セントルイス脳炎の発生-アルゼンチン
PAHO Epidemiological Alert(2010年3月31日)
流行警報
セントルイス脳炎の新確定診断症例がアルゼンチン首都およびブエノスアイレス州にウイルス流行のリスク
アルゼンチン厚生省は、セントルイス脳炎 (SLE) の新症例を確認しました。2010年3月29日まで、この国の首都およびブエノスアイレス州で、SLE感染が4件確定診断されたとの報告がありました。SLEウイルスは以前この国の中心地域(主にCórdoba州とEntre Ríos州)でアウトブレイクを起こしたことがありますが、ブエノスアイレスで検出されたのはこれが初めてのこととなります。1975年にアメリカ合衆国のオハイオおよびミシシッピ川流域で、地域の約2000人がこの疾患の神経侵攻性の病型に罹患しましたが、これによって示されたように、このウイルスは流行する可能性があります。
この事態に直面して、また、アルゼンチンで発生した症例を検証することによって、媒介動物の制御戦略の指針とするために、熱性症候群および神経症状を示す熱性症候群のサーベーランスを強化する必要性が生じました。
現在の状況
2010年3月1日より現在まで、アルゼンチン厚生省は全国で43の症例を報告しました。
- *そのうち4例は確定診断されました。
- *9例はほぼ確実とされました。
- *17例は疑い症例で現在検査中です。
- *13例は否定されました。
確定診断例の中で1例がブエノスアイレス市の居住者で、3例はブエノスアイレス州の居住者です。
ブエノスアイレス市およびブエノスアイレス州の全症例について入手可能な情報によると、13例はデング熱の疑いとして報告されており、6例が神経系の合併症(髄膜脳炎)を呈しました。
これらの症例の平均年齢は34歳(範囲12歳から72歳)で、症例の79%が男性でした。
ブエノスアイレス市の症例の地理的分布について、確定診断例および確実な症例は、市の南部および南東部の5つのコミューンに位置することが確認されました。ブエノスアイレス州の症例については南部および北部に位置することが確認されました。
アルゼンチンによって行われた調査、予防および制御活動には次のようなものがあります。疑い症例を隔離しベクターを制御する活動。症例として報告された人すべてについて、同一世帯で暮らしていた人からサンプルをとる。自治体職員およびテクニシャンにより、発熱症例の洗い出しのためのフィールドワークを行う。流行警報を発令することでサーベーランスを強化する。
勧奨事項
- a.疫学的サーベーランスと調査活動を強化してください
熱性症候群や神経症状を呈する熱性症候群のサーベーランスを強化し、ベクター制御のためにどのような戦略をとるべきかについての指標となるように、発見症例の疫学的調査を行ってください。 - b.予防および制御対策をとり、その影響を評価してください。
ベクターに暴露されるリスクを減らすため、確実に広範囲で個人が防御行動をとるようにさせてください。また、必要とされるベクター制御対策をとって下さい。
セントルイス脳炎
このウイルスは中枢神経系を侵す、感染期間が限定性の、急性ウイルス性疾患のグループに属します。
- 病原体:
- セントルイス脳炎ウイルスはフラビウイルス属、フラビウイルス科に属します。
- 伝播:
- SLEウイルスは蚊から鳥、鳥から蚊という感染サイクルを示し、家禽や野鳥およびイエカ (Culex sp.) 種の蚊を感染サイクルに含んでいます。ヒトや家畜は感染した蚊から刺咬されることで感染する可能性がありますが、感染伝播を持続させるのに有効な宿主ではありません。
- 疫学および地理分布:
- SLEの流行がある地域の居住者やそこへの訪問者は、この疾患に感染する危険性があります。このウイルスはアメリカ大陸全体に分布しており、最近の発生はアルゼンチンで2005年から2006年に報告されました。
- 潜伏期間:
- 5日から15日の範囲
- 症候:
- 臨床症状をきたすSLE症例は1%未満です。重症感染症例は突然起きる頭痛、高熱、めまい感、嘔気、倦怠を呈します。大多数の症例は自然に回復します。しかし、症例によっては、項部硬直、錯乱、失見当識、振戦、混迷、さらには昏睡にいたるまでの、中枢神経系の感染徴候を呈する場合があります。この疾患に罹患した高齢者のほとんど90%までもが脳炎を発症します。致死率は5%から15%で、年齢と共に増加します。
- 治療:
- ワクチンや特異的な抗ウイルス治療はありません。臨床症状をきたしている症例では、適切な支持療法を行わなければなりません。
- 検査診断:
- 診断法には血清学的診断、ウイルス分離、PCRなどがありますが、専門の試験室でのみ行われています。
- 予防:
- 予防法は個人的な防護に重きを置き、蚊の忌避剤をつける、蚊が繁殖する場所を破壊する、蚊帳(スクリーン)を使って生活空間を保護するなどを行います。イエカ種の蚊の密度が高い地域では、薬品によるベクターの制御を考慮しなければなりません。
居住州、居住地によるセントルイス脳炎の確定診断例、確実例、疑診例アルゼンチン、2010年1月1日~3月29日
州 | 確定診断例 | 確実例 | 疑診例(調査調) |
---|---|---|---|
Buenos Aires(Bs As), greater | 3 | - | - |
Metropolitan area | - | - | - |
Ciudad de Bs As, city proper | 1 | 5 | 1 |
Entre Rios | - | 1 | 6 |
Santa Fe | - | 2 | 2 |
Chaco | - | - | 2 |
Catamarca | - | - | 1 |
Cordoba | - | 1 | 4 |
Corrientes | - | - | 1 |
Total | 4 | 9 | 17 |