パンデミックインフルエンザ(H1N1)2009での集団学童予防接種で認められた集団心因性疾患の報告(台湾、2009年11月~2010年1月)

Eurosurveillance, Volume15, Issue 21 2010年5月27日

今週の更新情報

2009年11月16日から2010年1月22日の期間、台湾で全国的に行われたパンデミックインフルエンザ(H1N1)2009に対する学童予防接種施行後に認められた集団心因性疾患(MPIV)に関して、23集団の調査を行いました。350人の有症状者(68%が女性)が認められ、年齢の中央値は13歳でした。メディアがこれらの出来事を頻回に報道したため、パンデミックインフルエンザワクチンの安全性に対する国民の関心が非常に高まりました。将来的には、各国政府はパンデミック準備対策の計画を立てる際にMPIVに対する調査とコミュニュケーション対策を講じる必要があると考えます。

2009パンデミックインフルエンザA(H1N1)は学校内で伝播しやすく、数学的モデルによると流行を抑えるには70%の学童にワクチン接種をする必要があるようです。台湾では学童(1-12年生)が単価のパンデミックインフルエンザワクチンの優先接種対象です。2009年11月16日、政府はパンデミックインフルエンザに対する全国的な学童インフルエンザ予防接種プログラム(NISIV)を開始しました。この際、アジュバントを含まない不活化ワクチン(Adimmune Corporation, Taichung, Taiwan)が用いられています。9歳以下は(1-3年生)は、4週間間隔で2回接種を行い、10歳以上(4年生以上)は1回接種としています。

予防接種後によく見られる副反応

2009年11月23日、ワクチン接種を日中に受けた12-15歳の692人の学生のうち46人(7%)でめまい、吐気、脱力感などの副反応が接種後2時間以内に認められたと政府が確認しました。生徒たちは救急車で近くの病院へ搬送され、一連の症状はワクチンの副反応と見なされました。46人の発症者(26人が女性)は診察を受け、精密検査を受けましたが報告された症状を引き起こすような器質的な原因は認められませんでした。45人は自然によくなり、12時間以内に退院しました。また、残る1人も翌日には退院となりました。公衆衛生機関がワクチン接種のプロセスを見直しましたが、推奨される手順は全て守られていました。最終的にはこの事象は集団心因性疾患(MPIV)であったと結論づけられました。

NISIVの施行をしていくに際して安全性に対する関心が高まることが想定されるので、MPIVを確定するための調査に力をいれ、その可能性のある集団を調査しました。また、パンデミックインフルエンザの活用データを解析し学童にワクチン接種をする際のMPIVの影響を評価しています。

方法

ワクチン接種後の集団心因性疾患の強化サーベイランス

2009年11月23日以降、各日、MPIVの可能性のある集団を以下の2つの情報源を元に後ろ向きや前向きに同定していきました。その情報源とは

  1. 1.the Taiwan Centers for Disease Control及びthe Taiwan Food and Drug Administrationが共同運営するサーベイランスシステムによる予防接種後副反応(AEFI)の報告。
  2. 2.地域医療システムと強調している保健省のwebシステムであるthe Emergency Medical Management Systemからのインシデントレポートです。
    MPIVの集団の定義としては器質性疾患を疑う一連の症状があるにも関わらず明らかな原因を特定できないこと、同じ日に2人以上の子供たちが接種を同じ学校で受けていること、パンデミックインフルエンザワクチンが一連の症状を引き起こしたとその集団内で信じられていることなどが挙げられます。
    私たちは地域の保健責任者に疾患発生時の細かい情報や検査の結果、診断や治療内容に関する情報を求めました。
    また、各集団で使われたパンデミックインフルエンザワクチンの在庫や使用状況に関して再調査しました。
    この強化サーベイランスは冬季学期の終わる2010年1月22日まで行いました。

パンデミックインフルエンザA(H1N1)単価ワクチンの接種率のモニタリング

The National Influenza Vaccine Information System(IVIS)はパンデミックインフルエンザの予防接種を行っている全ての機関から毎日報告を受けています。2009年11月16日から2010年1月22日まで、2つの尺度で学童のパンデミックインフルエンザ予防接種施行率を計算しています

  1. 1.全ての生徒の1回またはそれ以上の回の領収書 (dose1)
  2. 2.1-3年生のうち1回目接種済みの生徒の2回目の接種の領収書(dose2)。

結果

2009年11月16日から2010年1月22日の間、NISIVプログラムに関連して23のMPIVの集団が報告、調査されました(Figure)。ここには350人の生徒が含まれます。各集団には2-46人の発症者を認めています(中央値 11人)。これらの集団で共通する特徴として、急激な発症、器質的疾患を疑う理学的・検査的所見の欠如、低重症度、同じワクチンを使用した他校で自発的な症状の出現がなかったことなどが挙げられます。350人の発症者の年齢は6-16歳で中央値が13歳、237人(68%)が女性でした。10の集団で15人以上の発症者を含んでいたようです。ワクチン接種をした全生徒9115人のうち発症率は3%(1-17%)となりました(Table)。

2010年1月22日時点で1回以上ワクチン接種を受けた学童は75%に達していました。初回を2009年12月中旬以降に受けた学童はほとんどいませんでした(Figure)。646,379が初回接種後に2回目も必要とする1-3年生でしたが、313,144人(48%)しか2010年1月22日までに2回目を受けていませんでした。

考察

学校で似たようなMPIVの集団発生の報告はこれまでにもありますが、これは私たちが知る限り、若年者に集団予防接種を感染症流行下に施行した結果発生したであろうMPIVの初めての報告となります。これまでに報告された論文ではワクチンが集団心因性疾患の引き金と考えられた場合、そっけない応対は現実的に有害である可能性が示されていました。台湾では政府が有害事象のあった学校集団をすばやく調査し、新聞に適切に指示をだし、ワクチンがMPIVを引き起こしたのではなく、ワクチン接種のプロセスであることを一般に再確認しました。

2009年12月1日、学校関係者や地域の予防接種担当者に、MPIVの発生を極力抑え、ワクチン後に失神してけがをしないための方法を記載した手引書が渡されました。推奨されていることの中には、

  1. 1.注射を怖がらない生徒達に最初に接種する
  2. 2.応援のボランティアや教師を派遣し、生徒たちの不安を減らす努力をする
  3. 3.ワクチン接種後30分間以上は生徒達を座らせ観察する

などです。前述のような努力をした結果、MPIVの発生数は減り(2009年11月16日~30日の間は19例あったものが、2009年12月1日以降は4例に留まっています)、私たちはパンデミックインフルエンザに対する集団ワクチンキャンペーンを行うことができました。

2009年12月21日に1年生がワクチン接種後に死亡するということがあり、このことに加えて一連のMPIVにメディアの注目が集まり、台湾のパンデミックインフルエンザの安全性に国民の関心が向かいました。強化されたAEFIサーベイランスシステムによって政府は本当のワクチン反応と、偶発的な出来事、ワクチンではなく注射されることに対する恐怖や痛みの反応を見極め区別できるようになりました。しかしながら、若年者のMPIVの集団発生に対する地方の保健機関の準備不足のみではなく、全生徒に2カ月以内に接種しないといけない制限のため、保健関係者や公衆を教育し相談に応じる十分な時間がありません。AEFIには様々な原因があることを十分に伝えきれず、国内生産のワクチンに対する不信感が背景となってメディアがワクチンを集団副反応の原因であると非難させる機会を与えてしまいました。政府は当初、高いワクチン接種率の達成に成功しましたが、その後は低迷しています。また、2回目の接種が初回に比べて減っていて、パンデミックインフルエンザの安全性に対する信頼性が低下していることが示唆されています。このため、学童に最大の接種率を達成した時のNISIVプログラムの影響は評価できません。

将来的に公衆衛生機関はワクチン集団接種キャンペーン、特に若年者を対象とした場合MPIVが起こりうることをしっかりと認識するようにならないといけません。流行対策を計画する場合にはMPIVに関するサーベイランスとコミュニュケーション対策を組み込む必要があります。

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