クリミア・コンゴ出血熱-ヨーロッパ

Eurosurveillance, Volume15, Issue 10 2010年3月11日

ヨーロッパにおけるクリミア・コンゴ出血熱:現在の状況では備えが必要

はじめに

クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)は急性で、高い感染性があるウイルス性の人畜共通感染症で、主にイボマダニ(Hyalomma)属のダニによって媒介されます。しかし、ウイルス血症を起こしている宿主の血液や組織に直接接触することによっても感染します。人がCCHFに感染すると、突然の高熱、倦怠感、強い頭痛、胃腸症状などが起こります。典型的な出血は疾患経過の後期に起こり、文献的には10%~50%の死亡率を示します。この疾患の流行は、アフリカ、アジア、中東および東ヨーロッパにみられます。主な動物宿主には家畜牛、羊、ヤギ、家兎などがあります。疾患の死亡率が高く、治療や予防、そして制御が困難であることから、CCHFは欧州連合 (EU) 内では、直ちに公衆衛生機関に報告しなければならない疾患です。また、CCHFウイルスは改正国際保健規則(IHR2005)に基づき、リスク評価を決定するアルゴリズムの実行、および国際保健機関 (WHO) への通知を要する病原体のリストにあがっています。

ヨーロッパでのCCHFの流行は、現在のところ、ブルガリアでの流行に留まっていますが、この10年間に、アルバニア、コソボ、トルコ、ウクライナ、また、ロシア連邦の南西地域といった地域や国で流行(アウトブレイク)があったことが記録されています。2008年6月にギリシャで第1例目の報告がありました。これに対して、ヨーロッパにおけるCCHFの状況の見直し、ヨーロッパ全土で体勢と対応を強化するのに必要な介入措置について助言を求めるために、ヨーロッパ疾病予防管理センターは複数のCCHFの専門家を招聘しました。

ヨーロッパの状況:

CCHFはブルガリアで1950年代から流行しています。1954年から1955年にかけて大きなアウトブレイクがみられ、487人の患者が報告されました。この時は主にブルガリア北東部のShumen地区で発生しました。ブルガリアでは、1953年から 2008年までに1568名のCCHF症例が報告され、全体での致死率は17%でした。流行はShumen、 Razgrad、Veliko TarnovoPlovdiv、PazardjikHaskovo、Kardjali、Bourgasの近隣に限られていました。しかし、最近までCCHFの流行の程度は低いだろうと考えられていたギリシャ国境近くのBlagoevgrad県南西部のGotse Delchevで、2008年4月に6人の可能性例が発生するというアウトブレイクが起こりました。CCHFのアウトブレイクは、この10年間で、 2001年と2003年にアルバニアで、2001年にコソボでみられました。

トルコでは、2002年に最初の症候性CCHFの感染者が認められましたが、1970年代以来、血清学的には人畜共通感染症としてのCCHFウイルスの感染環が形成されているという証拠があり、証拠として確実ではないものの、人の集団感染が起きていることがわかっています(1100名の調査で2.4%)。 2003年からトルコでは大規模な感染がみられており、報告患者数の増加とともに死亡例も報告されています (2002年は患者17人、死亡者0人。2003年は患者133人、死亡者6人。 2004年は患者249人、死亡者13人。 2005年は患者266人、死亡者13人。2006年は患者438人、死亡者27人。2007年は患者713人、死亡33人。2008年は患者1315 人、死亡者63人。2009年は患者1300人、死亡者62人。) 。トルコでは。検査室診断で確定したCCHF患者数が全体で4400人を超えており、主としてAnatolia北中央部、北東部の田園地域の住民に生じています。CCHFの流行地域の中では、流行性の高い地域があり、そこでは住民の5人に1人、ダニの刺咬を受けた住民の2人に1人がCCHFウイルスに対する抗体があります。2003年から2006年にかけてトルコから収集した、人工衛星による気候データおよび植生についての高解像度画像から、CCHFが高頻度に報告されている地域は、明らかにイボマダニに適した気候であり、農地が分断された地形になっていることが示されました。

ギリシャでは、1981年から1988年に、全国の3388名の田園地帯の住民に対する血清学調査を行われ、CCHFウイルスに対する抗体保有率は1%であることがわかりました。1982年以降、400人以上のCCHFの臨床症状に合致する人に対して検査を行い、結果は陰性でした。このため、1%の抗体保有率は病原性のないAP-92株によるもので、病原性のあるBalkan CCHFウイルス株によるものではないとされました。CCHFに対する検査を行った症例の多くが、最終的に、腎症候性出血熱 (HFRS)、レプトスピラ症、リケッチア感染症と診断されました。他の診断では髄膜炎菌性髄膜炎や特定できない細菌性敗血症とされたものもありました。 CCHFと最初にギリシャで診断された患者が報告されたのは2008年の6月で、ギリシャ北東部のKomotini市の近くでダニに咬まれた、農業に携わっていた女性でした。この町はブルガリアの集団発生例が起こった地点から数キロメートルの範囲にありました。現在、ギリシャ北部では地域住民と動物を対象に、CCHFウイルスに対する血清学的、疫学的研究が行われています。

ロシアでは、およそ27年間、CCHFの患者はみられなかったのですが、1999年に南西部でCCHFが再発しました。アウトブレイクはAstrakhan県、Rostov県、Volgograd県、Krasnodar地域、Stavropol地域、Kalmykia共和国、Dagestan共和国、Ingushetia共和国で報告されました。2000年から2009年にかけてロシア連邦では 1300人以上の患者が臨床的に診断され、2002年から2007年の期間での全体の致死率は3.2%でした。ほとんどの患者は連邦の南境界地域の農村地帯で起こっていました。最も登録された患者数の多かった地域は、Stavropol地域、Kalmykia共和国、Rostov県であり、そこでのCCHFの発生率は、2007年は1.7、2008年は10.1、2009年は 0.7 でした。2008年だけは、Stavropol地域での発生率は1.3倍に増加し、この地域の10年間の発生率として最高となりました。2009年には CCHF患者はグルジア、カザフスタン、タジキスタン、イラン、パキスタンでも報告されました。

南東ヨーロッパおよびその近隣諸国でのCCHFの出現や再出現は、ダニや宿主、ひいてはCCHFの疫学に影響を与える、気候や土地利用法、農業様式、狩猟活動、家畜の移動などの生態学的な変化によって生じたものと考えられます。CCHFの地理分布は、イボマダニの分布に一致します。H.marginatumは、ヨーロッパでCCHFウィルスを媒介する主なベクターですが、アルバニア、ブルガリア、キプロス、フランス、ギリシャ、イタリア、コソボ、モルダヴィア、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、セルビア、スペイン、トルコ、ウクライナでみられます。このダニは、2006年に初めてオランダと南ドイツで検出されました。このベクターの分布が広汎であること、その寄生先になる動物が膨大な数であること、地中海に接するいくつかのヨーロッパ諸国で、気候や生態学的な条件が適していることを考慮すると、CCHF発生が将来的に拡大する可能性はあると考えられます。異なるダニが分布している地域でさまざまな条件で気候モデルを研究したところ、地中海地域での気温の上昇と降雨の減少は、H.marginatumに適した生息地域を著しく増加させ、北側へ拡大させ、現在の地理分布の境界地域でもっとも影響が大きいことが示されました。

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感染症別情報:クリミア・コンゴ出血熱