2015年05月26日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新23)

2015年5月24日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、アラブ首長国連邦(UAE)から5月18日に中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染患者1人が、韓国から5月20日に初めて検査確認された患者1人と5月21日に新たに確認された患者2人が、カタールから5月21日に患者1人が、各国の国立国際保健規約(IHR)担当者によって報告されました。また、サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者から5月11日から13日の間に死亡者2人を含む新たな患者12人が報告されました。

症例の詳細情報

アラブ首長国連邦

33歳男性。UAEの国籍をもたないAl Ain(アルアイン)の住民です。彼はオマーンからのラクダ輸入業者で5月18日にMERS-CoVへの感染が報告された患者との接触者です。5月17日に喀痰検査で陽性の反応がでたため、入院となりました。検査時点で、彼に症状はありません。彼に基礎疾患はありません。発症までの14日以内に他に知られているリスクファクターとの接触機会もありません。現在、彼は無症状のまま、安定した状態で病棟の陰圧室にいます。

この患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。UAEの国立国際保健規約(IHR)担当者は、この患者についてオマーンの担当者にも情報を伝達しました。MERS-CoVに感染したラクダとの接触者の調査が、オマーンでも続けられています。

韓国

最初の患者は、68歳の男性で、バーレーンを4月18-29日に、UAEを29-30日に、再びバーレーンを4月30日から5月1日に、サウジアラビアを5月1-2日に、再度バーレーンを5月2日に訪れた後に、カタールを5月2-3日に訪れていました。患者は、5月4日にカタールから韓国仁川国際空港に到着しました。到着したときには、症状はありませんでした。患者は5月11日に発症し、5月12日から15日に外来患者として病院を受診しました。その後、5月15日に入院し17日に退院しています。退院した日の夕方、彼は別の病院の救命救急科を受診しました。5月20日に喀痰検査からMERS-CoVに対する陽性反応が出たことから、隔離の整った国立の施設に搬送されました。患者は感染が判明するまでの14日間に既知のリスク要因との接触機会はありません。感染源の調査が続けられています。

5月21日に、新たに2人の患者が検査によって確認されました。1人は家族内接触者です。もう1人は、最初の患者と病院で同室でした。現在は、3人とも安定した状態です。

これらの患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

カタール

29歳男性。カタールの国籍をもたないドーハの住民です。患者は5月15日に発症し、19日に治療のためにプライマリ・ケア・センターを受診し、そこで症状に対して治療を受け、自宅安静の指示をうけて帰りました。5月20日には、鼻腔と咽頭からのぬぐい液からMERS-CoVの陽性反応がでたために即日入院となりました。彼に基礎疾患はありません。彼は、ラクダの生乳を摂取してはいませんが、頻繁にラクダとの接触機会がありました。発症までの14日以内に他に知られているリスクファクターとの接触機会はありません。現在、患者は安定した状態で病棟の陰圧室にいます。

この患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

サウジアラビア

  1. 1.66歳男性。Qunfuthah(クンフサ)市の住民です。患者は、5月3日から別の病気で入院中、5月12日に発症しました。5月14日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者は頻繁にラクダやヒツジとの接触機会があり、ラクダの生乳も飲んでいました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  2. 2.31歳男性。フフーフ市の住民で、5月4日に発症し、同日入院しました。5月13日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者は喫煙者ではありましたが、基礎疾患はありませんでした。彼はMERS-CoV感染が検査確認された患者2人(5月17日報告 No.4、4月29日報告No. 2)との接触機会がありました。また、頻繁にラクダとの接触機会があり、生乳も飲んでいました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  3. 3.36歳男性。ジッダ市の住民で、5月10日に発症し、同日入院しました。5月11日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者に基礎疾患はありません。彼はMERS-CoV感染が検査確認された患者(5月17日報告 No.3)との接触機会がありました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  4. 4.46歳男性。サウジアラビア国籍を持たない(非サウジ国籍)リヤド市の住民で、4月25日に発症し、5月9日に入院しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者には基礎疾患がありました。患者は頻繁にラクダとの接触機会があり、ラクダの生乳も飲んでいました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  5. 5.71歳男性。リヤド市の住民で、5月3日に発症し、5月6日に入院しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会の調査が続けられています。
  6. 6.33歳男性。非サウジ国籍のリヤド市の住民で、5月1日に発症し、5月7日に入院しました。5月9日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者に基礎疾患はありません。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会の調査が続けられています。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  7. 7.33歳男性。非サウジ国籍のリヤド市の住民で、5月1日に発症し、5月6日に入院しました。5月8日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者に基礎疾患はありません。患者は5月14日に死亡しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会への調査が続けられています。
  8. 8.74歳男性。ターイフ市の住民で、4月28日から別の病気で入院中、5月9日に発症しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。彼には基礎疾患がありました。彼はMERS-CoV感染が検査確認された患者(5月17日報告 No.3)と同室の入院で、同じ医療従事者に担当されていました。発症までの14日間に他に既知のリスクファクターとの接触はありません。彼は5月10日に亡くなりました。
  9. 9.30歳女性。フフーフ市の町の住民で、5月4日に発症し、同日入院しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。患者に基礎疾患はありません。彼女はMERS-CoV感染が検査確認された患者2人(5月17日報告 No. 4、4月29日報告No. 2)との接触機会がありました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  10. 10.59歳女性。フフーフ市の住民で、5月4日に発症し、同日入院しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。彼女はMERS-CoV感染が検査確認された患者2人(5月17日報告 No. 4、4月29日報告No. 2)との接触機会がありました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  11. 11.24歳女性。フフーフ市の住民で、5月4日に発症し、同日入院しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。彼女はMERS-CoV感染が検査確認された患者2人(5月17日報告 No. 4、4月29日報告No. 2)との接触機会がありました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。
  12. 12.30歳男性。フフーフ市の住民で、5月4日に発症し、同日入院しました。5月10日に鼻腔スワブ検査で陽性の反応がでました。彼はMERS-CoV感染が検査確認された患者2人(5月17日報告 No. 4、4月29日報告No. 2)との接触機会がありました。発症までの14日間に他に知られているリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。

これらの症例に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

サウジアラビアのIHR担当者は、以前に報告した患者2人の死亡も報告しました。死亡した患者2人は5月17日報告No.4と4月29日報告No.2です。

世界的には、WHOは、1,135人の検査確定したMERS-CoV感染の患者報告と、少なくとも427人の関連する死亡報告を受けています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、あらゆる異常を示す症例についても注意深く調査することを勧めています。

医療施設でMERS-CoVが拡がる可能性を下げるには、感染予防および管理方法が重要です。

他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うべきです。また、MERS-CoV感染の可能性がある症例、あるいは確定診断された症例の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣は守るべきものです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、この事象に関連して入国時に特別な検査を行うことを勧めてはいません。また、現在、旅行あるいは貿易を規制することも推奨していません。

出典