2015年06月17日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新37)

 2015年6月16日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、アラブ首長国連邦(UAE)の国立国際保健規約(IHR)担当者は6月15日に、新たな中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者1人を確認したことをWHOに報告しました。また、サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者は、6月9日から12日にかけて死亡者1人を含む新たな患者3人の発生を報告しました。

症例の詳細情報

UAE

 65歳男性。UAE国籍をもたない東部地域の住民で、5月31日に発症し、6月6日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。6月14日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。発症までの14日間に既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。この患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

サウジアラビア

  1. 1.77歳男性。フフーフ市の住民で、5月26日に発症しました。5月27日に、患者はMERS-CoV感染が集団発生した病院に入院しました。その時、MERS-CoVの検査のための検体が採取されていませんでした。患者は症状に対して治療が行われ、5月31日に退院しました。6月10日に、患者に再び症状が現れました。そのため、同日、別の病院に入院しました。患者には基礎疾患がありました。6月11日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者は6月11日に亡くなりました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  2. 2.60歳女性。フフーフ市の住民で、6月2日に発症し、8日に入院しました。患者には基礎疾患がありました。6月9日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。5月26日から6月7日までの間に、彼女は娘の見舞いのため、MERS-CoV感染の集団発生が続いている病院に行きました。娘は別の疾患で入院していました。娘はMERS-CoVに関連した症状を発症することはありませんでした。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室で隔離されています。
  3. 3.73歳男性。Turubah市の住民で、5月23日に発症し、6月1日にジッダの病院に入院しました。患者には基礎疾患がありました。6月8日にMERS-CoVの検査結果で陽性と判明しました。患者にラクダとの接触歴はありません。しかし、頻繁にヒツジとの接触があり、その生乳を飲んでいました。この他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触機会はありません。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。

 これらの患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

 サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者は、以前に報告したMERS-CoV患者2人の死亡をWHOに報告しました。患者は6月11日に報告されたNo. 1とNo. 5です。

 世界的には、WHOは、1,293人の検査確定したMERS-CoV感染の患者報告と、少なくとも458人の関連する死亡報告を受けています。

WHOからのアドバイス

 WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、あらゆる異常を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

 感染の予防と制御の対策には、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐことが重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うべきです。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

 今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

 食品に対する衛生習慣には注意深くあるべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

 WHOは、この事象に関連して入国時に特別な検査を行うことを勧めてはいません。また、現在、旅行あるいは貿易を規制することも推奨していません。

出典