2016年01月20日更新 ジカウイルス感染症に関する疫学と注意喚起

 2016年1月17日付で汎米保健機関(PAHO)より、アメリカ大陸での神経症候群、先天異常およびジカウイルス感染症に関する疫学情報が発表されました。そのうち、旅行者に関係する文章を抜粋しています。

概要
 ジカウイルスが伝播している地域で、先天異常、ギラン・バレー症候群、その他の神経症候群や自己免疫症候群が増加していることを踏まえ、汎米保健機関/世界保健機関(PAHO/ WHO)は、ジカウイルス感染患者の発見と確認への対応能力を確立および維持し、需要が増す可能性のある神経症候群への専門的な治療に対処するための医療施設を準備し、出産前の検診を強化すること、を加盟国に対して勧めています。また、加盟国が、効果的な媒介昆虫制御の戦略と国民へ注意喚起の周知を通じて、媒介する蚊の発生を減らす努力を継続することを促しています。

アメリカ大陸での発生状況
ジカウイルスの国内感染
 2014年2月から2016年1月17日までの間に、2015年から2016年にかけてアメリカ大陸の18の国と地域でジカウイルスの国内感染が確認されています。18の国と地域は、ブラジル、バルバドス、コロンビア、エクアドル、エルサルバドル、フランス領ギアナ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、マルティニーク、メキシコ、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、サンマルタン、スリナム、ベネズエラです。2015年11月から2016年1月までに、14の新たな国と地域でウイルスの局所における伝播が確認されました。

神経症候群の増加
ギラン・バレー症候群
 フランス領ポリネシア(2013-2014年流行)でのジカウイルス感染の流行中に、ジカウイルス感染症に一致した症状を発現した後で、患者274人が神経症候群または自己免疫症候群の症状を発現しました。このうち、42人はギラン・バレー症候群(GBS)に分類されました。このGBSに分類された42人のうち、24人(57%)が男性で、37人(88%)がジカウイルス感染症に一致した症状と所見を示していました。
 2015年7月には、バイーア州で最近ジカウイルスに感染した既往をもつ神経症候群の患者が確認されたことを、ブラジルが報告しました。
 また、2015年11月25日にオズワルドクルス財団Aggeu Magalhães研究センターは、224人のデング熱疑い患者でジカウイルス感染に対しても検査したところ10人でジカウイルスへの感染が発見されたことを報告しました。
 2016年1月に、エルサルバドルは、2015年12月初め以降、GBSの異常な増加を確認したことを報告しました。エルサルバドルでは毎月平均して14人(年間169人)のGBS患者を記録しています。しかし、2015年12月1日から2016年1月6日までには、46人のGBS患者が記録され、うち2人が死亡しました。25人(54%)が男性で、35人(76%)が30歳以上でした。患者は全員入院し、血漿交換療法または免疫グロブリン療法を受けました。死亡した患者のうち、1人には複数の慢性基礎疾患の既往がありました。患者情報が利用できた22人のうち、12人(54%)はGBS発症の7〜15日前に発疹を伴う発熱疾患に罹っていました。
 現在、アメリカの他の国々で類似の発生状況について調査が行われています。これらの知見では、ジカウイルスの流行とGBSの増加との間で時間的・空間的に一致する関連性がみられます。
 疾病原因や関連する危険因子はまだ十分に確立されていませんが、加盟国は、患者の異常な増加を検出し、神経学的異常をもつ患者に対し医療支援を行う保健サービスを準備するために、調査活動を始める必要があります。

その他の神経症候群
 フランス領ポリネシアでの流行 (2013-2014年)にも記載されているように、ジカウイルスはその他の神経症候群(髄膜炎、髄膜脳炎および脊髄炎)を引き起こす可能性があります。アメリカ大陸の各地域では、これまでにそのような症候群は報告されていませんが、患者の速やかな発見と適切な治療のための医療施設を備えておく必要があるため、医療サービスや開業医には起こりうることについて注意喚起しておく必要があります。

小頭症およびその他の先天異常の増加
 2015年10月に、ブラジルの国際保健規則(IHR)国家担当者(NFP)は、ブラジル北東部ペルナンブコ州の民間病院および公立病院で小頭症患者が異常に増加していることを通知しました。2016年疫学第1週までに、全国20州と連邦直轄区で46人の死亡者を含む3,530人の小頭症患者が記録されました。2010年から2014年までは、全国での年間小頭症患者の平均発生数は163人(標準偏差16.9)と記録されていました。図1は、小頭症患者数の比較分布(2010年と2014年との間の年平均患者数と2015年に登録された患者数)を示しています。

図1.2015- 2016年にジカウイルスの国内感染症が確認された国と地域(黄色)およびブラジル各州における2010-2014と2015年の小頭症の発生率の比較(紫円)。

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 2016年1月には、CTスキャンで脳の石灰化が検出され、胎内でジカウイルスに感染したとみられる小頭症の新生児3人での眼所見が報告されました。その新生児3人には、黄斑部が関わる片側の眼所見と中心窩反射の消失がありました。このうち1人では黄斑神経網膜萎縮の定義がよく当てはまる所見が認められました。

ジカウイルスの垂直感染の証拠
 2016年1月13日に、ブラジル保健省はリオ・グランデ・ド・ノルテ州の先天奇形4例でRT-PCR法によってジカウイルス・ゲノムを検出したことを報告しました。これらの症例は、流産2例と満期新生児2例(37週と42週)で、全員が24時間以内に死亡しました。流産した胎児と出産した新生児の両方の組織サンプルは、ジカウイルスに対しても免疫組織化学的検査が陽性でした。
 このことは、超音波検査で胎児が小頭症と診断されたパライバ州の妊婦2人の羊水中からRT-PCR法によってジカウイルス・ゲノムが検出されたことについて2015年12月1日に出された疫学における注意喚起に報告された証拠に追加されるものです。

患者の管理
ギラン・バレー症候群
 ギラン・バレー症候群(GBS)の治療は症状に合わせて支持的に行います。回復には、数週間または数ヶ月がかかり、ときには、(医師、看護師、理学療法師など)複合領域のチームによるリハビリテーションを必要とするような長期の身体障害を引き起こすことがあります。
 この病気の自己免疫の特性を考えると、急性期に取られる治療戦略は血漿交換および点滴による免疫グロブリン投与などの免疫療法です。コルチコステロイドの単独投与は、GBSからの回復を早めることも、長期的な結果への影響も、あまりありません。
 血漿交換療法の目的は、血液中から抗体を除去して、人工血漿(通常はアルブミン)に置き換えることです。血漿交換は、この病気の発症から7-14日以内に開始したときに最も有効です。
 免疫グロブリンの点滴投与は、血漿交換での回復を早めるとともに、手技がはるかに簡単です。この療法も、症状の発現から2週間以内に開始する必要があります。
 医学的に施しうる最善・最高の治療を行ったとしても、約5%のギラン・バレー症候群の患者は、敗血症、肺塞栓症、原因不明の心停止などの合併症で死亡します。したがって、これらの合併症は、全身状態の頻繁なモニタリングや肺塞栓症の予防により、医療従事者によって早期に発見されなければなりません。患者は、可能であれば、継続的にモニタリングを行えて、あらゆる緊急時に直ちに対応できる集中治療室で治療されるべきです。

小頭症およびその他の先天異常
 小頭症の基準を満たした幼児は、神経障害およびその他に可能性のある異常の程度を決めるために、専門的な医療チームによって評価される必要があります。(検査および放射線医学による)さらなる調査が、その他の原因による小頭症の診断(例えば、先天梅毒、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ症など)や、これらで特別に必要とする治療を含めて、各国のプロトコルに則って行われるべきです。
 新生児の臨床評価の後には、これらの小頭症新生児の診療計画と臨床モニタリングが作成され、実行されることが必要です。
 現在入手できる情報から、ジカウイルスが関係する小頭症患者でその他に機能欠損が起こる可能性および存在は不明です。さらに、臨床評価を重視した新生児の臨床モニタリングを確実に行うことの必要性が強調されています。小頭症に特別な治療法はありません。

個々人による予防対策
 PAHOは、ジカウイルスが感染伝播している処に住んでいる又は旅行する人に、誰もが蚊に刺されることを避ける予防処置を執ることを勧めています。後者の女性には、旅行の前に医師や医療情報の提供者からの助言を得るために相談することを強く勧めています。
 また、PAHOは、このウイルスが流行している地域に住む妊娠女性と同様に、感染伝播が起きていない地域に住んでいるものの、ジカウイルスが流行している地域への旅行を計画している妊娠女性には、特に注意することを勧めています。
 PAHOの注意喚起は、アルボウイルスを感染伝播できる媒介蚊の棲息について具体的な疫学情報をもっているであろう加盟国が、それぞれに自国住民に関係する可能性のあるリスク要因と起こりうる結果を考慮しながら、ジカウイルス感染症について入手できる情報を使って国内での評価を行い、それに基づいて注意事項を決定することがもっとも好ましいとの認識の上にあります。

出典

PAHO. Epidemiological Update. 17 January 2016
Neurological syndrome, congenital anomalies, and Zika virus infection
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&task=doc_view&Itemid=270&gid=32878&lang=en