2015年04月10日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新17)

2015年4月9日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国際保健規約(IHR)担当者は、2015年3月24日から3月31日までの間に2人の死亡者を含む中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)に感染した新たな患者12人の発生を報告しました。以下、各々の症例を、最も新しい症例から順に、報告のあった日付によって記載します。

症例の詳細情報

  1. 1.65歳男性。サウジアラビア国籍をもたないRiyadh(リヤド)市の住民で、3月28日に発症し、3月30日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会について調査中です。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  2. 2.60歳男性。Jeddah(ジッダ)市の住民で、3月14日に発症し、3月28日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会について調査中です。現在、患者はICUに収容されており重篤な容態です。
  3. 3.63歳男性。非サウジアラビア国籍のジッダ市の医療従事者です。3月26日に発症し、3月29日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。この患者は検査で確定診断されたMERS-CoV患者(下記のNo.10)のケアに携わっていました。患者は、発症までの14日間に、その他の既知のリスクファクターとの接触機会はありませんでした。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  4. 4.80歳男性。Taima(タイマー)市Tabuk(タブーク)州の住民で、3月9日に発症し、3月12日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会について調査中です。患者は3月27日に死亡しました。
  5. 5.39歳男性。Alkhafji(カフジ)市の住民で、3月23日に発症し、3月26日に入院しました。患者に基礎疾患はありませんでした。患者は頻繁にラクダとの接触機会があり、生乳も飲んでいました。発症までの14日間に、その他の既知のリスクファクターとの接触機会はありませんでした。現在、患者はICUに収容されています。
  6. 6.54男性。Hofuf(フフーフ)市の近郊の小村の住民で、3月20日に発症し、3月27日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。患者は頻繁にラクダとの接触機会があり、生乳も飲んでいました。発症までの14日間に、その他の既知のリスクファクターとの接触機会はありませんでした。患者は3月28日に死亡しました。
  7. 7.30歳男性。リヤド市の住民で、3月2日に発症し、3月9日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会について調査中です。現在、患者は3月25日に退院して以降、自宅で隔離されています。
  8. 8.65歳男性。Dholem市の住民で、3月21日に発症し、3月24日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。患者はラクダとヒツジとの接触機会があり、ラクダの生乳を飲んでいました。発症までの14日間に、その他の既知のリスクファクターとの接触機会はありませんでした。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  9. 9.48歳男性。サウジアラビア国籍をもたないリヤド市の住民で、3月21日に発症し、3月23日に入院しました。患者は3月26日付のMERS-CoV感染の検査確定患者(No.12)との接触者です。発症までの14日間に、その他の既知のリスクファクターとの接触機会はありませんでした。現在、患者は安定した状態で、ICUに収容されています。
  10. 10.20歳男性。非サウジ国籍のジッダ市の住民で、3月22日に発症し、3月23日に入院しました。患者は3月26日付のMERS-CoV感染の検査確定患者(No.3)との接触者です。発症までの14日間に、その他の既知のリスクファクターとの接触機会はありませんでした。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  11. 11.42歳男性。非サウジ国籍のMakkah(メッカ)市の住民で、3月18日に発症し、3月23日に入院しました。患者はラクダとの接触機会があり、メッカでラクダの生乳を飲んでいました。加えて、患者は発症までの14日間に、リヤド市に旅行した既往がありました。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  12. 12.55歳女性。Arar(アラー)市の住民で、3月6日に発症し、3月20日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会について調査中です。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。

サウジアラビアの国際保健規約(IHR)担当者はまた、以前に報告されたMERS-CoV患者2人の死亡をWHOに報告しました。患者は3月26日のNo. 2、No. 7です。

これらの症例に対して、家族と医療従事者の接触者追跡が行われています。

世界的には、WHOは、1,102人の検査確定したMERS-CoV感染の患者報告と、少なくとも416人の関連する死亡報告を受けています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、あらゆる異常を示す症例についても注意深く調査することを勧めています。

医療施設でMERS-CoVが拡がる可能性を下げるには、感染予防および管理方法が重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うべきです。また、MERS-CoV感染の可能性がある症例、あるいは確定診断された症例の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣は守るべきものです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、この事象に関連して入国時に特別な検査を行うことを勧めてはいません。また、現在、旅行あるいは貿易を規制することも推奨していません。

出典

WHO.Global Alert and Response(GAR).
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)- Saudi Arabia. 9 April 2015.
http://www.who.int/csr/don/9-april-2015-mers-saudi-arabia/en/