クリミア・コンゴ出血熱(Crimean Congo haemorrhagic fever: CCHF)

ECDC 2010年6月25日 英文

1.病原体

クリミア・コンゴ出血熱はアフリカ、南東ヨーロッパ、中東の一部に見られるウィルス感染症です。病原体はクリミア・コンゴ出血熱ウィルスで、ブニヤウイルス科のナイロウイルス属に属します。この疾患は人に重篤な病状を起こし、院内感染のリスクや高い致死率を示します。この疾患は媒介するカタダニ(hard tic:大多数がHyalomma属のダニ)の地理分布に関連して生じます。このウィルスの名前は1944年のクリミアで臨床症例がみられたこと、1956年にコンゴにおいて初めてウィルス分離されたことに関連して名付けられています。クリミア・コンゴ出血熱ウィルスの地理分布は、人に疾患を起こすダニ媒介性ウィルスの中で、最も広いことが知られています。ヨーロッパではアルバニア、ブルガリア、コソボ、トルコ、旧ソビエト連邦で症例報告があります。ギリシャでは2008年の夏に初めてクリミア・コンゴ出血熱感染が報告されました。

2.臨床的な特徴と続発症

通常3日から7日(範囲1日~13日)の潜伏期間の後に、発熱にともない、突然、頭痛、筋肉痛、背部痛、関節痛、および腹痛と嘔吐が見られるのが特徴です。これに引きつづいて、点状出血から粘膜および皮膚に見られる斑状出血に至るまで、様々な出血症状がみられます。出血場所として最もよくあるのは、鼻腔、消化器系、子宮、尿路系および気道系です。壊死性肝炎が起こることもあります。広範囲の斑状出血や静脈注射の針刺入部の止血困難な出血はよく見られる特徴です。生存者では、病気が始まってから10日から20日後に回復し始めます。潜伏期間はウィルス量や暴露経路などのいくつかの要因によって決まり、院内感染の場合にはしばしば短くなります。

3.伝播

保有宿主

クリミア・コンゴ出血熱ウィルスは動物間でダニから脊椎動物、脊椎動物からダニへとひそかに感染サイクルを保っています。動物の場合、このウィルスが疾患を引き起こすという証拠は得られていません。クリミア・コンゴ出血熱ウィルスの主なベクターはイボマダニ(Hyalomma)属のダニです。南ヨーロッパではHyalomma marginatumがクリミア・コンゴ出血熱の主なベクターです。ノウサギやハリネズミは、幼虫期のダニを増殖させる宿主となっています。ウシ、ヤギ、ヒツジなどの家畜はダニ成虫の宿主です。人はイボマダニにとって望ましい宿主ではなく、家畜に比べると刺咬を受ける頻度は低いです。ダニが感染した場合、一生を通じてクリミア・コンゴ出血熱ウィルスを伝播する可能性があります。北半球ではHyalomma marginatum は通常春(4月の始まり)に気温が上昇することにより活発化し、5月~9月の間の夏季に幼虫期の活性が高くなります。

感染経路

人は感染したダニに刺咬されることによって、もしくは感染した家畜の血液やその他の組織に触れることによって感染します。院内感染は、感染血液や感染体液への直接接触、汚染された医療機材や備品を介して起こります。

リスクグループ

主なリスクグループとして、流行地域の農業従事者、獣医、また屠殺業者などがあり、ほとんどの感染例は農業、酪農、屠殺作業に携わっている症例です。屠殺後の組織の酸性化でウィルスが不活化されるため、肉自体は感染源となりません。クリミア・コンゴ出血熱ウィルスは加熱によって死滅します。医療従事者は、看護に際して厳密なバリアがないような環境で、重篤な出血を起こしているクリミア・コンゴ出血熱患者を看護することがあるため、二番目に感染リスクの高いグループになります。感染地域で野外活動することはダニに暴露を受けるリスク要因となります。

4.予防手段

クリミア・コンゴ出血熱を予防し制御するための手段は、感染したダニによる暴露を避けたり、暴露を最小限にすることになります。DEETを含んだ虫忌避剤はダニを予防するために有効です。皮膚を保護する服を着ることと、ダニを早期に正しい方法で除去することが推奨されます。クリミア・コンゴ出血熱の院内感染の頻度は非常に高く、しばしば高い致死率を示すため、これ以外の出血熱の場合と同様に、しっかりとした予防法を保ちつつ看護するなど、入院症例に対しては全体として厳密な注意をする必要があります。マウスの脳由来の不活化ワクチンがブルガリアでは使用されていますが、広く入手できるわけではありません。また、効果と安全性については再評価する必要があります。これは、暴露後の予防のために使用される特異的人免疫グロブリンの場合も同様です。流行地域ではヤブの衛生環境を改善することにより、ダニの制御を図っています。家畜を屠殺したり、動物内感染のみられる地域から搬出したりする、10日~14日前に、ダニ殺虫剤を家畜に使うことによって、クリミア・コンゴ出血熱に感染したダニに対する制御効果が得られる可能性があります。

診断

クリミア・コンゴ出血熱の直接の診断は症状出現後10日~15日までではRT-PCR法によってウィルスゲノムを検出することで行います。血清学的特異的IgM抗体の検出は第5病日以降に可能となります。クリミア・コンゴ出血熱IgG抗体への血清転換あるいは4倍以上の抗体価上昇が診断の助けとなることもありますが、反応が生じる時期は遅れます。クリミア・コンゴ出血熱は非常に病原性の高い病原体であるため、検体の搬送や取り扱いには特別のプロトコルが必要です。

5.管理と治療

有効とされる特異的な抗ウィルス治療はクリミア・コンゴ出血熱にはないため、治療は血小板や新鮮凍結血漿や赤血球製剤の輸血など、支持的治療によります。経口あるいは静注によるリバビリン投与が功を奏したという報告がありますが、その効果は確定していません。回復した患者から採取した人免疫グロブリンの治療効果については再評価がなされなければなりません。

6.今後確定していかなければならない重要領域

特にヨーロッパで、クリミア・コンゴ出血熱ウィルスの伝播サイクルについて、さらに実地における研究が必要です。症例定義や検査室診断法、疾患報告や文書化様式などについては標準化されていません。世界保健機関はリバビリンによる治療を推奨しています。多くの報告がこの薬剤の有効性を示していますが、実際に効果があるのかどうかについてはさらに検証が必要です。人に対する安全で効果のあるワクチンはありません。新しい薬剤やワクチンに対する試験が可能な動物モデルはありません。

注:このデータ集に含まれる情報は主として一般的な情報提供を目的としたもので、それぞれの専門家の知識や医療専門家の判断に代わるものではないことをお断りします。

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