鳥インフルエンザA(H5N8)のヒト感染例報告-ロシア連邦

2021年2月18日、ロシア連邦政府の国際保健規則(National International Health Regulations(IHR))の担当窓口は、7名の臨床検体から鳥インフルエンザA(H5N8)が発見されたことをWHOに通知しました。これは、ヒトへの感染が確認された最初の鳥インフルエンザA(H5N8)症例の報告となりました。陽性の検体は、アストラハン州(Astrakhan Oblast)の養鶏場で発生した、鳥インフルエンザA(H5N8)のアウトブレイクの封じ込め作業に従事した養鶏場労働者から採取されました。7検体の検査結果の確定は、ロシア国立ウイルス学・生物工学研究センター(WHO指定H5レファレンスラボラトリー)で行われました。7名の陽性症例の年齢は29歳から60歳で、そのうち5名が女性でした。
 
2020年12月3日から12月11日までの間に、養鶏場の採卵用鶏90万羽のうち、合計10万1,000羽が死亡しました。この高い死亡率がきっかけとなり、迅速な現地調査が開始されました。死亡した鶏から検体が採取され、一例目の鳥インフルエンザA(H5N8)が、ロシアの地方獣医学研究施設の検査で確認されました。12月11日、国際獣疫事務局(OIE)及びウラジミールの連邦動物衛生センター(FGBI-ARRIAH) が、アウトブレイクの発生を確定しました。感染拡大の防止対策が速やかに開始されましたが、現地の養鶏場が広大であったため数日間を要しました。
 
養鶏場の対策に加えて、7名の陽性症例から血清学的検査のために、急性期および回復期の血清が採取されました。検査結果は、最近の感染が示唆されました。
 
数週間の経過観察期間中において、7症例は全て無症状で経過しました。同期間中にフォローアップの鼻咽頭検査が行われ、陰性が確認されました。健康監視されていた養鶏場労働者とその家族、他の陽性症例との濃厚接触者において、いずれも臨床所見は報告されませんでした。
 
アストラハンの養鶏場で分離されたウイルスは、鳥インフルエンザA(H5亜型)系統分類2.3.4.4bに属していました。2020年、鳥インフルエンザA(H5N8)は、ブルガリア、チェコ共和国、エジプト、ドイツ、ハンガリー、イラク、日本、カザフスタン、オランダ、ポーランド、ルーマニア、イギリス及びロシア連邦の養鶏又は野鳥においても報告されました。

WHOのリスク評価

2004年以降、鳥インフルエンザA(H5亜型)ウイルスは、アジアからヨーロッパにかけて、野鳥を介して拡大しています。遺伝子系統2.3.4.4のH5ウイルスは、他の鳥インフルエンザウイルスと遺伝子再集合を起こすことが多く、その結果、鳥インフルエンザA(H5N1)、A(H5N2)、A(H5N3)、A(H5N5)、A(H5N6)、及びA(H5N8)の存在が確認されており、このうち数型が世界諸国の鳥類から発見されています。
 
ロシア連邦では、系統分類2.3.4.4の鳥インフルエンザA(H5N8)が、2014年に極東ロシア(Russian Far East)北部の野鳥から初めて分離されました。
 
前述のとおり、PCR陽性の7症例は、臨床的に無症状でした。また、全ての濃厚接触者が健康監視されましたが、臨床症状を呈した例も確認されませんでした。同じ系統(H5 系統2.3.4.4)の鳥インフルエンザウイルス感染は、感染した鳥に接触した人々において、2014年に中国で報告されています。鳥インフルエンザA(H5N8)ウイルスのヒト感染の可能性は、低いと考えられています。
  
リスクを完全に評価するためには、陽性症例の接触者間において、さらなる遺伝的・抗原的な特性評価と、セロコンバージョンに関する情報が必要となります。
  
ヒトに接種可能となり得る人獣共通感染インフルエンザのワクチンウイルス候補の開発は、WHO主導の元で行われており、インフルエンザパンデミックに備えるための世界的な戦略の全般において、重要な要素であり続けています。
  
現時点で入手可能な情報に基づくと、ヒト-ヒト感染のリスクは低い状況が続いています。

WHOからのアドバイス

これらの症例は、動物性および季節性ヒトインフルエンザの公衆衛生対策およびサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではなく、今後も継続して実施されるべきです。呼吸器感染は主に飛沫によって発生し、保護されていない咳やくしゃみによって伝播します。インフルエンザウイルスの近距離空気感染は、特に混雑した閉鎖空間で発生する可能性があります。手指の汚染、ウイルスの直接接種、感染した鳥への曝露、またはウイルスで汚染された物質や環境が感染源となる可能性があります。


鳥インフルエンザウイルスが地域内で循環している場合、病気の鳥の採取、感染した鳥、卵、ゴミの処理、汚染された敷地内の清掃など、リスクの高い特定の作業に従事する人々には、自分の身を守る方法、および個人用保護具(PPE)の適切な使用方法についての訓練を行う必要があります。これらの作業に従事する者は、家禽やその環境に最後に接触した日から 7 日間、登録され、地元の保健当局によって綿密に監視されなければなりません。

インフルエンザウイルスは常に進化し続けているため、WHOは、人(または動物)の健康に影響を及ぼす可能性のある循環型インフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のためのタイムリーなウイルス共有の重要性を強調し続けています。

すべての潜在的な新型インフルエンザのヒト感染症の徹底した調査が必要です。また、国際保健規則(IHR)の下では、パンデミックを引き起こす可能性のある新型インフルエンザAの亜型に起因する最近の人への感染が実験室で確認された場合、IHRの締約国は直ちにIHRの下で通知を必要とする疾患の症例定義を参考にして、WHOに通知する必要があります。疾病の証拠は必要ありません。

ヒトへの感染が確認された、または疑われる場合には、確認検査の結果を待っている間にも、動物への曝露履歴、旅行履歴、接触者の追跡などの徹底的な疫学的調査を行うべきです。疫学的調査には、新型ウイルスの人から人への感染のシグナルとなりうる異常な呼吸器症例を早期に特定することが含まれるべきです。症例が発生した時間と場所から採取した臨床サンプルを検査し、更なる特性評価のためにWHOのコラボレーションセンターに送るべきです。

鳥インフルエンザの発生が確認されている国への旅行者は、農場、生きた動物の市場での動物との接触、動物が屠殺されている可能性のある場所への立ち入り、動物の糞で汚染されていると思われる表面への接触を避けるべきです。また、旅行者は石鹸と水で頻繁に手を洗う必要があります。旅行者は、良好な食品の安全性と食品衛生を守るべきです。

現在入手可能な情報に基づき、WHOは、入国地点での特別な旅行者審査や、ロシア連邦との旅行および、または貿易の制限を行わないようアドバイスしています。

出典

Human infection with avian influenza A (H5N8) - the Russian Federation
Disease Outbreak News: Update 26 February 2021
https://www.who.int/csr/don/26-feb-2021-influenza-a-russian-federation/en/