4日に入院し、現在集中治療室に入室しています。患者は7月6日にMERS-CoV感染が検査で確定診断されました。基礎疾患があると報告されています。患者は旅行歴や以前にMERS-CoV感染を検査で確定診断された患者との接触はないと報告されています。患者は発症の1週間前にラクダの生ミルクを摂取したと報告されており、飼育しているヤギとの濃厚接触がありました。

リヤード州リヤド市の74歳の男性で、7月4日発症して7月5日に入院し、現在状態は安定しています。7月6日にMERS-CoV感染が検査で確定診断されました。患者は基礎疾患がないと報告されています。発症するまでの14日以内に旅行歴はなく、以前にMERS-CoV感染を検査で確定診断された患者との既知の接触については不明です。動物との接触歴や生のラクダ製品の摂取歴はありません。

リヤード州リヤド市の70歳の男性で、7月1日に発症して7月5日に入院し、現在状態は安定しています。7月6日にMERS-CoV感染が検査で確定診断されました。患者は基礎疾患があると報告されています。発症までの14日以内に旅行歴はなく、以前にMERS-CoV感染を検査で確定診断された患者との既知の接触については不明です。発症までの14日以内に生のラクダ製品の摂取歴や動物との接触歴はありませんでした。

●7月10日にサウジアラビアで報告された3症例の詳細は以下のとおりです。
東部州ハサー(Hassa)市の49歳の男性で、6月28日に発症して7月8日に入院し、現在状態は安定しています。7月9日にMERS-CoV感染を検査で確定診断されました。患者は基礎疾患があると報告されています。旅行歴はなく、以前にMERS-CoV感染を検査で確定診断された患者との接触はありませんでした。患者は農場を所有しており、トリ、ヤギ、ラクダとの直接接触がありました。検査室で検査するために、15人の患者との接触者、農場労働者、ラクダから検体が採取されました。

患者の接触者調査が継続中です。

●7月10日にアラブ首長国連邦で報告された2症例の詳細は以下のとおりです。
アブダビの67歳の男性で、6月17日に発症し、同日に入院しました。2014年7月2日に、患者は重篤となり、アブダビの病院の集中治療室に入室しました。この患者は7月6日にMERS-CoV感染を検査で確定診断されました。患者には基礎疾患があると報告されています。患者は、サウジアラビアの東部州にラクダの農場を所有しています。この患者は発症する3か月前に自分の農場を訪れ、ラクダと直接接触していました。この患者は発症する2週間前に、アブダビにあるラクダ農場を訪問していましたが、そこではラクダとの直接の接触はありませんでした。この患者には、MERS-CoV感染を検査で確定診断された患者との接触はなく、最近の旅行歴もありませんでした。アブダビのラクダ農場の調査および患者の接触者に対する経過観察が現在行われています。

アブダビの50歳男性で、一匹のラクダがMERS-CoV感染にかかっていることが検査で確定された農場での接触者のスクリーニング調査の中で確認されました。6月26日付けの環境水資源省(Ministry of Environment and Water)の報告書によれば、このラクダはMERS-CoV感染を起こしていることが検査で確定診断されていました。患者は7月3日にMERS-CoV感染のスクリーニング検査を受けました。その時点では、この患者には症状はありませんでした。しかし、この患者には7月5日に軽度の咳嗽が生じ、7月6日にMERS-CoV感染が検査で確定診断されました。この患者には、MERS-CoV感染を以前に検査で確定診断された患者との接触歴はありませんでした。この患者の接触者およびラクダ農場の他の接触者の追跡調査が現在行われています。

全体として、これまでに、WHOに公式に報告されたMERS-CoVに感染した確定患者は、少なくとも288人の死亡者を含み836人になりました。

●WHOのアドバイス
現在の状況と利用可能な情報に基づいて、WHOはすべての加盟国へ、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスを継続し、通常と異なる傾向がみられた場合には慎重に検討するよう推奨しています。

感染予防制御対策は、医療施設でのMERS-CoVの拡散の可能性を防止するために必須です。MERSコロナウイルスに感染した患者の中には、軽症の患者や、所見が非典型的である患者がおり、患者を常に早期に発見できるわけではありません。そのため、MERSコロナウイルスや他の病原体に感染した疑いがある患者や確定患者の有無にかかわらず、常に、どの場所でも、すべての患者に対して標準予防策を実施することが重要です。急性呼吸器感染症の症状のある患者に医療を提供する際には、飛沫予防策を追加すべきです。また、MERSコロナウイルスに感染した可能性がある患者や確定患者に医療を提供する際には、眼の防護を加えた接触予防策を追加すべきです。エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気予防策を行う必要があります。

MERS-CoVについてもっと詳細がわかるまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫機能不全のある人々はMERS-CoV感染で重症化するリスクの高いヒトと見なされます。それ故、このような人々がウイルスの存在する可能性がある農場や市場、飼育小屋を訪れる際には動物特にラクダとの密接な接触を避けるべきです。

農場を訪れる際に、動物を触る前と触った後の定期的な手洗いを行う、病気の動物との接触を避ける等の一般的な衛生対策をしっかりと実施すべきです。

食品衛生対策を実施する等の一般的な衛生対策をしっかりと実施すべきです。ラクダの生ミルクや尿、適切に調理されていない肉を摂食するのは避けるべきです。

WHOは、この事例に関して、入国時の特別なスクリーニングおよび渡航や貿易を制限することを推奨していません。

海外渡航時には、手洗いの励行や動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を心がけていただくとともに、MERSコロナウイルスの患者が発生している国に滞在した後に、発熱や咳などの呼吸器症状が現れた場合には、検疫所にご相談ください。

出典

WHO Global Alert and Response,
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)-update,14 July 2014
http://www.who.int/csr/don/2014_07_14_mers/en/

Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)-update(United Arab Emirates),
14 July 2014
http://www.who.int/csr/don/2014_07_14_mers2/en/