アーテミシニン抵抗性熱帯性マラリアの予防と治療:海外旅行者のための更新情報

WHO(WER) 2010年5月21日

今週の更新情報

熱帯熱マラリアは熱帯や亜熱帯の90を超える国でみられる生命に関わる疾患で、このため2008年には863,000人が死亡していると推定されています。熱帯熱マラリアはアフリカ熱帯地方の流行地域では、支配的な地位を占めるマラリア原虫です。

流行地域で伝播が起きる季節の間、免疫のない旅行者が夕暮れから明け方の間に蚊による刺咬に暴露されると、マラリアに罹患するリスクが生じます。

旅行者がマラリアに罹患するリスクは国と国の間、ある国では地域間で差がみられます。

最新の状況

熱帯熱マラリアを抗マラリア薬で予防したり、治療したりすることは、この原虫が種々の抗マラリア薬にますます抵抗性になっているため、次第に困難になってきました。アーテミシニンとアーテミシニン誘導体は、多剤に耐性の熱帯熱マラリア株に対して使用される薬剤です。これらの薬剤は、WHOが推奨しているアーテミシニンを基剤とした併用治療(ACT:アーテミシニンもしくはその誘導体の一つとその他の種類の抗マラリア薬の一つもしくは複数)の主要な成分です。WHOは現在では合併症のないマラリアに対して、ACTの使用を標準的な第一線治療として推奨しています。

2008年にカンボジアとタイの国境沿いでアーテミシニン誘導体に耐性を持つマラリア原虫の存在が確認されました。この地域では、この二か国の多グループによる、アーテミシニン耐性マラリア封じ込め作戦が行われています。アーテミシニン耐性はメコン河沿いの両国の他の国境地域でも存在していることが疑われており、この地域について調査が行われています。南アメリカあるいはアフリカのいくつかの国で行われた前段階調査の報告では、アーテミシミン耐性が出現していることは確認されていません。

現在、ACTはアーテミシニン抵抗性原虫の感染の場合にも、臨床的治癒および血液期の原虫の除去をもたらす完全な効果があります。
タイ・カンボジア国境でアーテミシニン耐性が出現したことで、以下の東南アジア地域については、マラリアの治療に影響がでています。タイ・カンボジア国境、タイ・ミャンマー国境、ミャンマー東部、ベトナムBinh Phuc省。
この地域への旅行者が合併症のない熱帯熱マラリア感染に罹患したと診断し、その治療をする場合には、WHOが公表している「海外旅行と健康(ITH)2010」の中の標準勧奨治療(標準緊急治療についても記載されています。)にそって管理しなければなりません。

もし、感染した旅行者が帰国したり、世界の他の地域の土着流行国を訪問したりする場合、その地域に薬剤耐性の原虫を持ち込んでしまうリスクがあります。これはその地域のハマダラカにガメトサイトが感染することで生じます。ガメトサイトの発生とそのために生じる感染は以下のことで助長されます。

  1. 1.アーテミシニン寛容、あるいは耐性によってもたらされる原虫のクリアランス時間の延長。
  2. 2.治療の遅れの結果生じる高度のパラサイテミア。

薬剤耐性原虫を世界の他の土着流行地域に持ち込むリスクを減らすために、東南アジアの上記の地域を旅行したマラリア患者はすべて、迅速な診断を受け、効果的な治療を受けなければなりません。(海外旅行と健康2010に準拠)

プリマキンの一回投与を治療に加えることによって(0.75mg base/kg体重、成人最大投与量45mg base)、ガメトサイトの除去が促進されます。プリマキンはglucose-6-phosphate欠損症の患者で重篤な溶血をきたす可能性があり、妊娠女性や乳児では禁忌です。患者が蚊と接触する機会を減らす(それによって原虫のそれ以上の伝播リスクを減らす)方法が勧奨されます。このような方法には殺虫剤で処理された蚊帳を使用すること、夕暮れから明け方までは昆虫忌避剤を使用することなどがあります。

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